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同棲と書いて監禁と読む(プギャーもあるよう)

シスター「罪を告白します。懺悔させてください」

   神「ヤダ。今日は非番」


 皆さん、オハヨウゴザイマス。弥富更紗です。現在、早朝。拉致されてる真っ最中です。

(ば、ば、ば、ばばばばばばばばばッ……バカなァァァァァァァァッッッ!?)

 俺は心の中で力の限り叫んでみた。何故こうなったのかは、時間をさかのぼる事数分前。


 ピンポ~~ン♪


 呼び鈴が鳴った。午前5時半。ニートの生活リズムにおいて、絶対起きてはいけない時間だ。

「マジかよォ……何の罰ゲームだよォ」

 深夜に実動課から入った連絡──『浜松拉致事件』。その戦慄のせいで、余計な身の危険を感じていた弥富。そのためか、眠りにつけたのはほんの2、3時間前だというのに。

 ピンポ~~ン♪ ピンポ~~ン♪ ピンポ~~ン♪

 容赦の無い連打。

(フザけんなよォ。ガンジーが舌打ちしながら、ヘッドロックかけちまうぞォ……)

 ワケの分からんイラつきがこもり始め、周囲を見渡してみたが津軽の姿は無い。代わりにUBを使用する音が聞こえてくる。朝のシャワータイム中のようだ。

「はいはい、開けますよ(怒)」

 目一杯のストレスを滲ませつつ、玄関戸の前に立つ。

 カチャ……

 開く玄関戸。


「迎えに来ちゃったよ、オ兄チャン★」

「……マジで?」


 不測の事態が来ちゃいました。夏の朝一に降り注ぐ日光を背に受けながら、そこに立つのは『偽メイド』。アキバの街で奇襲をしかけ、弥富を拉致しようとした少女。額からちょっぴり汗を流しつつ、爽やかな営業スマイルを浮かべ、妹系メイドを演じているつもりらしい。弥富は尋常ならざる不吉な空気を感じ、つかんでいるドアノブを思いっ切り引っ張って──

 ――ガッ!

「だ~~ッめ。今日はアタシとデートしてもらうんだもんねぇ♪」

 前回はショートボブを蒼に染めていたが、今回はモスグリーンに染めて登場。ルージュも火炎のような色をしていて、本人のヤル気を表しているかのよう。ミニスカを両手で摘まんで持ち上げ、閉めようとするドアを足のつま先を滑り込ませて止めた。ムチッとした太ももが視界を占めるが、この状況下でナマ唾を飲んでるヒマはない。

「つ、津軽さ──」

 護衛役の名を叫ぼうとした瞬間、視界が真っ黒に染まった。頭の上からスッポリと、何か袋のような物を被せられたのだ。

「ちょっと荒っぽくしちゃうけどォ、我慢し て ね☆」

 そんな可愛らしい声が聞こえ、同時に手錠がガチャっとかけられる。そして、彼の体がグイッと上に持ち上げられた。袋を被せられて視認はできないが、おそらく、脇に抱きかかえられている。

(おいおいおいッ……なんつー腕力だよッ!)

 アキバの雑居ビルで津軽と戦闘になった際、重量のあるマネキンを、片手で軽々と振り回していた。外見は身長高めの女子高生くらいに見えるが、何かの競技の強化選手か?

「よっこらセックス」

 アパートの階段を素早く駆け下り、歩道に停めてあった原付に飛び乗る。

 グゥオン、グゥオン、ブオォォォォォォォォォォォッ!

 御近所さんがとっても迷惑なエンジン音がし、原付が発進。これが数分前に発生した出来事のあらましである。


「……弥富殿?」

 シャワーを終え、薄らと湯気を纏った津軽が、怪訝な顔になっている。ベッドに護衛対象者の姿は無く、代わりに玄関の土間に紙キレが一枚落ちていた。

(────ッ!?)

