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不断成道/アンブロークン・ラインズ  作者: 深月 慧
第3章:リクロッシング・ラインズ
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第3章-4 方士と狐巫女と自己証明④

 ——随分長い階段だったな。


 本当になっがい階段だった。

 白原神社の立地も大概だったが、ここも同様だと思う。

 バックグラウンドで疲労軽減系の術式を走らせているが、これがなければ行き倒れは確実なんじゃなかろうか。

 それを見越してなのか、道中には茶屋が一定区間で設けられていたので、想定の範囲内なのだろう。


「……」


 視線を横に移して、スズネたちを見てみるが、疲れなどなんなのかと言わんばかりの状態だった。——もっとも、説教が確定しているスズネの精神的サムシングはあえて問わないものとするが。

 いずれにしても、同じように疲労軽減系の術式でも走らせていたのだろう。


 軽く、周囲を見渡す。

 人が境内を行き来している。ただの人間のみならず、スズネのような狐耳と尻尾を生やした者たちもいる。

 同行しているミオリと、彼女に帯同していた隊員たちは狼耳とその尻尾を生やしていた。そんな彼女・彼らと同じ特徴を持つ者たちはこの神社にはいなかった。


「……ともあれ、ここからか」


 白紘(しらつな)神社。

 ここでこの世界に関する知己を得ること。

 ここからだ。ここから始めるのだ。



 †



 光が差し込む屋内の中で、一つの影ともう一つの影が向かい合っている。

 白紘神社。そこに立つのは二つの種族。

 片方は自らを方士と名乗る少年で、もう一人は巫女服の上に重ね着をし、目を隠す仮面を身につけた狐耳の女であった。


 ——でかいな。

 オパイではない。背丈もだ。どっちだ。まぁいい。

 腰あたりから生えてる複数の尻尾もまた印象的だ。


「白紘神社、大宮司の役を仰せつかっているオノサキだ。事情は聞いている。ミオリ、今回の件は助かったぞ」

「どういたしまして。そしてそこにいるのが例の……」

「芦淵流天道方士、蒼玲。……最近フリーになった身だ。必要とあれば精一杯有用性を示す所存だ」


 向かい合う二つの影、その片方にさらに二つの影が見える。

 一つはミオリである。

 残る一つは——


「……ところで、その、首根っこを掴まれてる萎れたスズネのような物体は何かね?」

「これは——」


 少し悩む。何しろ、覚悟を決めて襖を開けたかと思えば「忙しそうなのでまた後で……」と明らかな逃亡を試みたのを反射で確保してしまったのだ。


「今は注射をブスリされる事が確定している小動物的サムシング——のはずだ」

「違います! 今は壁です!!」


 自称壁はそう叫んだ。



 †



「そうか壁か」

「そうなんですよアハハハ……」

「ところで蒼玲とやら。これが何かわかるか?」

「ぱっと見、厚さ十ミリの鉄板に見えるが」

「装甲板だ」


 そう言うなり、オノサキの拳が鉄板をぶち抜いた。

 自称壁が「ヒュッ」と何かが縮み上がったような声をあげたように聞こえたが、きっと気のせいだろう。

 拳は無傷で、もう一発ぶち抜いてもお釣りが出そうな感じだ。


「で、そこの自称壁——」

「くっ、空気!! 今は空気です!!」

「もういいだろうスズネ。改めて理由を聞こうか」

「ひぃん……」


 天丼は許されなかったらしい。



 †



「えっ、えっと……連絡が取れなかったのは……その」


 ミオリは軽くため息をついて語る。


「例の爆発事故と、そこの方士の見舞いで数日間連絡がつかなかったのは本当よ」

「ミオリぃ……」


 しっかりフォローしてくれることを忘れないミオリ……これぞ友情ってやつです!! ユウジョウ!!


