七沢みあ1
しずくの指は、キーボードの上で力なく止まっていた。
ノートパソコンの画面には、コードエディタが開かれ、無数の行が白い背景に黒い文字で並んでいる。
在宅プログラマーとしての彼女の日常は、単調で無機質だ。Slackの通知音が鳴り、クライアントからのメッセージがポップアップする。
「納期を早めたい。明日までに修正を。」
淡々とした文面に、しずくの胸が締め付けられる。
「はい、了解しました。」
彼女は機械的に返信し、ため息をつく。東京のワンルームマンション、狭いデスクの前で、彼女の存在は誰にも顧みられない。
「誰も、私を見ない…」
囁き声が、部屋の静寂に消える。
時計の針は午後6時を指す。窓の外では、街灯が点り始め、
夜の東京が息を吹き返す。
しずくはノートパソコンを閉じ、椅子から立ち上がる。
肩の凝りが、彼女の体を重くする。
「もう、終わり…」
声が震え、彼女はキッチンへ向かう。冷蔵庫から取り出した缶ビールをプシュッと開け、冷たい液体を喉に流し込む。
アルコールのほのかな刺激が、彼女の心を少しだけ軽くする。
「夜は、私の時間…」
囁き声が、部屋に響く。
しずくの心に、昨夜の記憶が蘇る。
本郷愛との夜――愛の温かな微笑み、母性的な抱擁、ディルドのリアルな感触――は、彼女の「愛されない」信念に深いひびを入れた。
「愛…君のおかげで、私は自分を愛せるかもしれない…」
その確信が、しずくの心を温める。だが、今夜、彼女は新たな刺激を求めていた。愛の優しさは、彼女の心を癒したが、しずくの欲望はもっと深いところにある。
「もっと、激しく…私を掻き乱してほしい…」
声が震え、彼女の目は、ベッドサイドに置かれたタブレットに吸い寄せられる。
彼女は、ベッドに腰を下ろし、タブレットを手に取る。
FANZAのアプリを開くと、色とりどりのサムネイルが画面を埋め尽くす。
しずくの指は、検索バーをタップする。
「七沢みあ…」
彼女の心に、みあの名前が浮かんだのは、偶然ではなかった。
SNSで見たファンの投稿――「みあちゃんの小悪魔的な目、最高にやばい!」――が、しずくの好奇心を刺激していた。
「みあ…君は、どんな夜をくれるの…?」
囁き声が、部屋に溶ける。検索結果が表示され、みあの動画がずらりと並ぶ。「誘惑の囁き」「小悪魔のキス」「支配の視線」――タイトルだけで、しずくの心は高鳴る。
彼女は、「誘惑の囁き」のサムネイルをタップする。
七沢みあが黒いレースのキャミソールに身を包み、誘惑的な笑顔でカメラを見つめる。
彼女の瞳は、鋭く、どこか遊び心に満ちている。
「んふっ…見ててね…」
動画の冒頭、みあの甘く鋭い声が、しずくの心を突き刺す。
「みあ…君、なんて…」
しずくの声が震え、彼女の指は、再生ボタンを押すのをためらう。
だが、みあの視線――まるでしずくを支配するようなその目――に、彼女は抗えない。
「君に、溺れたい…」
囁き声が、部屋に響く。
動画が始まる。みあは、薄暗い部屋のベッドに座り、ゆっくりとキャミソールの肩紐を滑らせる。汗で光る肌、しなやかな動き、挑発的な微笑み――すべてが、しずくの心を掻き乱す。
「んふっ…君、どんな気分?」
みあの声が、甘く、鋭く、しずくの耳に刺さる。
「みあ…君は、私を…」
しずくの呼吸が乱れ、彼女の目は、画面に釘付けになる。みあの指が、唇をなぞり、カメラに近づく。
「君の全部…私が欲しいな…」
その囁きが、しずくの心を震わせる。
しずくの心に、初恋の先輩の姿が一瞬浮かぶ。
図書室の静寂、夕陽に輝く栗色の髪、彼女の微笑み――あの時、しずくは自分の愛を伝えられなかった。「先輩…私は、君に…」声が震え、彼女の胸に痛みが走る。
だが、みあの小悪魔的な視線は、その痛みを別の感情に変える。
「君は私のもの…逃げられないよ…」
みあの声が、しずくの孤独を刺激する。
「みあ…君は、私を見てくれる…?」
囁き声が、部屋に溶ける。
彼女は、タブレットをベッドに置き、部屋の照明を落とす。カモミールのアロマキャンドルを灯し、甘い香りが部屋に漂う。スピーカーから、ジャズのサックスフォンが静かに流れ始める。
「みあ…君との夜、始まるよ…」
声が震え、彼女はベッドに体を沈める。
「みあ…君は、私をどうするの…?」
囁き声が、部屋に響く。
彼女の心は、みあの小悪魔的な誘惑に飲み込まれようとしていた。




