表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/32

十四、かるま堂のだるま店主




「古着、骨董、古本、日用雑貨、玩具、嗜好品に至るまで、どんなものでもお買い得!」ーー完全にテレビショッピングのノリな沖田さんは、初見(私)の反応を、それはそれは楽しんでいるようで。


(……そのまま、そのままね。)


 タイミングをよく見計らって、私は抜き足差し足忍び足体制になる。


 何を、やっているのかって? こちらにシューシュー舌を伸ばしてくる巨大蛇の餌食にならないようーー今から、逃げるのだ。泥棒対策のために店番を任されているのかそうじゃないのか、事情は全く分からないけど、万が一にもヤツが毒ヘビだったとしたら、とにかくだいぶやばいのだ。


というわけで思い立ったが吉日。


(よし今だ!)


 50m走万年8秒台後半とは私のことよ、自慢の足で、一目散に駆け出した。


「トラちゃん、そっちには!」


 背後の悲痛な声はあえて無視する。すいません沖田さん。可哀想だけど、あなたにはちょっとばかりおとりになってもらいますので。


「神出鬼没の店があるんです!……って、言ったそばからーっ!」


「んぎゃっっっ」


 沖田さんの手は結局届かずーー私は透明かつ硬い感触に、気づけば頭から激突していた。さっきまで、壁なんて、なかった、はずなのに。頭を抑える。一周まわって、笑っちゃうほどツイてない。


 しかも、棚から落ちに落ちまくった品物を見るに、ずいぶん派手にいってしまったみたいだし。ああ、今にも鼻血が出そう。ついでに穴があったら埋めてほしい。


 ふらつきながら立ちあがろうとしたその時、私の手はぶにゅり、何かをつぶしてしまう。


(おわ、気持ち悪ッ)


 急いでぱっぱと手を払う。


「トラちゃん大丈夫……じゃあ、ないですよね。」


 困ったように微笑む沖田さんは、なぜかしばらく間を置いた後、「あちゃあ!」と目を丸くした。


「それ、店主のおやつじゃないですか! まむし屋・蛇来だらい特製"かえるの目玉汁"!」


 え、私は徐々に眉をひそめる。


 手についた"かえるの目玉汁"らしき粒たちは、現世で言うタピオカに見えなくもないけどーーまあ、映えるかと言われたら、ズバリNOではあるだろう。


「……全くもう、とんでもないおてんば娘なんだから。店主には一緒に謝ってあげますから、トラちゃんもしばらくきちんと反省すること! 分かりましたか?」


 張り切る学級委員長、みたいな沖田さんが差しのべた手を、しぶしぶ、本当にしぶしぶ、私は握る。沖田さんは、もしかしてかえるに慣れてるんだろうか。さっきの感触がまざまざと蘇る。かえるに触るだなんて、思い返せば初めての体験だった。




 『我楽多あります』と慎ましやかに書かれたのれんをくぐるなり、沖田さんは勢いよく頭を下げた。私も一応、控えめに真似しておく。


「この度は、うちのが多大なご迷惑をおかけしまして……」


「おいおい面を上げてくれ。気にすんじゃねえって。沖田の旦那には毎度世話ンなっちまってるし、これでチャラってもんよ!」


 正直、目は何度もこすった。


 立派に蓄えられた髭、強い眼力、それから。まるまるとした、赤い体ーーそう、騒ぎに駆けつけたこの店主、限りなく"だるま"なのである。



 ふたりはまあまあ付き合いが長いのか、沖田さんの申し訳なさそうな顔は、店主に言われるがまま、いつの間にか消えていた。


「今日もこっちのほうが賑わってるみたいですねえ」「いやはや、そちらさんこそお役目大変だろがい」……といったふうに、軽めの世間話を交わす大人たちのコミュニティにはお邪魔せず、私は店内をおとなしく物色することにした。


「ところでそこの嬢ちゃんは……」



 やっぱり来たか。変な誤解を招いたら困るので、沖田さんからささっと距離を取るためにも。


「はい、かるまさんが知っての通り!」


「分かってらァ。例の"助手"だろ?」


 私は、持っていた『お菊の皿』を、危うく落としてしまいそうになった。


 わとそん、実は知らないうちに公認だったのか……? そんなことを思いながら。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
かえるの目玉汁……ぞわぁっとしますね……! 世界観が好きすぎるし、知らぬところでわとそんが公認になっているとは笑
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