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鏡乱舞物語  作者: ニシキ
一章:昇華編
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第6話:白髪の男

 それにしても、とアルフは思う。


(まるで人が変わった様―――というより、完全に別人格だな。恐らくは鏡乱舞。例え私の目当てで無くとも乱舞とは悪しき存在。此処で滅ぼさなければ沢山の被害者が出る………)


 やはり殺さねばと、アルフは断定した。

 そして、カガミは焦っていた。反射(リフレクト)が通用しない事で、対抗手段を失ったからだ。


反射(リフレクト)の威力が封印前より落ちてる………)


本来なら、アルフと対等に戦えていた。しかし、封印の影響で力は衰えていた。投影(コピー)出来る物体も、その場にあるものしかない。


(いや………どうにかなるかも)


 投影(コピー)の素材はあった。

ガラクタや唯の石ころしか無いが、カガミにはそれを生かすポテンシャルがあったのだ。

 いつのまにか再生している左腕を使って、カガミは足元にある石を拾った。


「なんだ?石を私に投げつける気か?」


 この瞬間、カガミはある違和感を抱いた。


「………今の間に何故私を殺さない?十分、私は隙をみせた筈だ。それに、さっきの斬撃も。なんで追撃しない?」


 少し、考える様な間があった様に思えた。


「いつでも殺せるからだ。それに、それは貴様も同じだろう。何故私に隙をみせた?殺されたいというのか」


 これにカガミは確信したかの様に即答する。


「いや、違う。どっちとも。私は殺されたくないし、貴方は葛藤(かっとう)している事も分かっている。実際貴方は―――」


 最後まで言い終わるのをアルフは待てなかった。


「黙れェッ!!」


 そう言いながら、アルフは斬りかかる。

今までの斬撃と違って今回は乱暴で、感情的だった。

 アルフの正義は深層心理で揺らいでいた。乱舞は滅ぼすべきという憎悪と、この乱舞は違うかもしれないという期待で、心が分かれていたのだ。

 斬撃がカガミに迫る。しかし、カガミは焦らない。

それどころか余裕がある様にも見える。


「その手は読めてる」


 手の内で投影(コピー)した大量の石を、アルフに向かって撃ち出す。その威力は銃弾が如く。


「チッ」


 アルフは舌打ちをして、刀の軌道を変更する。

八割の石を斬り落とせたが、残りの二割がアルフの耳を掠め血を流させた。無論、致命傷ではない。


「まだ続けるかい?お互い不毛な勝負だと思うけど」


 実はカガミは限界が近かった。

人間の身体である事や封印解除直後であることも関係し、これ以上千剣破の身体で動けない。

 ここでアルフが戦闘続行を選べば、かなり厳しい状況となってしまう。

 しかし、アルフの選択に迷いは無かった。


「いや、私はまだッ―――」


 カガミは心の内で思考する。此処から生き残る方法を。


(流石に…万策尽きたか―――)


 刹那。場違いな呑気な声が轟く。


「はいはい、ストップストップ」


 反射的に二人は声が聞こえた方を向く。

 白髪が特徴的な童顔の男。

片目は髪に覆われていて見えない。もう一方の瞳は深い藍色。そして、頬には紋様も見受けられる。

草臥(くたび)れた服装を着衣しており、武器は持っていない。鋭いその眼差しは、酷く面倒臭そうに二人を見つめている。しかし、その威圧感は本物だ。


「何やってんだお前等。アルフも何でそんな唯の人間に刀を―――」


 男は目を細める。そしてカガミを見つめた。

 それから、白髪の男は千剣破の姿の中にいる“カガミ”の存在を正確に言い当ててみせた。


「いや、アンタ“鏡乱舞”か」


 カガミはこの男に対して警戒度を数段階上げた。この男の存在は危険と分かっていたからだ。


(この男はッ―――!)


 カガミの思考をアルフが邪魔をした。


「そうだ。人類に対して悪逆非道を尽くした乱舞だ!だから、今此処で、殺さなくてはならない!」


 アルフは自身の主張をひたすらに叫んだ。

これに対し、男は髪を掻きながら答える。


「んー………。わざわざ殺さなくてもいいと思うぜ?コイツはアルフの家族とは何も関係ない筈だ」


「どうしてそう断言出来る!?」


「そりゃあ―――」


 男が言い掛けたタイミングで、カガミが口を開いた。


「私は大昔に封印された。少なくとも数千年前からずっと。その間は何も行動は出来ない。失礼を承知の上で聞くけど、貴方の家族はいつ殺された?」


「―――十二年前、だな」


 だとすれば、鏡乱舞(カガミ)が無関係であることは明らかだ。そして少なくとも数千年は活動不可能。


「鏡乱舞の噂が無いとは思っていたが、まさか封印されていたとは…………」


 アルフの葛藤が強まるのが分かる。

しかし、アルフはまだ言葉を紡ごうとする。


「だとしても―――」


それをやはり面倒臭そうに、男が制止する。


「アンタ、今から自分が何を言おうとしてるか分かるか?―――自身の意見だけを突き通したい駄々。それか、偏見による唯の差別だ。それは正義じゃない」


 それを聞いてアルフは俯いて黙った。


(まぁ大方、乱舞は悪き存在とか言って斬りかかってたんだろうな―――)


その男は二人にひとつ提案をする。


「………よし。じゃあこの鏡乱舞、俺が借りてもいいか?」


「…え?」


 アルフは先程より勢いのない声を漏らす。


「まさか、乱舞を飼うつもりなのか…?」


「飼うって言ったら聞こえは悪いが。まぁ、暫くはそのつもりで考えてくれ」


 アルフは口を開いて何かを話そうとして、止めた。


「いや、え?私、飼われるの?いやまぁ、うん。え?」


 カガミは状況を飲み込めず混乱した。


「だから、飼うってのは、要は監視だ。一応、鏡乱舞の事に関しては俺に一任させてくれ」


 そう言ってその男はまた頭を掻いた。


「面倒だが、俺にも責任ってヤツがあるんだ」


「―――そうかい」


 カガミは半分諦め気味で納得した―――というより納得するしかなかった。カガミが千剣破の身体に、顕現出来るのに限界が近かったのだ。


(眠い………。今はもうただ寝たい…)


 そう思いながらカガミは眠気に倒れた。それを男が白髪を靡かせながら、ただ眺める。


「限界、か。しっかしまぁ―――」


 寝顔を眺めながらその男は僅かに笑って言った。


「鏡乱舞が動くとなると、時代は加速するぞ。頑張れば鏡乱舞が人類に貢献してくれるかもしれない」


「人類に?」


 信じられないという顔でアルフは問うた。


「ああ。鏡乱舞(コイツ)なら人類のために動いてくれる筈だ」


 世界の歯車は確かに動き始めた。男はそう語った。

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