表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/39

使用上の注意はよく読めよう

はじめまして。本作品を描く作者は基本的に人でなしです。肉体の半分は変態でできています。もう半分は優しさでできてたハズなんですが、金に困ってヤフオクで売りました。そんな人間性を考慮した上で御覧ください。

※著しく心を病んでいる方は決して飼わないでください。


「……もう遅いよ」

 一枚の紙キレを持った青年が立ち尽くしながら呟く。テーブルの上で大皿に盛られた見知らぬ幼児が、見知らぬ少女に何かされてる。

「あの……どちら様?」

 ドキドキしながら聞いてみる。

「食事中でしょうがあッ!」

「食ってんのッ!?」

 怒られた。人の家で勝手に食事しているヤツに怒られた。


 ムシャムシャ、ガツガツ……


(食ってるよ……幼児を猟奇的に食っちゃってるよ)

 だが、幼児は別に痛がるワケでもなく、抵抗する様子もなく。

「さあ、食えよ。もっと食えよ。そして、みんな大きく育てばいい」

 しかも、無表情で投げやり気味に呟いてるし。

「美味いッ! こいつは天然モノだなッ!」

「ああ、そうだよ。ド天然だよ。オマエの血となり肉となってやるよ」

(え~~と、こんなハズでは……)

 青年はこの二人のやり取りに困惑していた。予想とあまりにもかけ離れていたから。いつの間にか、1LDKの狭い部屋にセーラー服のメガネ少女がいて、子供服(ワンピース)を着た幼児を食っている。コレは事件だよ。カニバリズムだよ。オマワリさん、こっちだよ。

「げふっ、ごちそうさまでした」

「はい、いただかれました」

 食事終了。食ったヤツが食われたヤツにペコリ。で、この部屋の主人である青年に向き直る。

「こんばんは、『浜松(はままつ)』だよ☆」

 笑顔で元気良く自己紹介された。

「いや……だからね、ドコのダレなの?」

「浜松。黒出目金のメス。2才と6ヶ月」

「マジで?」

 慌てて『取扱説明書』を手に取りペラペラとめくって目を通す。

(やっばああああああああああッッッい!)

 もんどりうつ青年――『弥富更紗(やとみさらさ)』。彼がこのような光景に遭遇してしまった経緯は、数日前にさかのぼる。


{弥富君へ  某月某日、私の葬式に御出席ください。二階の角に自室があります。天井裏にジュラルミンケースを隠してありますので、必ず回収してください。尚、ケースのキーコードは下記のアドレスから入手してください。巻き込んでしまうかもしれないけど、その時はゴメンナサイ}


 送られてきたDM。ネットで知り合った友達からだった。意味深な内容……いや、それ以前に葬式って!? 何かの悪戯か。しかし、現実に葬式は行われてケースは存在し、持参したラップトップでキーコードも入手した。中に入っていたのはポータブルHDが一つ。弥富はソレをアパートに持ち帰り、デスクトップにつなぐ。すると、自動でとあるサイトにリンクした。

【裏ペット販売所】――諸外国との取り決めにより禁制品となった生物を売りさばく、違法サイト。もちろん、普通に操作してもアクセスできるサイトではないが、勝手にサイトに注文を始めたのだ。唐突な出来事にただただ成り行きを静観するしかなかった。で、届いたのは四匹の『禁魚』と二つの専用インカム。

(おいおいおい、コレってまさか……『P・D・S』かッ!?)

 『P・D・S』――ネットを介し、愛玩動物と仮想空間で会話を楽しめるシステム。専用インカムを飼い主とペットが装着し、人語で簡単な会話ができる。知能の高い動物ほどより高度な会話ができ、一時期爆発的な売上を誇ったソフトだ。が、非常に高い中毒性を有するという事実が判明し、電脳麻薬を取り締まる情報機関から監視されるようになった。その後、ネット上には偽P・D・Sを扱う業者のサイトが泡のように湧き、そこからインストールされたソフトが次々とコピーされ、サイト管理者と使用者を含め大量の逮捕者を出した。現在では監視システムが常設され、よほどのハッカーかジャンキーでなければ手を出さなくなった。

 そして、今日……届いた禁魚を水槽に移し、ネットを介して専用インカムを装着した途端の出来事。


「ひいいいいッ! 『電薬管理局』のメインサーバーに自動アクセスしてるううううッ!」

 マズイ。人生のハルマゲドンが到来した。予測される今後の展開……監視システムに引っかかる → 住所を突き止められる → オマワリさんが踏み込んで来る → 痛くされる → 拘置所でロープの先を輪っかにする。

「ど、どどどどどどどどどどどどどどどうするッ!?」

「うっせえええええええええええええええッッッ!」

 ドゴッ!

