第2章-5話 道交わりて歩みたり
「改めて一つ要請をしたい」
「うどんのおかわりですか?」
「違う」
正直なところ、わからないことは多すぎるし、知己もいない。
そして方士というのは、個としての戦力は突き抜けているが限界がある。
しかし幸いなことに、縁は掴みつつある。
この世界と、師匠の消息を追うつもりでいるのなら、そして警句を全うするのであるのなら……
やることは決まっている。
「君たちやそこにいる彼らは、『道示団』と言うらしいな。一種の行政機関でもある神社の戦力でもある。合っているだろうか」
「正解よ」
「そしてここからは推測になるが、ケガレ祓いや怪異退治をはじめとして警察の手に余る事件の対処もやっているのでは無いか?」
「ノーコメントね」
「確実に警察の手に余る連中がいるとしたら。これから来るかも……いや、もう来ているかもしれないとしたら――どうだ?」
「……」
「俺はあの竜の怪異になった奴に会ったことがある。方士――術者になる機関からドロップアウトした、末に罪なき人間をカネ目当てに殺したチンピラの屑だった」
「チンピラであれなの?」
「この話には続きがある。死体を遠方から操れる術式があってな。あの竜の意思になってたのはその術者だ」
「死体を操るってそんなこと出来るの?」
「可能だ。すでに体系化されている術式だからな。蓬莱では原則使用を控えているだけでとんでもない術式やブツがゴロゴロしている。死体を操るのは外聞が悪いだけで、まだかわいいモノだ」
「あの竜にいたのがチンピラでは無く方士とやらだった根拠は?」
「あのチンピラがエーテル弾――環子弾というらしいな――を撃ってもまともな威力にならないし、まず当たらない。それに複数の術式も扱えない。それが証拠だ」
……これは面倒な、とスズネは思う。
さっきの竜だけでこの惨事だ。蒼怜がいなければこの村そのものが無くなっていただろう。
それが、もっといる。しかも来るかも、もういるかもしれない、と来た。
「なんでそんな連中が来ると?」
「この世界はエーテルに満ちている。それだけでも実効支配に奔る動機になる。十分すぎるほどにな」
「それが方士なのね」
ミオリは蒼怜の瞳を見据えて、問う。
「じゃああなたはどうなのかしら。方士なのでしょう?」
「あいつらと一緒にするなと言いたいところだが、信用するのは難しいと思う」
ただで信用など得られるものか。
ましてや、蒼怜にはスズネには助けてもらった恩がある。
「君たちはこれから、例の神隠し事件の調査に向かうのだろう?」
蒼怜はこの世界について何も知らない。
しかし、大道工学を修めた『方士』という科学者だからこそ、見えうるモノがある。
そして何より、数多くの方士を殺してきた蒼怜だからこそ、敵対する方士に対する有効な手札になる。
だから、
「俺も、道示団に――いや、まずはその調査に加えてくれないだろうか」