「でもずっとゲームしてて端末の充電を切らしてたのには気が付かなかったみたいね」


 友情が御破算になりました。


「ミオリィィィィィ!!」

「ほう……」

「腕時計する習慣の有無みたいにデバイスとライフスタイルの不一致ゆえの事故とかは……あるのか?」

「少なくとも昨日今日渡された代物ではないとだけ言っておくわ」

「君は一体何をやっているんだ……」


 一歩一歩迫るオノサキ。


「連絡がないと思えば、そういう訳——か」

「あわわ……それはその」

「手を出せ」

「あのケジメはちょっとその……」


 まな板とドスなしでケジメって痛いどころでは……


「いいから手を出せ。あと手のひらを上にしろ」


 丸っこい何かを一個、箱のような容器から取り出して、スズネの手のひらに転がした。


「口の中に入れるんだ。安心しろ、毒ではない」

「ひぇぇぇ……」


 恐る恐る口の中に入れてみる。

 びっくりするほど甘かった。


「甘んまぁぁぁぁい!!」

「そうだろうそうだろう。何せこれは道滋庵謹製の飴、名付けて『おてんこ飴』だからな」


 オノサキもその飴を口に放り込む。そして、


「おそらく、かなり集中していた上に先の事故、加えて新手の怪異と戦ったとなれば、多かれ少なかれ消耗していたと見える。

 かくいう私も——」


 スナック菓子の類かのようにガリボリ……と咀嚼する。

 手には新たに出した数個の飴玉が転がっている。


「ここしばらく事件の対応に追われに追われて、マトモに休息も取れておらんのだよ」


 新たに一個を口の中に放り込み、咀嚼する。


「いやはや、この飴の甘さは実に身にしみる。こういう時なら尚更だ。

 そうは思わないか? スズネよ」

「……………………」

「どうだ、いい加減目は覚めたか?」

「ふぁい……」


 気に入ったのならたんと持って行くといいと、スズネの両手に一山の飴玉を積み上げた。


「さて、いい加減本題に入ろうか」



 †



「まず、どこまで聞いているか確認をしようか、スズネ」

「はっハイ! 央京から子供が次々と行方不明になっていると言うことは」

「そうだな。そこに補足をするなら十人近くの子供が行方不明で、もう直ぐ三日目を迎えるかと言うところだ」


 ——思っていたより規模が大きいな。


 この央京は首都と名乗っているだけはあり、広大だ。

 ここの警察機構がどうなっているかは不明だが、それを掻い潜って十人の子供を攫ってかつ三日間も逃げ仰せている。


 ——しかし三日間、か。


 犯人の痕跡消しが巧いのか、警察が無能なのかはわからない。

 正直、子供たちの安否は最悪のケースを予想した方がいいのかもしれない。


《蒼、いくらなんでも悲観的に過ぎるだろう》

《悲観的なものか。最善は想定すべきだが、同時に最悪に備えないと死者リストの栄えある十一人目にならないとも限らないんだぞ》

《だったらそれを指摘するぐらいしたらどうなんだ?》

《アホ言え。現時点で俺はまだ外様だぞ》


 キュウビは続ける。


「央京内部は炎連(ほむら)神社の道示団——巡警隊が、その外部を我々白紘示団が担当する形で捜査を担当している」


 ——これは。


《この時点ですごく嫌な予感がする》

《蒼、君なぁ……》

《だったら賭けでもするか? このあと縄張り意識的なあれこれの面倒がPOPするにうどん一杯を賭けるぞ》

《いいな、私が勝ったら剣がうどんを食べれると思っている君に紹介状をプレゼントしよう。頭の病院の》

「こいつ……こいつ……!」



 †



 オノサキの眼前で、にわかに方士殿が小声で剣を罵り始めた。


 ……勤めて無視した。


 事前情報では異界から——かの蓬莱から来たとも言うし、そう言う風習もしくは武器があるのだろう。そうでなければシンプルに頭がおかしいだけだ。


「容疑者についてだが、人為的な線と怪異の線両方で捜査を進めているが、どうも痕跡がなさすぎる」