「おふッ!?」

 ボディブローが入った。セーラー服の不審人物に躊躇なく暴力をふるわれた。

「さっきからやかましいよ。情緒不安定か?」

「な、何で殴るのッ!? しかも、リアルに痛いしッ!」

「ネットにつなげた本人が文句言うな。現実を目の前にして叫べ。自分は変態であると」

「何故にッ!?」

「あたしの服装は使用頻度の高い情報が反映されるの。つまりは更紗の趣味や性癖がバレたりする。オメデトウ」

「何がッ!? つーか、どうして俺の名前をッ!?」

「ネットに不可能はない。しかも、禁魚は頭が良いのだ。現実とアニメの区別がつくくらいにね」

 微妙な知能だ。

「禁魚? オマエが?」

「呆けるなよ。一目瞭然でしょ」

「いやいやいや、分かんねえって」

 オーバルタイプの赤縁メガネをかけたセーラー服少女。その本性が魚類だとはダレも思わんし。

(聞いていたのと全然違うぞ……)

 ネットの掲示板から察するに、犬や猫や鳥の可愛らしいアバターが現れて、簡単な会話が楽しめるって感じだったんだが。現在、目の前には人類百%がいる。しかも、えらく饒舌。

「P・D・Sをナメんなよ。夢も希望も無い社会の出来損ないに、心の安らぎを与えられるんだよ。高性能ばんざ~~い」

 エライ言われようだ。

「犬耳・猫耳の美少女キタ――――ッ! ……なんて妄想してたんだろ。いいから本性さらけ出しちゃえよ。期待に胸も股間も膨らませちゃえよ」

 幼児からは下ネタでツッコまれるし。

(と、とにかくだ……ここは落ち着いて大人の対応をしなければ)

 なんとか気を取り直す。

「ところでさあ、『浜松』っていうのは名前?」

「いかにも。ちなみに、この無表情で生意気な幼児は『ポチ』。更紗が水槽に入れた糸ミミズだったりする」

 エサまで擬人化されちゃってる。

「よ、宜しく」

 一応は友好的な態度を示そうと握手を求めてみた。

「調子にのるなニート。引きこもってないで外に出ろ。この童貞野郎」

「やめてッ! 初対面でいきなり負のステータスばらさないでッ!」

 弥富、悶える。

「ポチよ、『ニート』とは何かね?」

「生産性を無視して生き続ける社会の底辺」

 神様、助けてください。見知らぬ幼児に言葉責めを受けています。

(それにしても……)

 浜松は〝高性能〟と言っていたが、一見して年齢が反映されてないような気が。浜松の外見は中学生くらいだし、ポチにいたっては……まあ、糸ミミズの年齢なんぞ気にしたことはないが、見た目は5、6才くらいだ。

「あのさァ、オマエ達の容姿全般って何基準?」

「あたしの趣味よ」

「右に同じだぞ」

 高性能ばんざ~~い。

(どうする、俺?)

 偽P・D・Sの中には、性風俗を目的とした妄想タップリなヤツもあると聞くが、それは脳内麻薬の分泌と幻覚が成せる技。今、目の前で床に寝っ転がったり、食われた部分をウニョウニョと再生させてるヤツ等……ふてぶてしい空き巣にしか見えなくて、脳内麻薬なんぞ微塵も出ない。

「さて、更紗。何が知りたい?」

「え?」

 浜松がメガネをクイクイさせながら一瞥をくれる。

「どうして『電薬管理局』のサーバーにつながったのか。『禁魚』とはどんな生態なのか。どうして友人はこんなモノを自分に託したのか……とか」

 浜松は問題のポータブルHDを手に取って言った。弥富は軽く息を呑む。

「お、教えてくれ」

 思い切って聞いてみた。

「ゴメン。分んない」

 一蹴。弥富は装着していたインカムを静かに外す。浜松とポチの姿が一瞬にして消え、仮想空間が解除される。代わりに現れる四つの水槽。それぞれに禁魚が一匹ずつ泳いでいる。

「――イカンっ!」

 慌ててデスクトップからポータブルHDを引っこ抜き、モデムのケーブルも引っこ抜き、玄関の鍵をかけ、照明を消してベッドに潜り込みブ~ルブル。

(父よ、母よ、ゴメンナサイ……アナタ達の息子は前科持ちになりました)

 彼の憂鬱な日々が始まった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