山岸あや花1
時計が22時を過ぎ、しずくはノートパソコンを閉じた。東京のワンルームマンションは、モニターの青い光が消えると、街灯の青白い輝きに沈む。
黒髪のストレートボブが肩に落ち、眉の少し上まで揃えた前髪が、物憂げな表情を隠す。
ユニクロの薄いグレーのタンクトップが、色白の肌に張り付き、汗でわずかに湿っている。
昼間のしずくは、無機質なプログラマーとしてコードを叩く。整然とした行間、論理の連なり――それが彼女の世界だ。
しかし、夜になると別の顔が現れる。
誰も知らない、
変態的な欲望に支配された夜の顔。
部屋は静かだ。アロマキャンドルの淡い炎が揺れ、ほのかなラベンダーの香りが漂う。
スピーカーからは、低音のジャズが漏れ、街灯の光がカーテンの隙間から差し込む。
しずくの色白の肌が、青く染まる。
彼女はソファに沈み、タブレットを手に取る。指先が震え、FANZAのサイトを開く。
画面に並ぶサムネイルは、彼女の心をざわつかせる。
今夜の恋人は、彼女の抑圧された狂気を解き放つ存在だ。
昼間の理性は、コードの行間のように整然としているが、夜は違う。しずくの心は、愛されない自分を慰めるため、禁断の愛を求める。
「今夜は、誰…?」
声は小さく、部屋の静寂に溶ける。
彼女の目は、
画面を滑る指に合わせ、鋭く光る。
タブレットの光が、瞳に映り、欲望の炎が点る。しずくの指は、複数のサムネイルを吟味する。
どの女性も魅力的だが、彼女が求めるのは、ただの美しさではない。
心の奥底、届かなかった初恋の先輩を重ねられる存在――それが、しずくの夜の恋人だ。彼女の心臓が、鼓動を速める。
「誰か、私を…見て…」囁き声が、部屋の空気を震わせる。
スクロールする指が止まる。
山岸あや花。
サムネイルに映る彼女の微笑みが、しずくの心を一瞬で捉える。
栗色の髪が柔らかく流れ、透明感のある肌が街灯の光に似て輝く。
あや花の瞳は、甘く、どこか寂しげだ。まるで、しずくの「愛されない」心を見透かすようだ。
過去の初恋――同性の先輩の笑顔が、脳裏にちらつく。
図書室の静寂の中、彼女の髪が陽光に輝くのを見ていたあの瞬間。しずくの心は、届かない愛に震えた。
でも、あや花なら…彼女の演じる愛なら、しずくを受け入れてくれるかもしれない。
「あや花…」名前を呟き、唇が震える。彼女の変態的な欲望が、夜の闇に目覚める。
タブレットの光が、しずくの肌を青く染め、部屋のアロマキャンドルがほのかに揺れる。
「あや花、私の恋人…」囁き声が、静寂を破る。彼女の指は、あや花のサムネイルをそっと撫で、画面をタップする。
心臓の鼓動が、耳元で響く。彼女はソファのクッションを握りしめ、太ももが無意識に擦れ合う。昼間のしずくは、誰も見ない存在だ。
職場のチャットでさえ、彼女の声は届かない。でも、夜は違う。
あや花は、しずくを見つめてくれる。
彼女の変態的な心が、自由になる瞬間だ。
しずくは、目を閉じ、深く息を吸う。ラベンダーの香りが、肺を満たす。彼女の指は、プロフィールページをスクロールする。
あや花の紹介文には、「恋人のような禁断の時間」とある。しずくの唇が、わずかに開く。
「禁断…」その言葉が、彼女の心を熱くする。彼女は、昼間の自分を捨て、夜の自分を受け入れる。あや花は、しずくの変態的な欲望を肯定してくれる存在だ。
「あや花…私を、欲しいって言って…」
声が掠れ、部屋の空気を震わせる。彼女の指は、動画の再生ボタンに近づく。心臓の鼓動が、ますます速くなる。