「……犯人からの要求とかはないんですか?」


 当事者意識を持って質問をするのは偉いぞスズネ。イナリポイントプラス五点。

 とはいえ、これは答えは決まっているようなものなので差し引き一点プラスだ。ざんねん。


「それも無い。この手の犯行には高確率で金などの要求がつきものではあるが、これは犯人とその目的がある意味まともである場合だ」

「子供を掻っ攫うのが目的の時点でだいぶ怪しいわね」

「そう言うことだ。現時点で我々に喧嘩を売ろうとする連中はほとんどいない以上、怪異の線が最も濃いと言うわけだ」


 続ける。


「スズネ、ミオリの両名は我々の管轄での捜査に参加して頂きたい。お願いできるだろうか、炎連神社後継」

「元からそのつもりだったから助かるわ」

「ヤッタァ!!」

「さてここからがお前にとっての本題だ、蒼玲」


 ここからが本番だ。


「この世界に流れ着いた理由はなんだ? 何が望みだ?」



 †



 ——さて、ここが正念場だ。


「……まず初めに、この世界には来ようと思って来た訳じゃない。なんならあるとすら思っていなかったんだ」

「事故とでも言うのか?」

「そうだ」


 事故で異世界にってどこの軽小説だと思わんでもないが、実際その通りとしか言いようがない。

 通り魔に刺されてって具合のは見たことあるが、僕の場合はキョンシー兵と方士による計画性のあるものだ。しかも遺跡消滅のオマケ付き。自分で言っててハードすぎるし、どこの軽小説だと言いたくなる。


「事故でこの世界に来たら遺跡が大爆発するのか」

「えっ何それは……」


 スズネの顔を見てみるが、無言で顔を逸らされた。


《蒼。その時君は気絶していたから当然預かり知らぬことではあるんだが、こっちの遺跡も爆破消滅したのは本当だ》

《待て待て待て待て!! どっちも消滅してんの!? というかどっちも立派な冤罪だろ!!》

《あぁその通りだ。こっちでフォローする。任せるんだ》


 と言うわけで、剣が喋り出した。

 場所が場所故か、好感度の調整故か顔文字を映した立体ウィンドウを展開して交渉に臨むらしい。

 確かに剣だけで話すよりかはマシではあるだろう。しかし、こんな芸当もできるものなのか。と関心した。


 ——なんか腹立つから自慢げな表情でこっちみんな。



 †



『そう言うわけで、一時彼の代理を務める蒼穹だ』

「蓬莱の武器はみんなこういう具合で喋るのか?」

「使う武器がみんなこの調子なら、多分みんな頭がおかしくなってると思うぞ」

『ひどいな君は!!』


 ともあれ、


『彼と私がこの世界に来たときの爆発だが、あれは立派な事故だ』

「理由を聞こうか」

『ここに来る際、彼を標的にした暗殺計画があってな。彼を確実に亡き者とするために遺跡まるまる一つをエーテル——ここで言う環子に還元させたんだ。結果として元いた世界の遺跡が爆散した』

「それでこっちの世界の遺跡が爆散したのは?」

『エーテルの逃げ場があったからだろう。圧がかかった水が充満してるパイプに穴開けたら、そこから水が勢いよく出るのと同じことだ』


 ——なんかおかしくないか?


「おい蒼穹」

『なんだね蒼。説明の途中だぞ?』

「こっちの遺跡が爆散したのはエーテルの逃げ場があったからだと言ったなさっき」

『あぁ、そうだな』

「もしそうなら、この世界と蓬莱が龍脈で繋がっているってことにならないか?」



 †



『そうだ。そうでなければ君がここにいる説明がつかないだろう。尤も、あんな高濃度・高圧縮のエーテル環境下にいていて殆ど無傷なのはわからんが』

「いずれにせよ、俺と同じようなやり方でこの世界に来れてしまうってことにならないか?」

『それは無理だろう』


 改めて言う。


『蒼、君はあの時高濃度・高圧縮状態のエーテルの中にいたんだ。普通ならエーテルに還っていて当然だ。氷が水になるのと一緒だ。導術環のストレージの中身が飛んだだけで済んだだけでもかなりラッキーなんだぞ』


