第3章-3 方士と狐巫女と自己証明③
ルークでアイアンまで上がりました。
色々めった打ちに遭ったりするけど、わたしは元気です
平屋、もしくは二階建ての木造建築が並ぶ商店街がある。
その商店街を仕切るその道は、その多くは石畳によって舗装されておらず、せいぜい馬車の類が多く往来する箇所に留まっているようだ。
そして、その土の道は人によって埋まっていた。
この都市の道を、見通せないほどにまで埋める人々は、それぞれの目的地に赴くか、目先の誘いに乗って動くのだ。
人々の作る音は多重だが、新崑崙で聞くそれとは何か違うようにも思える。
商人の掛け声や、子供たちが何かをねだる声。友人同士か、たまたま同席になっただけなのかはわからないが、その彼らが笑い語り合う声。
新崑崙ではあったかもなかったかも朧げだ。
……向こうでは立体映像の広告とか、その類があったし、何よりそんな友人もいなかったしな。
隣に視線を移すと、白い狐耳の少女が目を輝かせながら周囲を見渡している。
「元気になるのが早くないか?」
「央京といえばこれなんですよ! これこれ!」
「さっ、急いで白紲神社に向かうよ——って……」
ミオリが絶句したのもさもありなん。
二人揃って焼き鳥を買っていた訳なのだから。
「あなたたちねぇ……」
「ごめん、久しぶりの央京なのと、レイさんここくるの初めてだから……」
「麦酒の類が欲しくなるな。手持ちの金があればもう一本買って行きたいが」
「あなたねぇ……」
「流石に冷えたものをとは言わんよ」
思い返せば、所謂屋台も数えるほどしか見なかった。
その頃は規制がかなり進んでいたとかで本当に絶滅危惧種に近かったはずだ。
ちなみに手持ちの金はない。全くだ。
OSが吹っ飛んだついでに全部なくなっているし、そもそもこの世界で電子決済なんて無理な話だ。それ以前に向こうにある僕の口座は凍結されれても何らおかしくない。
……うーむ世辛い。
†
「……炎連神社の方って、最近どうなの? やっぱり忙しい?」
「そうね、ここの運営が忙しいのはそうだけども、それ差し引いても今回の一件があってかなりピリついてるのは確かね」
「子供の誘拐でそれほどなのか」
「蒼……ここは新崑崙じゃないんだ。治安のレベルが違いすぎる」
「一応念のためにどのぐらい違うか聞いてみようか」
「新崑崙が央京にトリプルアクセルからのカットバックドロップターン土下座を決めて許可をもらってようやく会話が成り立つぐらいだ」
「なるほどそれは違いすぎる」
二人がすごく困惑した表情を浮かべているが、おそらく新崑崙の治安の悪さによるものだろう。決してドン引きではないはずだうん。
ちなみにトリプルアクセルDOGEZAは、商人たちが陳情を確実に押し通すために用いられるDOGEZAの中でもかなり難易度が高いものらしい。同様にカットバックドロップターンDOGEZAもエーテリフティングを織り交ぜて行う関係で別ベクトルで難易度が高いトリックDOGEZAであるとも聞く。
なお、方士の土下座は極めてレアケースだが、その分効力は極めて凄まじい。
なにしろ、文字通りテコでも動かず、罵詈雑言も頭上に流す究極の防御方法を方士がとったのならば本当にどうしようもないからだ。
もっとも、天道連盟から『商人でもないのに一般人にそんな情けない真似はよせ』と通告されているからそんなことをする方士はまずいない。
なお、そのレアケースのことだが……うっかりハメを外しすぎただけでも大概なのだが、これまた運が悪いことにそのキャバクラがキャッシュレス未対応——即ち現金しか対応していない故に飲み代を払えなかった師匠であったことは、僕と師匠の名誉と尊厳を可能な限り守るためのほぼ永遠の秘密である。
†
「いやほんと新崑崙っていろんな意味でどうなってるのよ……」
「死人が出ても日常みたいなそんな感じだ。こっちにくる前も院生——結構頭いい学者だ——があのチンピラに殺されてるし、同じ時間帯ではギャングとアウトローの抗争があって、別の方士がそいつらまとめて制圧してたし」
「彼らの生死を問うのは野暮ってものって見ていいのかしら」
「そうだな。大抵死んでるし」
「いやほんと新崑崙メチャクチャじゃないですか……よく無事でしたね」
「……話を戻して、今でこそ白紲神社も忙しいんじゃないの?」
「うぐんぐんぐーうぐぐー(そんなことより早くいこー)!!うぐんぐ(はやく)!!!!」
「飲み込んでからしゃべってもいいんじゃないか? っていうか、そんなに大宮司とやらに会うのが嫌なのか」
「私も詳しくは聞かないけど、結構怖いとか何とか」
「そうなのか?」
「私が見た限りではそんなことはないわね。落ち着いてるし」
「あ——それなんだけどね、あんまり口外しちゃいけないんだけども」
「というと?」
「昔から白紲神社一門には怖い話があって……」
「こっ怖い話!?」
曰く——
大宮司は昔アラガミとして大暴れしていた。
当然、一門ではその話を聞かされて育つそうだ。それもいろんな人たちから。
「その時に聞かされるお話が本当に怖くって……」
「それでトラウマに……」
「参考までに聞くが、どんな具合なんだ?」
たとえば——
「敵の頭を兜ごと噛み砕いたとか」
「怪談というか、スプラッタだな」
「恐ろしいわ……」
またたとえば——
「お尻から火を吹いて口から怪光線を出して周囲を薙ぎ払ったとか」
「そこは目じゃないんだな」
「何言ってるんですかレイさん。目からビームが出るわけないじゃないですか」
そう言ったらレイさんが真顔になりました。
†
「ジャンルが変わりすぎて風邪ひく勢いだが、本当に怪談か?」
「恐ろしいわ……流石元アラガミね」
正直な感想を言ったら方士から「こいつマジか……」って顔をされましたけど、一発ぶん殴っても許されるんじゃないかしら。
「そして年に一度当時の大宮司様を元にした格好で子供部屋を回っていく秘祭があって……」
『悪い子はいねぇが〜』
とか
『泣く子はいねぇがぁ〜』
「……ってくるもんだからもう怖いったら」
「秘祭というか奇祭じゃないのかそれ」
「それ本人はどう思ってるの?」
「これが本当の知らぬが仏ってやつか」
「もう仏じゃなさそうだけど」
「例の奇祭の話をしたらどうなるんだろうな」
「はっ薄情者———ッ!! 薄情者がいます!!」
あとでスイーツを奢るということで宥めることには成功した。




