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同じ失敗を繰り返すよう

バナナはオヤツッ! オッパイは乳製品ッ!

 ―――――――――― 翌朝 ――――――――――


「やったああああああッ! 捕まってない、俺の勝ちだッ!」

 掛け布団が宙を舞う。ドス黒い悪寒に一晩中うなされたが、カーテンの隙間から朝日が差し込み、自分の身の安全が確認できて起床。

(ということは……)

 バレていない。電薬管理局のサーバーに違法アクセスしたにも関わらず、国家暴力は踏み込んで来なかった。そして、この事実から以下の事が予測できる。

①友人の残したポータブルHDには、探知防止機能がついている。

               ↓

②友人は自分と同い年であるが、ずっとソフトウェアに精通している。

               ↓

③これで安全、且つ無料でP・D・Sを満喫できる。

               ↓

④父よ、母よ、アナタ達の息子はなんとかなりました。

「よし、こうなれば次を試してみるか」

 これこそまさに僥倖。楽しまなければ損だ。昨日の浜松とポチの件はエラーの一種だろう。そういうことにしておこう。

 弥富は『インカム・β』を装着し、今度は和金の水槽に『インカム・α』を取り付けた。

(コイツはオスみたいだな)

 和金のような丈夫で活発な品種から察するに、ビジュアル的には元気な小学生かフレッシュなスポーツマン? 

「……どちら様?」

 昨日とリアクションがいっしょ。脆弱(ガラス)なハートが砕け散らないよう、ある程度気を強く持っていたが、またオカシイのが目の前にいる。

「やあ、弥富さん。はじめまして。ボクは『郡山(こおりやま)』といいます。宜しくお願いしますね」

 スマイルだ。フォーマルスーツを着た20歳前後の青年がペコリと会釈した。

「あのさあ……随分とイメージとかけ離れているんだが」

「そうですか? ボクは和金として普通の禁魚のつもりですけど」

「にしてもさあ、どうしてまた『郡山』なんて人間みたいな名前なんだ?」

「禁魚はP・D・S専用に調整された生物ですので、こちらの都合じゃどうにも」

「あ、そのP・D・Sだよ。あのポータブルHDは特別な仕様なのか? 電薬管理局に探知されないなんて普通じゃないぞ」

「さあ……システムの詳細については何とも」

「じゃあ、別の質問」

 弥富はポータブルHDを凝視しながら息を呑んだ。

「友達の仇をとりたい。どうすればいい?」

 とんでもない事を言った。声が少し震えている。

「それはつまり、御友人の死は電薬管理局のせいだと?」

 郡山が目を細める。

「アイツはメールじゃなく手紙を書いてよこした。ネット上の動きを監視されていた可能性がある。しかも、自分の死を予測した内容の上に、ポータブルHDにはP・D・Sが記録されていた。関係が無いハズがない」

「なるほど。つまり、告訴して刑事裁判に持ち込み、悪の親玉を潰すワケですね?」

「いや、とりあえず……何かイヤガラセでもできればと」

 抵抗レベル低ッ。 

「俺って特にハッカーみたいな技術持ってないし。ネットサーフィンが好きなただの引きこもりだし……み、見るなッ! そんな目で見ないでッ!」

 弥富、苦悶。郡山の視線がとっても冷たい。

「それじゃあ、他の禁魚達と一緒に相談して、今後の身の振り方を考えましょう」

「そんな事できるのか?」

「簡単です。同じ水槽に禁魚同士を泳がせれば」

 弥富はそう言われてインカムを外し、四つの水槽を見渡す。

(よし、それじゃあ……)

 黒出目金を手ですくい、和金の水槽に移す。そして、再度インカムを装着。


「ぎゃああああああああああああああああああああああッッッ!!」

 弥富、大絶叫(ほえる)


「もっとイイ声で鳴きなッ、このクソガキがッ!」

「シバけよ。もっと激しく。そして、食っちゃえよ」

 ボンテージを纏った浜松が、天井から吊り下げられたポチを鞭でビシバシやってる。

「やめろよバカ共」

「やだッ、やぶからぼうに何事よッ!?」

「やぶからぼうはオメーだ。人の部屋をSMクラブにするんじゃねえよ」

 早速ムダなカロリーを消費する。

「やあ、浜松さん」

「ん? ああ、郡山じゃん。よく来たね。どうよ、アンタも?」

「はい。それでは遠慮なく」

 ビシッ! バシッ! 

「その調子だ。手首のスナップをきかせろ。心の変態を解放しろ」

 ポチは相変わらず無表情。棒読みで怖いし。

「ねえ、やめて。拘束具で縛られた幼児を、爽やかな笑顔でシバかないで」

 弥富の部屋は事件現場と化していた。

「で、何用よ?」

 鞭をブンブンさせながら浜松が飼い主に向き直る。

「いや、その前に自分の格好について言い訳はないのか? それともツッコミ待ちか?」

「うむ☆」 

(んん……?)

 一瞬変化した浜松の表情から、何か思い出しそうになった。昨夜は唐突な展開にあたふたしていたため、相手の顔をよく見ていなかったが、この少女の顔って……

「あッ、そうだよ、その顔ッ! 何で〝彼女〟と同じ顔してんだよッ!?」

 弥富が浜松をビシッと指差す。

「〝彼女〟というのはさっき言っていた御友人のことですね?」

 郡山が知的な瞳を光らせた。

「どういうことなんだ? 彼女とオマエは何か関係があるのか?」

 葬式で遺影を見て初めて知った友人の顔。今、ハッキリと思い出した。

「知らないよ。他人の空似でしょ」

「いいや、そのメガネといい髪型といい……そっくりだッ!」

 ここぞとばかりに弥富の鼻息が荒くなる。

「まあまあ。ボク達も自分自身の生態については、知らない事が多いものでして」

「じゃあ、何だったら答えられる?」

 どうも信用できない。話を逸らしてごまかそうとしているように感じる。

「例えばですね、どうしてP・D・Sの使用が電薬管理局に察知されないのか……とか」

「いや、待て。システムの詳細はよく知らないって言ってたろ?」

「はい、ポータブルHDのシステムに関しては。しかし、電薬管理局に察知されないのは、ソフトウェアの問題ではなく、ボク達『禁魚』の存在理由と関係しているんです」

「その通り。あたし等はP・D・Sを媒体としてはじめて機能する、生きた『防火壁(ファイアー・ウォール)』なんだよね」

 浜松が腰に手をあてて仁王立ちしている。

「おいおい……妄想族が来ちゃったよ」

 愕然とする弥富。

「現実を受け入れろよ。そして、シバけよ」

 ビシッ! バシッ!

 弥富が心の変態を解放中。

(マジかよ……)

 とりあえずポチをシバきあげ、彼は力無く床に腰を下ろした。頭の中でサスペンスなBGMが響いている。インカムを外し、一目散にベッドに跳び込んだ。なんだか寒い。もう夏なのに。人としての器がお猪口程度しかない弥富にとって、この現実は大き過ぎる。このまま何も考えず、布団を被っていればその内落ち着くだろう。うん、落ち着くに違いない。落ち着く……


「落ち着くかあああああああああああああああああああああああああッッッ!!」


 弥富、発狂。何か別の物に変身しそうな勢いで。


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