 それに、だ


『穴はもう塞がれている。そうだろう、スズネ嬢』

「う、うん。あの時見た限りでは変な穴とかそう言うのはなかったよ」

『そう言うことだ』

「……とにかく、少なくとも私は遺跡の消滅に関しては追及するつもりはない。何せ廃棄されていた場所でもあったからな。だが問題はそこではない」


 一息。


「この事件の調査に参加したいそうだな。正直に言えば、人は多いに越したことがない。だがな——」


 見据える。


「蒼玲。お前は一体何者なのだ?」



 †



「アヤカシならざる人の身で、術式を扱える連中はいるにはいる。しかし、その数は少なく、またお前のような戦い方はしないし、その武器もない。

 それどころかスズネが出くわした竜型怪異に手も足も出ないだろう」

「加えて、お前は自分を方士であると言ったな。陰陽師でもなんでもなく」


 詰まるところ——


「我々は、お前のことを何も知らないのだ。知らぬ相手をどうやって信用すると言うのだろうな? 目的もわからないなら尚更だ」


 答える。


「改めて言うが、僕は新崑崙以外の世界を知らない。ここには初めて来たし、わからないことは片手で数えれる自信もない」


 だから、


「少なくとも現時点では、僕は方士であること。そして方士というのは術式とかを使いこなして戦う科学者である、ということまでしか説明できない。だが——」


 これだけは本物だ。


「僕には目的がある」

「聞こう」

「僕がここに流れ着く少し前、師匠が行方不明になっていたんだ。そして僕はその人の捜索を担当していたわけだ」

「……続けろ」

「遺跡一つまるまる消し飛ばした派手な暗殺があっただろ。その遺跡にいたのは、その師匠の数少ない手がかりがあったからだ。そして殺されかけ、死にかけて、ここに流れ着いた」

「……」

「……ここから少し離れたところにアマテラスと言う施設があるそうだな。地上に太陽を作り上げる施設とも」

「なぜそれを……いや、聞いたのか。機密でもないからな」

「聞けば、老師なる人物からの宿題だそうじゃないか」


 だからこそ、


「僕は知る必要がある。この世界の情報は当然として、その老師とは何者なのかを」


 重ねる。


「僕が求めるのは情報だ。この事件の調査協力の見返りとして、だ」



 †



「その要請に応じるとでも?」

「僕がこの世界について何も知らないのと同じことだ。君たちも、方士がどう言うものかまるでわかっていないだろう」


 ゆえに、


「こちらからは可能な限り最大限の情報を提供しよう」


 そう言いながら、首に手を回し、付いていた首輪型のそれを外す。

 それは、自分のみならず、すべての方士にとっての生命線であり、根幹そのもの。


 それを皆に示す。


「導術環という。方士はこれを使って情報処理を行ったり、術式を使う。これは親機で手足にその子機が付いてる」

「つまり、それを引き剥がすか壊せば方士はただの人間になるということか」

「できるのなら——という大前提があるが、その通りだ」

「できるのなら、か。なるほど、オンミョウジとは違いすぎるな。その首輪だけに一体どれだけの技術が組み込まれているのやら」


 余談ではあるが、導術環の接触面は皮膚と一体化するようになっている。文字通り生体的な結合だ。

 先ほどのように取り外せたのは、自分の意思で結合を解除したからに他ならない。


 ひっぺがそうと思えば文字通り皮膚を剥がさないといけない。そして取られたら負けだというのは方士もわかっている。そして、導術環自体もそうそう壊れないように設計されている。流石に龍脈に晒されるのは完全なイレギュラーだが。


 ともあれ、結論だけ述べるのなら、方士から導術環を奪って無力化するというのは現実的ではない、ということだ。


「他の情報を融通する用意もある」


 さて、どうだろうか。




 †



「……一つ尋ねるが、師匠とやらの名前はなんなのだ?」

「嵐閃という男だ。人間としてはダメ人間同然だったが」


 自分で言っててどうかとも思うが、いや本当にダメ人間だったのが始末に悪い。飲み代とかもう数えるのも億劫だ。加えて消息を追い出したら、暗殺されかけるわ遺跡二つ爆散させるわ、あのクソ師匠ほんま……


 そう、師匠の名を告げた瞬間である。


「もう一度聞こうか。蒼玲」


 人の名前を聞き逃したにしては、随分とドスが効きすぎている声だ。

 加えて


「他人に何かを聞き直すときは、ついでに殺傷力がある術式を叩き込む用意をするものなのか?」


 蒼穹による導術環のOS復旧が順調であって何よりだと思うが、こんな形で証明して欲しくなかった。

 先程までなかった殺傷性のある術式反応を導術環が検知したのだ。


『蒼! 君いったい何をやったんだ!』

「こっちが聞きたい!」


 オノサキの表情ははっきり言って憤怒一色だ。わけがわからない。

 蒼玲は問う。


「理由を聞こうか。大宮司」

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