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三十三、サスペンスドラマじゃあるまいし


…………どのくらい時間が経ったのだろう。さっきから、まるで船の中にいるときみたいに視界が上下左右に揺れている。


……なんだ、これ。


 なぜか体の自由が利かなくなってしまっているようなので、不審に思って手を凝視したところ、どうも頑丈そうな縄でご丁寧に縛られているらしかった。


 頭がくらくらするほど焚き染められた藤の香。見渡す限り広がる薄闇――。きつく縛られた両手をみのむしのごとく動かすと、大の大人二人がギリギリ身を寄せ合えるくらいの空間が、そこにはあった。


 一体ここはどこなんだろう。考えようにも、前後の記憶が曖昧になっているせいで、場所どころか意識を失うまで自分が何をしていたのかさえ、霞がかかったかのように全く見当がつかない。少なくとも、どこかに移送中であることは間違いなさそうだけど。



 誘拐、だったりして。



 縛られた両手、前後の記憶はなし、極めつけは暗い密室。

 信じたくはない。けっして信じたくはないけれど、一度、客観的目線で今置かれた状況を飲み込んでみたら、いよいよ誘拐というシチュエーションが現実味を帯びてきてしまった。


 うそでしょ、冗談じゃないんですけど…………。


‘‘留守番の一つも満足にできない無能な子ども‘‘認定されないよう、うまく立ち回ろうとしたのに。これでは本末転倒だ。


 誘拐……考えうる限り最悪の事態を想定してうなだれた、その時だった。


 もにょっ。


 なめらかで、それでいてつるりとした、唯一無二の不思議な感触……これって、もしかして。


 くぅーん、きゅーんと、か細い声。


 間違いない。布の下でもぞもぞと蠢いているものは――


「っっっコタロー!?」


「……トラあああ~!」


 感動の再会とはまさにこのこと。コタローは私を認識するなり、涙まじりに腕の中めがけて飛び込んできた。


「どうしてこんなところに?――って、聞いてもわかんないだろうけど」



「ううっ。こわかったよう。あのね、おいらね、起きた時にあぶらあげの良いにおいがしたから、そのにおいを辿ろうと思って外に出たの。そうしたら、いきなり目の前が真っ暗になって――」


 思いがけない返答に、とっさに下唇をかむ。なんだよ、うっかり好物につられたところ以外、私とほとんど同じ状況だったってことじゃんか。


***


 外から淡い光が差し込んでくる。どうやら私たちは今、牛車のような形をした乗り物の中にいるらしかった。乗り物全体を覆っていた硬い簾は、枷の類のないコタローが爪でひっかいてくれたおかげで、少しだけめくることができた。



――助けが来ない以上自力で脱出するしかないので、ここから先は協力プレイだ。というわけで、コタローには引き続きひっかき作業をお願いし、私は誘拐犯の目星、というか動機を探っていくことにする。


 かりかり、かりかり。


 とりあえず、仮説1はこう。《生前、キツネ好きが暴走した結果エキノコックスにかかって命を落とした人による逆恨み。》


……うーん、我ながらずいぶん生々しいけど、これが100%合致することはなさそう。


 そして仮説2はこんな感じ。《犯人には特にこれといった目的はなく、手当たり次第に人を攫っていたところを、たまたま目に付いた私たちが運悪く標的にされた。》


 なんかこれが一番信憑性がある気がする。たまに怨霊化する幽霊がいるくらいだし。


 耳奥で、コタローのかりかり音が炸裂する。


 ……ただ。


 もし仮説1や2じゃなかったとして、私とコタローが揃って攫われたということは……たとえば、たとえば。




 沖田さんの弱みを握るため、とか。




 ふとそんな考えが脳内に浮かんだ瞬間、反射的に、それはないな、と首をふるふる振っていた。


 だって、いくらなんでも。コタローはともかく私があの人の弱みになりえるとは到底考えられない。相手はあの沖田さんだ。自意識過剰にも程があった。やっぱり無難に仮説2だろうか。


「トラ! ようやく大きな穴が開いたよ!」


 でかしたコタロー!と褒めるより先に。


 コタローが満面の笑みでミッションコンプリートしたのを見計らったかのように、牛車ががたん、と今までで一番大きく揺れた。急ブレーキをかけたにしては、地震かと思ってしまうくらい下手くそだった。あまりの衝撃に大きくバランスを崩し、そのまま天井に鼻を思いきりぶつける。案の定、縄のせいで受け身も取れなかったのでかなり痛い。くそう、コタロー自慢の八つのふさふさしたしっぽにクッションになってもらいたかった。


 平気そうなコタロー。ふたりでおそるおそる籠から顔を突き出してみると、湧き上がる泉の側、朱塗りの橋を隔てて、向かいあって合掌をする巨大仏像群が視界いっぱいに広がった。


 目の前のなんとも奇奇怪怪な光景に、ごくりと生唾を飲み込む。


「……ようやく来たか、狩野虎美」


 声の主のほうに首を動かせば、豪華絢爛な門の前で仁王立ちして私たちを見下ろす、厳めしい青年の姿があった。



〜あとがき〜


あけましておめでとうございます!


2026一発目のしゃんみれがトラちゃん誘拐回でいいのか……?とは思ったものの、結局やっちまいました。


そうそう、みなさんは初夢ご覧になりましたか?

目玉木は!なんと!!新年早々夢の中に沖田総司が出てきてビックリ仰天でした!!!

ちなみに今回のお話で出てきた牛車の中の香りについては、一富士二鷹三茄子の富士で縁起がいいかなあと思い富士→藤にしてみました!笑

みなさんが見た素敵な夢も、もし良かったら教えてくださいね〜^_^

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