 その紙キレを何気なく拾い上げた津軽の顔色が、一変する。


 ~~~~ 無能なSPへ ~~~~

[弥富更紗は、この超絶現役女子高生・『ヤンデレコメット』がいただいちゃったッ! や~~い、や~~い、奪われてやんの~~(笑)m9プギャ――――ッ!]


(う、迂闊ッ……!)

 彼女はあまりの悔しさに服を着る事も忘れ、ケータイを手に取り、実動課へとつないだ。

<宇野だ。何事かね?>

 浜松誘拐の事後処理が続いていて、徹夜したのだろう。やたらと眠気のこもった声が届く。

「申し訳ありません。弥富更紗を拉致されました」

<なッ……何があったッ!?>

「油断してましたわ。しかし、犯人の目星はついております。拉致の目的は不明ですが、これより捜索に移りますわ」

<手掛かりがあるのか? こういった場合、犯人からの連絡を待ってから動くのが定石だ。まずは実動課に戻ってこい>

「……ッ、了解ですわ」

 今の津軽に分かっているのは、相手の背格好や人相くらい。目的や逃走経路が不明の現状、まずは実動課に帰還し、道路交通システムから、防犯カメラの映像を確認するのが先決だ。

(拘束した暁には、公共の場で辱めてやりますわ……必ずッ!)

 彼女はスーツに着替えながら、少々邪悪な面で歯を噛み鳴らした。



「た、大変やッ! 浜やんに続き、さっちんまで誘拐されたらしいでッ!」

「な、なんと……儂等のうかがい知れぬ所で、謀り事が展開しているようじゃ」

「せめてネットにログイン出来れば、めぼしい情報が得られるんですが」

 精密検査用のガラス水槽の中で、アバター化した出雲と土佐と郡山が、渋い顔して向かい合っている。水槽の外では、軍部の人間と管理局の役員が現場検証を行っている。セキュリティは正常に機能していたが、政府直轄の情報機関に侵入されたのは事実。真っ赤な顔で怒鳴り散らす管理局の役員の前には、真っ青な顔して萎れている責任者の姿。

「……最悪だ」

 口から魂がこぼれ落ちそうな声で一言呟いた。

「そのようじゃな」

 土佐が他人事のように言う。

「外国人による秘密工作が実行されただけでも大事件なのに、その対象が機密性の高い情報機関となれば、国際問題にも発展しかねん。このままでは私のクビはもちろん、管理局の役員までもが更迭されかねん……」

 宇野課長はすっかり血の気が引いて、立ち尽くす死体になりかけている。

「ボク達にできる事は?」

 郡山がネクタイを絞め直し、意味有りげに問う。

「さすがは禁魚。人間の機微というモノを必要以上に理解しているな」

 課長は自嘲気味に軽く鼻で笑い、水槽と繋がっている検査棟のサーバーを操作する。

「回線の制限を解除した。世界中のネット環境で泳げるぞ」

 禁魚にオリジナルP・D・Sを使用しているだけでも違法。今までは禁魚から情報を引き出すという名目で、管理局側も黙認していたが、あくまでオフラインの状態でのみの許可。たった今、オンラインとなった。

「ええンか? バレたらクビだけでは済まへンやろ?」

 ウエストのお肉をポヨンポヨンさせながら、出雲が心配してやる。

「襲撃者達の用意周到さや拉致の対象から察するに、何かとてつもなくマズイ事が起きる気がしてならない」

「手の空いていないお主に代わって、儂等に事件の真相を突き止めろと?」

 作務衣の裾をはたきながら、土佐が一瞥をくれる。

「そうだ。弥富更紗の拉致とも何だかの関連があるとすれば、敵はカナリ首尾良く事を進めている。猶予はあまり無いだろう」

「これも全て、Mr.キャリコという人物が関係しているんでしょうか?」

 郡山が課長と目を合わせた。

「分からん……その辺りもオマエ達で調査してもらいたい。宜しく頼む」

 彼は軽く頭を下げた。

