水沢しずく 完
笑顔のつぼみが手を差し出し、しずくは握り返す。
柔らかくて、優しい握手。
その瞬間、世界が一変した。
会場の人々が一瞬にして消え、音が消滅した。つぼみの笑顔が、ゆっくりと真顔に変わる。
しずくの心臓が凍りつく。
「しずく…また会えたね…」
その声は、かつての先輩の幻影と同じ、冷たく甘い響きだった。
しずくの視界が揺らぎ、恐怖が全身を駆け巡る。
彼女は手を離そうとするが、つぼみの指は離れない。
会場は暗闇に飲み込まれ、ただつぼみの目だけが異様に光る。
しずくの意識は、底なしの闇に落ちていくようだった。
つぼみの声が頭の中で反響する。
「どこへ行っても、私から逃げられないよ。」
握られた手は冷たく、まるで生き物のものではない。会場が再び現れるが、ファンの群れは無表情でしずくを見つめる。人形のような目が、彼女を囲む。
「しずく…」
つぼみの唇が動き、歪んだ微笑みが浮かぶ。
「これからも、ずっと一緒だよ。」
その言葉は、しずくの心を再び闇に引きずり込む。
彼女の叫びは喉で凍りつき、声にならない。
フォトブックが床に落ち、ページが開く。
サインの文字は、まるで血で書かれたように赤く滲む。
「永遠に、しずくへ。」
しずくの視界が暗転し、遠くで笑い声が響く。それはつぼみの声か、先輩の声か、それとも…しずく自身の声だったのか。
彼女の愕然とした表情。
突然、しずくの愛液が吹き出す。
それは新たな闇の始まりであった。
完




