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不断成道/アンブロークン・ラインズ  作者: 深月 慧
第3章:リクロッシング・ラインズ
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第3章-5 方士と狐巫女と自己証明⑤

 蒼穹が慌てた表情を浮かべてこっちを見ているが、それを押し除ける。


「僕は師匠の名前を個人的評価を添えて言っただけだ。攻撃性のある術式を向けられる謂れはないぞ」

「謂れはないと来たか。貴様自分で何を言っているのか——」


 そこに別の声が割り込んでくる。

 オノサキの近くに侍っていた、若武者然とした——おそらく彼も道示団の一人なのだろう——青年であった。


「大宮司、宜しいでしょうか」

「何だ」

「僭越ながら、彼の試しを私にさせて頂きたく」

「……理由を聞こうか」

「スズネ様が連れてきたその男、語りだけならば大したものでしょう」


 しかし、


「果たしてどこまで本当なのやら」

「ちょっと、そこの従者君。言っていいことと悪いことがあるでしょ」


 反論したのはスズネだ。


「例の怪異の件が伝わってないとか言わせないよ? それでもなおそう言うのならこっちだって——」

「……イナトセ。お前の望みを許可する」


 オノサキは、シキガミに命じて最優先でそこを確保させる。


「相対だ」


 先は頭に血が昇ってしまったが、今の間におてんこ飴を噛み砕いて頭を冷やすことができた。

 正直、ナイスフォローだと思う。

 そう、私が手を下すまでもないのだ。


「存分に試したまえ」



 †



 ——白紘神社、第一相対場。


『蒼、いいのか?』

「別に殺し合いをするってわけじゃないんだ。広義の自己紹介ってやつだよ」

「すみませんレイさん、竜型の件で十分かと思ってたんですけど」

『こちらとしても、もう少しスムーズにというか、穏便に行きたかったんだが……』

「別にお前の交渉スキルに期待はしてないよ」


 それ以前に、


「不明づくしのぽっと出の第三者が、お宅の捜査を手伝わせてくださいとかやって通る方がおかしいんだ」

『……似たような経験があるのか?』

「新崑崙警察の捜査を手伝う仕事でな」

『なるほど、経験済みか』

「まぁ、師匠の名前を言った途端キレられるとは思っていなかったんだがな」

「私もあそこまで怒った大宮司は見たことがないんです……」

「同姓同名ならともかく、もし本人だったらあの人一体何をしでかしたんだ……」

『で、蒼。どうするんだ?』

「どうって?」

「この相対だ」


 そうだな……


 使用する武器についてだが、流石に死人を出すのはナシなので真剣はまず禁止。当然真剣である龍剣(キャスター)——蒼穹は出禁。代わりに木剣を使うことになっている。


 木剣でも当たりどころが悪ければ死ぬと思ったが、寸止めをするということになっている。


「……術式はどうなんだ?」

「そこも真剣と同じように、殺傷性の高いものは禁止になってます」

「身体強化系、補助系はOKか。あとは……」

『蒼。言われずともわかってると思うが、これは試合だからな? 閃光術式で目と耳をつぶしてって真似は避けるんだぞ……』

「レイさん……」

「お前は俺を何だと思っているんだ……」



 †



『蒼。導術環だが、現状親機と子機の基本的な機能を復旧させた状態だ。いいか、そこまでだ』


 つまりだ、


『背中のインプラント——玉石システムっていうんだっけか——とかのリンクどころか親機と子機の同期もできていない。万全の状態からはまだ程遠いと思っていて欲しい』

「無茶はするな、ということだな」

『そういうことだ』


 蒼玲は、渡された木剣……正確には木刀を軽く振って具合を確かめる。


 ——こう言うタイプの刀は初めてだな。


 新崑崙では軽さと取り回しに優れた両刃剣と、重量で叩き切る刀がある。

