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アンブロークン・ラインズ  作者: 深月 慧
ブロークン・ラインズ 霊気荒廃近域・新崑崙
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第2話 最悪の日の数歩前

 そうだったな、と思う。


 ……確かに一年経とうとしてるんだよな。


「話は聞いてるよ。レイライン計画における遺跡探査の折に行方不明になったんだよね。……手がかりは?」


「なにも」


「そうか……」


 蒼玲のような、旧世代の方士における師弟関係というのは、僕のような教師と生徒のようなものではない。人によっては文字通りの仇というケースすら有る。

 しかし、


 ……蒼玲は、それじゃあないもんね。


「心当たりとか、前兆とか……そういうのはなかったんだよね、確か」


「あぁ。旨い店見つけたから行こうぜとも言われてたしな。そういうのすっぽかすような人じゃないよ」


 しかし、本当に困ったことになったと、蒼玲は思う。

 ぼくも、師匠も翠嵐のような新世代の方士ではなく、方術流派という大きな組織にいる方士なのだ。それに加えて――


「ぼくの師匠、個々の教員やってる他にもう一つ、ある役職についててさ」


「役職? それってまさか」


「あぁ。天道連盟代議官、っていう厄介な役職だよ」



 †



 方士が属する互助組織が方術流派であるなら、それらを取りまとめるのと同時に方士でない勢力との会談の場を設けた組織というのが天道連盟となる。


「たしか芦淵って極東生まれの流派で、過去とかいろいろ曰く付きって話は聞いてる。その代議官って付いてるのはもしかして……」


「まぁ、だいたい予想はつくとは思う」


 実際、一種の人質みたいなものだ。と彼は苦笑する。


「ぼくの師匠は芦淵の中で結構腕のたつ方士だったからね」


「偉いから、じゃないのかい?」


「偉いというのは後付の理由さ。実態は遠方に本拠地を持ってる方術流派から最高戦力を取り上げて変な考えを起こさないようにするためなんだとさ」


 もし、その本拠地で変な真似をしたならば、結託して最高戦力の動きを封じるか息の根を止めるのだ。


「それって、本当に大変なんじゃないのかい?」


「あぁ、大変なんてレベルじゃないな。一年以内に見つかればよかったんだけども、結局無理だったからな。そう遠くないうちに――」


 本拠地からなんか来るかもね、と言いかけた矢先であった。

 平板の画面に一つの通知が浮かび上がる。

 内容はメールの着信であり、それが最重要のフラグが割り振られているものであった。


 メールクライアントを立ち上げて、メールを開く。


 ……ご丁寧に生体認証を求めてくるのか。余計に嫌な予感しかしないな。


「……蒼玲?」


「すまん、午後からの講義は出れないわ」


「えっ」


「スーパーハイパーウルトラG級の厄介極まる用事がスポーンしてさ。とっとと支部に来いと」



 †



 ――新崑崙

 ――芦淵流派 新崑崙支部


 ここに来るのは一体何度目だろうかと思う。

 少なくとも片手で数えれる程度ではあるかもしれない。そこまで使う用事はなかったし。


 こちらの姿が見えたのか、カウンターに座っていたスタッフが駆け寄ってくる。


「お疲れ様です。方士蒼玲。お話は伺っております。指定された会議室まで案内します」


「ありがとう、頼んだ。――『枝』はどうだ?」


「最高レベルの機密を確保しています」


 当然だ――とは言わなかった。誰が来るのかはおそらく彼らには伝えられてはいまい。何しろ、芦淵の宗家だ。盗聴されるようなヘマをすれば首を落とされても文句は言えまい。


 同時に宗家が出張ってくるケースはめったにないというのもまた事実であり、故に相応以上の面倒事が待っていると嫌でも察せた。



 †



 会議室の中は真っ暗であった。

 それ以外は多くの椅子が円卓を囲っている、普通の会議室であった。


「蒼玲、ここに」


 と自分はここにいると語りながら、自分以外誰もいない会議室で頭を下げた。

 刹那、自分以外誰もいないから、自分以外の人がいる空間へと変わった。


『方士蒼玲。よく来てくれた。楽にしたまえ』


 現れたのは三人の人影。

 彼らは実際にここにいるわけではない。立体映像でここにいるように見せかけているだけだ。


『君の活躍は聞いているよ。昨日も立派な成果を挙げたようじゃないか』


『さすがは嵐閃の弟子だ。彼も鼻が高いだろう』


「そんな、恐れ多い。まだまだ未熟であります」


『方士蒼玲よ。行き過ぎた謙遜は傲慢と同義であるぞ?』


『然り。我らが芦淵にて貴殿に並ぶ方士などおらぬ。それは我らが保証しよう』


『実際に貴殿は芦淵の戦い方を体現し、そして奥義すら使いこなしておる。故にそなたは芦淵一の方士よ』


 否が応でも察せてしまう。彼らが何を告げに来たのかが。


『……本題に入るとしよう』


『嵐閃の失踪から一年が経った。これは新崑崙における我らの代理がいないということになる。天道連盟でもこれを容認するほど崩れてはおらん』


『故に、我らは貴殿に天道連盟代議官その代理としての任を与える』


『これは天道連盟の承認を得ていることだ。同時に、そなたに字名(アーバンネーム)が下賜される事となった』


 ……字名までとか、随分な念の入れようだ。ただでさえ断れない状況でもっと断れないようにしてくるとは。


『天道連盟からそなたに与えられた字名は「無垢なる円環 (ザ・サークレット)」。ふむ、他流派にもそなたの武勇は轟いているようだな』


『通達は追って下されるだろう。引き締めて臨み給え』


 字名はその方士がどのように戦うのかという証明であり、同時に天道連盟から「この方士つよいよ!」というお墨付きを示す称号でもある。


 ……()()()()か。観察眼がいいやつがいるな畜生!


『――ここまでが、天道連盟に加盟している方術流派、その長としての通達だ。ここからは、宗家としての命であると心得よ』


「はっ!」


『方士蒼玲。まずそなたは方士嵐閃の捜索を継続せよ。相応の権限も用意しておく』


『そして嵐閃の遺産と遺跡を調査せよ』


「師匠の遺産と遺跡……ですか」


『然り。レイライン計画とは何か、知っているか』


「龍脈探査計画ですね。近年多発している龍脈死滅(ネクローシス)に対し新たな龍脈を探し当てようという旨のものであるとは聞いています」


『よろしい。よくわかった』


『では、此処から先は最高機密に属するものとなる。心得よ』


 ……レイライン計画の最高機密、か。

 師匠、あなた一体何に巻き込まれていたっていうんだ?

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