第5話:正義
「があッ…!」
言葉にならない声を漏らし、その場に座り込む。
痛い。しかし、前回と違い出血はすぐ止まった。
これは“即時再生”による再生能力だろう。
そのお陰か激痛の最中ではあるが、絶叫は何とか抑えられた。
なんで俺は、腕を二回も失う経験をしなくちゃならない………。
目の前に居る人物、アルフに目を向ける。
その表情は到底人に向ける眼ではなかった。
恨みの籠った、罪人を見る様な目だった様に思えた。
「な……んで」
至極当然の疑問。その回答は、
「分からないのか…?貴様が化物に与する悪党だからに決まっているだろうがッ!」
という、怒りが込められたモノだった。
「………は?」
カガミさん…、一体コレは―――。
『………』
喋らない、か。
まぁ何となくヤバい存在なのは理解していた。封印されていた奴が、特別いい奴とは思えない。
とはいえ、俺はこの乱舞とかいう存在に命を救われたのだ。俺は向き合わなきゃいけないと思う。
「乱舞ってのは………一体何をしたんだよ」
そう問うと、先程とは違い、静かに、しかし刃を研ぎ澄ました様な声で答えが返ってきた。
「………乱舞は。乱舞は、私の家族を殺した。母と父と幼い妹だった。それは、残虐に。笑いながら」
彼女が一息付く間があった。
「だから、私は復讐を死んだ家族に誓った。必ず乱舞を殺すと」
「いや…、貴方の親を殺したのは、この乱舞じゃないかもしれないじゃないか!」
「………それはッ!………。私には関係無い…事だ。私は正義に尽くす。私は貴様諸共、切り刻む」
弁解は無理そうだ。と、なると俺は戦うしかないか。
『………私にやらせてくれ』
カガミさん、この人と因縁が何かがあるのか?
『いや、無いよ。私は彼女を知らない。彼女の家族も殺してない。ただ…一万年前の罪を思い出してね。贖罪ってワケじゃないけど…此処は私が出るべきだと思ったんだ』
………そうか。
何があったかは聞かない。
知っとくべき事なんだろうが、それは今じゃない。
ところで、交代なんか出来るの?
「多分。やったことないけど」
………不安になってきた。が、少し緊張が解れた気もした。
目の前に居るアルフを見据える。
ずっと切り掛かってこないと思っていたが、戦闘体制に入った俺を警戒しているようだ。
「じゃあ、カガミさん。後は頼んだ」
「………?」
アルフさんは俺の言葉に違和感を覚えた様だ。
既に俺の右腕は再生している。
左腕はまだ再生しきっていないが、まぁこの状態でカガミさんに託しても何とかなるだろう。
段々と意識が呆けてきた。
『ああ、任された』
そしてそのまま―――頭を後ろに引っ張られる様な感覚を覚えながら、俺の意識は暗転していった。
*
千剣破―――いや、カガミは立ち上がった。
外見に変化はない。見た目は唯の少年だ。
しかし、内面は既に鏡乱舞そのものだ。
左腕はもう再生し終わっていた。
その場に立つ者はたった二人。
「成功…かな?」
カガミがそう呟くと、アルフは困惑の顔を見せた。
「さっきから何を言っている?」
「ああ、こっちの話。気にしないで大丈夫」
両者とも動かない。互いに出方を窺っている。
「………ずるいなぁ。私は武器を持っていないんだ。一方的に武器を使って勝利だなんて、騎士道精神に欠けるだろ?ここは一旦、両者引き分けで手を―――」
アルフはカガミの首目掛けて刃を振った。
それを後退し、カガミは危機一髪で回避した。
「フェアな勝負は大好物だが、今回ばかりは話が違うからな。騎士道精神なんて捨てるさ」
「―――あっぶないなぁ!結構ギリギリだったよ!?」
そうは言っているが、カガミはかなり余裕持って回避出来ていた。
「………次で終わらせる」
アルフはそう言い放ち、刀に“何か”を纏わせる。
それは美しく神気を帯びている様に思えた。
「それは付与魔術かい?」
「少し違うな」
そう言った直後、アルフはカガミを仕留めに入った。
刀を首に向けて振り翳す。
(………速い。これは腕を盾にして―――)
カガミは腕を代償に時間稼ぎして、その間に反撃するつもりだった。
腕を首の横に構える。
しかし―――左腕がバターの様に斬られた。
「…ッ!?」
カガミは屈んで攻撃を躱した。先程の斬撃と違い、今回は余裕がなかった。完全に予想外だったのだ。
(―――確かに切れ味はありそうだったけど、最初に千剣破の腕が斬られたときより鋭くなってる。さっき付与した何かによる力かな?)
カガミは戦況を冷静に分析する。
「これでわかっただろう?貴様では私に勝てない」
「それは、どうかな」
カガミは準備していた。腕を代償にしようとしたのにはもう一つ理由があったのだ。
カガミが言葉を言い終わった瞬間、斬撃がアルフを襲う。これはカガミの特性による“反射”であった。
自身が受けた攻撃を反射する。条件次第では何倍の威力にも増大させる最強の権能。
しかし―――
「はッ!」
アルフにその斬撃は叩き斬られた。
「………今のを無効化されると思ってなかったよ」
戦況は段々と悪い方向へと傾いていく………。




