第3章-2 方士と狐巫女と自己証明②
蒼玲が、腰のハードポイントにマウントしたマガジン——その横についているボタンをカチカチと押すと、隙間から黄緑色に淡く光る砂状の何かが宙に浮かび、文字と図を描いていく。
「これは錬砂って言って、これから話す大道工学の根幹を担うナノマテリアルだ。俺たち方士はこいつにエーテルと術式コードを流し込んで術に使ったり武器として使ったり——」
「……」
スズネの顔を見る。
さっきまでとは打って変わって、ぽやーんとした顔になっている。
——いかん、何か他にいい表現はないか?
そういえば今いる部屋に置かれてるテレビとゲーム機の筐体があって……あれ?
「なぁ、あのゲーム機は……」
「あぁ、アレですか。漂流物って言われてるものの一つなんです。何でも蓬莱から流れ着いたとか」
「漂流物と言うにはなんか見覚えがありすぎるんだが」
「知ってるんですか?」
「あれと同じやつのを友達にお願いされて買ってなぁ」
「えっ」
「別にたかられた訳じゃなくて、協力プレイとかができないとかそんな感じの理由だったんだが」
今にして思えば、明らかな方便だと思う。やろうと思えば野良マッチングとかできるのだから。
まぁ今はどうでもいい。
「……アームド・ラインナーズっていうロボゲーシリーズがあるだろ」
「知ってるんですかレイさん」
「前に友人に勧められて、最新作を軽く3周以上とトロコンまでやったが面白さがよくわからなかったんだがな」
「レイさん、それ沼にハマったっていうんですよ」
「うるさい。——んで、イズマ粒子とかいう奴が前の作品にあっただろ。要するにそれだ」
「なるほど、俗にいう『便利粉』ってやつですね」
「…………そうだ」
どこか釈然としない何かを感じつつ、蒼玲は続ける。
「この大道工学がいつ生まれたものなのかは、おそらく限られた方士しか知らんだろうし、今はどうでも良い。聞くところによればだいぶ酷い有様だったらしいが。
とにかく西域の科学と東域の『道』を拓く技術が合流して生まれたのがそれだ」
もっとも、西域の科学は旧時代の遺産を解析して成立したもので、東域の『道』の技術は科学的に証明できないオカルトとして扱われていたと言う話だ。
それがエーテルという物質だかよくわからない、矛盾を矛盾として扱わない『可能性』というエネルギー。そんなこれまでの積み重ねを、文字通りおもちゃの如く蹂躙する恐ろしい何かの観測を期にひっくり返ったわけだが。
「大道って付いてるのは?」
「『大道合一運動』の名残だ。西の科学と東の道の噛み合わせが異様に良かったことを機に、全ては同じ道にあるってやつだ」
「だから大道ってわけですか」
「ともあれ、この大道工学の破壊力は凄まじいものだった。それまで机上の論だった持続的な核融合も一瞬で実用に至ったわけだ」
「核融合?」
「端的に言うなら、地上に太陽を作るってやつだ」
「それってもしかして……アマテラスのことですか?」
「アマテラス? なんだそれは」
「詳しいことは知らないんですけど、地上に太陽を作るっていう老師さまからの宿題です。結構前からやってるみたいですけどね」
「宿題?」
「なんかそう言うことみたいですね。これから向かう白紘神社になら何かしらの資料があるかもです」
「……央京にいかないといけない理由が増えたな」
ともあれ、まずは件の神隠し事件が先だ。
「スズネ、準備できたよ——って、何してるの?」
ちょうどミオリたちも準備が整ったらしい。
いざ央京へ。
「「「「…………」」」」
……恨めしそうに見るのやめてくれないかな。
膝枕されてるって事実を突きつけられるのは意外と恥ずかしいんだぞ。
あとミオリさんもなんで同じ目をしてるんですかね……
†
地図を見せてもらって知ったことではあるが、今いる所……白原神社から央京までかなりの距離がある。歩いて行こうと思えば数ヶ月は覚悟すべきだろう。
車もありはするが、だいぶ原始的(あくまで、新崑崙視点で見た場合である)だ。道中が幾分かマシになる程度ということだ。
コレでは着く頃には日が暮れるどころの話じゃない……と言うわけでもないらしい。
「着いたよ、レイさん」
その答えが、背後にあるにある小さな祠と正面に見える大鳥居と広い参道であった。
そして、スズネが指している方向に視線を向け、見下ろす。そして蒼玲は息を呑んだ。
「これは……」
数多の建造物——流石に新崑崙みたいな超高層建造物は無かったが——が立ち並び、看板や売り物エトセトラ……とにかく人の営みと、真夏にも関わらず文字通り咲き誇っている薄いピンク色に染まった花が成っている樹——確か桜とかそう言うものだったはず——によって華やかに彩られている。そして建造物の間を奔る道を、これまた多くの人々が往来する。
その中での中央を貫く大通り。それに沿って視線を動かすと、一つの神社が目に入る。
遠く離れたこの場所からでもわかる程度には巨大であることは嫌でも察せるだろう。そんな神社だ。その両脇にはそれを守るかのように一対の狼の石像が鎮座していた。
そんな央京であったが、その中で一際目を引くものがあった。
巨大な神社のさらに奥。
……塔か?
最初はそう見えたが……違ってたらしい。
「やっぱり目に入りますよねあの御神木」
「御神木って……あれ木なのか!?」
……だったらすごいデカさだ。術式補正なしの遠目で見たら塔にしか見えないぞ。樹齢とか結構あるんじゃないか?
『蒼。聞こえるか?』
『どうした蒼穹。裏でなんか作業やってるんじゃ無かったのか』
『それはそうなんだが……とにかく蒼。君が今見ている木だが、何かに絡まってるように生えているな』
『見えているのか?』
『あぁ。真っ先にカメラユニットのソフトウェアを復旧させたからな。君が見えているものがよく見える』
『導術環の復旧が順調に進んでいるようで何よりだ。で、あの木がどうしたんだ』
『あぁ。近くで詳しく観測しないことにはなんとも言えないんだが、もし私の勘違いじゃないならアレは……』
『なんだ、続きを言ってくれ』
『……すまない。今のは忘れてくれ』
『はぁ?』
『あの木の近くで観測が終わり次第話す。情報がまだ足りないんだ』
『なるほど、厄ネタが生えているのか。よくわかったよ』
「レイさん。こっちこっち」
裾をちょんちょんと引っ張られる感触に従って振り向く。
振り向いた蒼玲に、姿勢を正したスズネとミオリが向いて恭しく一礼する。
「改めて、蒼玲さん。——ようこそ、央京へ!」