「せやったら、早速注文があるンやけど。エージェントの人に連絡して欲しいンや」

「エージェント? ああ、津軽のことか」

「そうや。その人にな──」

 三匹の禁魚&実動課長の抗いが始まった。



 キッ──!

 30分近く走行していただろうか。偽メイド……『ヤンデレコメット』が運転する原付が、一軒の家の前で停まった。彼女はケータイを取り出してコールする。

<えらく早起きだな。何事だ?>

 中年男性の声だ。

「喜べ喜べッ、任務完了ォ。弥富更紗の拉致に、サクッと成功しちゃったもんねぇ」

<よし、でかしたッ! いいか、ここからが重要だ。こちらは別件で手一杯だ。身柄を引き取りに行くまで数日かかる。それまでそっちで監禁しておけ。決して逃げられるなよ>

「はいはい、ダイジョ~~ブ。任せなさいって。じゃあね、Mr.アルビノ」

 そう笑顔で返事をし、ケータイを切った。


 ――ドサッ

 身動きの取れない弥富の体が放り出される。

「ごめんね、手荒くしちゃって。アタシも依頼人(クライアント)からせっつかれててさあ。仕方ないんで強引にイッちゃったあ」

 偽メイドは愉快そうに話しながら、弥富の頭に被せた袋を外してやった。

(……ここドコ?)

 彼の視界に入ってきたのは、フローリングの部屋。床や壁のいたる所に、大きくてモフモフした金魚のヌイグルミが飾ってあり、壁紙はとっても目に優しくないドピンク色。辺りにはデスクトップや撮影機材なども見える。

「あ、あのさあ……ちょっと聴いていいかなあ?」

「あッ、エッチな質問ならまだダメだぞッ。そういうのはお互いをもっとよく知ってからじゃないとね」

「ここって君の家?」

「もっちろん」

「君っていくつ?」

「もうッ、男の人ってどーしてすぐ女の子に年齢を聞きたがるかなあッ!」

 軽く怒られた。

「え、あ……いや、まあ……言いたくないなら別に」

「現役バリバリ女子高生、超健康優良の17歳でぇぇぇぇぇッす!」

 腰に片手をあてて、もう片方の手で天井をビシッと指差した。

(うざッ!)

 言葉が目に見えて飛び出さんばかりの不愉快さだ。

「Mr.アルビノが回収に来るまで、ここが生活スペース。ゆっくりしていってね」

「これって完全に犯罪だろッ!? 『アルビノ』ってヤツが何なのか知らないけど、君もタダじゃ済まなくなるぞッ!」

「ウフフフ★ そこは心配御無用なんだよねぇ。Mr.アルビノがいつも警察機関に手を回してくれるから、アタシが前科持ちになるコトは無ァし」

「〝いつも〟って……こんな事を何度もやらかしてんのかッ!?」

「そうだよ。アタシってさあ、ネットのアンダーグラウンドじゃ、結構名の知れたアイドルなんだよねぇ。法に触れるのが怖くて実行に移せない、そんな欲求不満な人達から仕事を請け負うワケ。暴行、誘拐、泥棒、器物破損にRPGのレベル上げ──しっかりと実績つんでるんだから」

 そう言って前髪をファサッとかき上げ、ビシッと指差してくる。いちいちポーズをとらんと会話ができんらしい。

「そんな……はははッ、冗談だろ?」

 ドコの世界にそんな汚れ仕事を請け負う女子高生が居る?

 バキンッ!

「残念でした。冗談じゃないんだよね」

 弥富にかけられた手錠の鎖部分を、笑顔で引き千切ってみせた。

「で、ですよね~~(汗)」

 彼の頬がヒクヒクしちゃってる。

「アタシはこの腕力で仕事を捌いてきたわ。そこいらのDQN女子高生とは格が違うのだァ」

 コイツ、一応DQNとしての自覚があるらしい。

(マズイ。コレってもしかして……人生終了のお知らせか?)

 弥富のドキドキ監禁生活が始まってしまった。


 

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