 今持っているのはこの二つに当てはまらないものだ。

 早い話が知らん刀である。


「まぁ機材面はちょうどいいハンデとして受け取っとくよ。ただ……」

『ただ?』

「人が多くないか?」


 そう、この相対場とやら、イベントの一環として一般人にも解放して戦闘訓練やその成果を見せることがあるそうな。

 そういうこともあって当然、観客席も設けられている。席があれば人も来る。

 流石に、その観客は一般人ではなかったのはまだマシと言うべきなんだろうか。

 その観客はいくつかの集団に分かれてるようで——


「「「ワァァァ!! イナトセ様ァァ!!」」」


 ——これは間違いなく目の前にいる狐耳の若武者に対してのものだ。無論声を上げてるのは女子勢である。

 ファンクラブとかあるんだなぁ、と思っていたら


「キャァァァ!! スズネ様ァァ——じゃない!?」

「何あの人?」

「どうもスズネ様の代理らしいわよ」

「「「…………」」」

「「「キャァァァァァァ!! スズネ様(の代理)ァァァ!!」」」


「…………」


 ——これ、僕が負けたら彼女の顔に泥塗った事になるんだろうか。

 負けたらどうなるんだろう。最低でもケジメされるんじゃあるまいか。


『人が多いところは苦手か?』

「いろいろ言いたいことはあるけど、衆目で暴れるじゃないって教え込まれているんだ」

『戦闘術も秘匿すべき技術、と言うことか』



 †



「どう言うことなんです?」


 そう浮かぶ画面に問うたのはスズネだ。


『時にスズネ嬢。君はゲームを嗜んでいたんだっけね』

「えっ!? は、はい」

『たとえば、神社の話で出てきた『アームド・ラインナーズ』は死んで覚えるいわゆる死にゲーに分類されるものだ。さて、ここで質問だ。全体を通してどう言う時に死んでたんだ?』


 えーっと……


「初めてのステージでいきなり敵が出てきたり、知らないボスや敵モブが出てきてわけもわからず……」


 そこで思い至る。

 わからん殺し。知らないことを押し付けられること。

 対処法も何もわからずそのまま殺されるのだ。


「そっか、だから……」

『彼は方術流派という一種の互助組織に所属していてね。その組織は秘密を守るところから始まっている。それは技術に限った話じゃなく、技術継承の損失を回避するための戦闘術も同様なんだ』

「自分の命ではないんですね……」

『無論、自分自身の命を守るための技術でもある。だが第一とするものが違うと言うことだ』


 思えば——なぜ蒼玲が方士となったのか、結局聞けずじまいだった。

 人から恐れられる存在になっても、自身の命より秘密を守ることが優先される場所にいて、それでもなお「しょうがない」と笑い飛ばすような具合で慣れざるを得なくなった、その謂れは何なのだろう。

 知ったところでどうにもなるわけじゃない。方士になろうと決めた彼の過去がどうにかなる訳でもない。

 じゃあ、触れなくてもいいじゃないかと言われれば、違う。絶対に違う。

 理由はわからないけれど、ただ私の意思が違うと叫んでる。


 ——でも、今はまだその時じゃないもんね。


 今、相対場に立っている彼は、いったい何が見えていて、そして何を望むのだろう。


 そう思うスズネの眼前。

 渡された得物の感覚を確かめていた蒼玲の動きが凪いだのとほぼ同時。

 声をあげていた観客たちが、言葉を噤んで、そして響きが消えていく。


「————」


 喧騒が沈黙へと一気に転じるのは一瞬だった。

 静かだ。

 この相対場で向かい合う双方が戦闘態勢に入っている故だ。

 この場にいるのは見知った顔。つまり白紘神社に属する者たちだ。

 老いも若きも、男も女も、戦いに馴染みがない者たちも皆気づくのだろう。

 イナトセの前に相対する彼は、皆が知る人間ではないのだから。


 審判が手を高く上げ——勢いよく振り下ろす。

 自身の有用性を示す相対がはじまるのだ。

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