序章:囁き
誰も居ない寂れた神社。
暗く色褪せた朱色の木材は腐り、苔が生え、所々に蔦まで生えている。数年前までは、もう一人か二人、
老人が此処へ参拝しに来ていた。―――のだが、最近では神社の敷居を跨ぐのは俺だけとなってしまった。
何の意味もなく鳥居の柱に触れてみた。酷暑だというのに、何故かそれは酷く冷たく感じた。
―――昔、此処で俺はとある少女と出会った。名前も何もかも知らない。少しだけ、他愛の無い会話をした様な記憶もあるが、その大半は欠けている。
恐らくはその美貌に魅了されていたのだと思う。
夕陽に照らされた煌めく漆黒の長髪。
艶のある淡い紅色の唇。日本人特有の古風な顔立ち。
―――初恋。その二文字が頭を巡る。果たして、この感情を恋と表現して良いのかも分からない。
この恋情は、彼女と会った十年前から、ずっと消える事はなかった。彼女に会えないかと夢見て、俺は毎日欠かさずこの神社に通っている。
「…流石にどうかと思うよな」
そう苦笑いしながら静かに呟く。
少し話しただけの少女。それだけの出来事なのに、何故こんなにも頭から離れないのだろうか。
相手からすれば、俺の恋はただ迷惑なだけだ。
流石にもうこの恋は潮時とさえ思っている。また出会えたところで成就する恋とは限らない。
それに初恋から、もう十年が経っているのだ。
そろそろ次の出会いか何かに期待して、前に進むべきなのだ。もういい加減、未練は捨てよう。
そんな事を考えながら、俺は鳥居の柱から手を離す。
もう神社を去ろうと考えた所だった。
―――突如、神社の外の景色は一変した。目を閉じて開いたその一瞬で空の色は灰色に変化していた。
何が起こったか、理解するのに何秒か掛かった。
といっても未だ完全に理解する事は出来ない。
「……は?」
思わず漏れ出てしまった呟き。
神社の境内の外には瓦礫の山。立ち並ぶ木々や、
鳥の声は消え伏せて、辺りには先程まで影もなかった廃れたビルの山々が建っていた。
人類が滅びた街の様に感じて只々、不気味に思った。
意味不明な現状に頭が追いつかなかった。
人はどうなった?さっきまであった住宅街は?
ひたすら疑問が頭の中でグルグルしていた。神社以外はまるで知らない景色が広がっているのだから当然だ。未開の地で動くのは恐怖心があるが、
何か動かなくては事態は好転しないだろう。
情報が足りない。取り敢えず俺は、人を探してみる事にしてみた。
大きな瓦礫の下。崩れた家の中。探した所は何処も酷い有様だった。そして、人は見つからなかった。
恐らく何時間も探したと思う。それでも人は疎か、動物すら見つけられなかった。
(世界が滅びた…?)
そう考えても仕方がない程に生物がいない。
「…頭も痛くなってきた」
環境に慣れないのか、激しい頭痛が襲った。
空を見てみると一面、茜色に染まっていた。それは日没が近い事を表している。
今日はもう動かない事にした。
「ああ…お腹が減った」
一応、食料探しも同時並行で探索してはいたのだが、食べられそうな物は見つけられなかった。
人生初めての野宿。できる事なら経験したくなかった…。しかもマトモな道具すら無いときた。
日はもう完全に落ちた頃。瓦礫の上で座っていた。
紺碧の夜空に月が見える。
「…ん?」
音が聞こえる。これは…足音?生き物が居る?
辺りは真っ暗で見えない。
昼間のうちに火を付けようと試みたのだが、
ライターなんて便利な物はないし、摩擦で火を起こそうにも非力だからか付けられなかった。
「あの…誰か居ますか?」
藁にもすがる思いでそう問うてみる。
返事は無く、ただ、にじり寄って来る足音が聞こえて来るだけ。そして、少しだけ足音が速くなった。
その瞬間―――俺の右腕がなくなった。
「アアあああああぁぁ!!!!」
血があり得ないと思う程、流れ出ている。
肉と、鉄の様な匂いが鼻をつく。
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。
今まで感じた事のない痛覚が襲う。それに伴って、俺の喉から出ているとは思えない絶叫が辺りには響く。
腕がなくなった瞬間に理解した。俺の右腕は喰われたのだと。それが分かったのは、強い獣臭と噛み千切る様な痛み。あの足音は獣のものだったのだ。
大量の血が全然止まらない。止血出来ない。
俺は抵抗する事も出来ず、
耐え難い苦痛に俺はその場で倒れてしまった。
段々と意識が暗転していくのが分かる。
―――此処で俺は死ぬのだろうか。そう思った。
荒くなった息を整えようとするが、痛みで声を抑える事さえままならない。
死の狭間、刻は止まった様に遅く感じた。
ああ―――死にたくない。そう願った刹那。
「………ならば、対価を捧げよ」
自身の願いに応える声が虚無から聞こえた気がした。
何故だか、俺はその声に安心感を覚えた。
同時にどうしようもないやるせ無さを感じる。
殆ど意識が朦朧としていて、目の前が何も見えない。
「貴方に私の力の一部の使用権を与える。その代わりに、貴方の身体を少しだけ私が借りる」
俺は惨めに命乞いをするしかなかった。
潰れた様な声で助けを誰かも分からぬ者に求める。
「―――な…んでも……やるからッたすけ…て」
意識はほぼない。痛覚ももう感じなくなってきた。
もう死が近いと言う事なのだろうか。
「くだ…………さ」
それだけいって俺は気絶していた。
いや…もう恐らく失血死していたのだろう。俺の心臓は動いているのかも分からない。
唯一つ、完全に意識が暗転する前に、声が聞こえた気がした。その声はただ、優しくこう囁いた。
「分かった」
月夜の灯りは不幸を嘲笑うかの如く、自身の死体を照らしていた。
どうもみなさん初めまして。ニシキさんです。
えぇっとーですね。
初作品という事で割と緊張しております(笑)
まぁ趣味程度で始めたんであまり、
良い評価は勿論、悪い評価ももらえる事でさえ、
少ないと思いますが日々精進して!
がんばっていきたいとおもっております。
さて今回の話では、
名前も明かされていない少年がただただ傷付いただけなのですが…。いまんとこは自分でも面白いと思っておりません。続き次第ですねハイ。
僕は、結構飽き性なので続けられるか不安です。
まぁよければ作品評価等々よろしくお願いいたします。
それでは。




