第2章 プロローグ
一台の車が、道を走っていた。
四つの車輪。五人乗りで、申し訳程度の飾りっ気しかない車体。
大気中の環子を燃料とするそれは、この辺りでは珍しいどころかようやくごく一部の一般人の手に届きうるかどうかというモノであった。
故に、それが走る道は土のまま。舗装も何もなされていない。もっとも、こんな山奥にまで道路を舗装する意義があるのかは、議論の余地があるだろう。
とは言え、人が通ることで出来るのが道というものだ。
多くの人が手に出来ずとも、車を用いて楽して遠方に移動したいという需要は確かに存在するのだ。
そんな需要を形作る一部であろう三人一家、その子供が無邪気にあるモノを指さした。
「パパ見て! おっきいとりい!」
そして畳みかけるように、
「なんでこんな山奥にあんなのがあるの?」
大きい鳥居がずらりと立ち並んだ先には、大樹があった。おそらく相応の樹齢を重ねているのであろう。
その太い幹に組み込むように建物――はっきり言うならば神社そのものだ――が建っているのが見える。
一児を授かるほどに長く生きてきた二人にはそれはもう見慣れたモノだ。
「あれはね、白原神社って言うんだ」
「はくはら?」
「そう、この辺りの山や村に町を守ってくれる神様が住んでるんだよ」
「まぁ正確には道示団所属の巫女が住み込んでいるんですがね」
と、助手席に座っていた男が補足をするが、その隣の運転手はあきれた顔を浮かべている。
「おまえなぁ、子供に対する説明に道示団とか言ってもわからないし、そこまで関係ないだろうがよ」
「しってる。かいいとかをやっつける人たちでしょ?」
「ほら、知ってたじゃないですか」
「知ってるのか……」
「おとうさんがどうしだんやじんじゃの人たちと仕事してるっていってたから」
「道示団となりますと、最近起きた爆発の調査に来たんですかね」
「いえ、そちらは別の人が向かっていまして。私は単に帰省ですよ」
「なるほど、ゆっくりしていってください」
「とりあえずおまえは、その軽い口をどうにかした方がいいと思うがね」
ともあれ、客を退屈させないのも立派なサービスの一環ではあるだろう。
満たされれば無くなるのが興味というものだ。
「にしても、こんな山奥に住んでるなんて、どんな巫女さんなんだろう……」




