イギリス旅行兼調査任務
オウギは4月の段階で8月の丸々1ヶ月休暇を取ることを申請していた。その承諾は貰っていたのにも関わらず、イギリスを訪問することが知られると任務を与えられてしまった。
内容はヨーロッパを中心に目撃されている異様な能力者たちの調査だ。なんでも複雑に次元を歪ませれる者がいるのか、セーフガードですら未だに実態を掴めていないらしい。
教官は代わりとして、休暇と任務の期間を合わせて2ヶ月やると言ってきた。大方調査期間が2ヶ月で、実質休暇なしみたいなものだろう。
「能力者の目撃情報は見たか?」
飛行機の中で、オウギがホンドに確認する。
「軽くな。規則性はなさそうだ。証言に上がっている能力もバラついている。複数の目的を同時に進行している可能性がある」
「1人捕らえて問いただせば終わる任務でしょ」
「ララバイがやったら、それは尋問だ」
「私がやれば、素直に喋らせられる」
「それも相手への攻撃となんら変わらない。初っ端から悪い印象を与えてしまうのは今後の関係性に響く」
「記憶だって消せるよ」
「消した記憶を再現できる者がいる可能性だってある」
能力者についてはほとんど分かっていない。アンセムのナノ物質だって我々がそう言っているだけで、彼らの能力と同じものとは限らない。
飛行機が着陸し、イギリスに着いた。ここには待ってくれている人がいる。オウギの恋人ハーミーだ。純粋なエネルギーの研究をするために彼女は英国技術大学へと渡った。それ以来オウギは長期休暇を利用して、彼女に会いに行っている。
初めて彼女に会う仲間は、その彼女の外見の美しさにオウギがゾッコンなのもなんとなく理解した。美人な顔立ちに美しい琥珀色の瞳、それに一際目立つ大きな胸。今までハーミーを知る人からは、内面の話ばかり聞いていたから外側も良いなんて思わなかった。
「新しい友人を紹介しよう。のっぽのアンセムと一応姉のララバイだ」
「よろしくね」
「お姉さんとお呼び」
「オウギと同じ日に生まれたんでしょ。だったら私の方がお姉さんじゃない?可愛い妹ちゃん」
「お姉ちゃん」
ララバイがハーミーの胸に飛び込む。その光景にオウギは不服そうだった。
「それで、ダンカイとデングはまだ来てないのか?」
「いや、2人でご飯食べに行ってる。何も食べずに来たんだって」
「飛行機の中じゃロクな物食べられないもんな」
「誰なのダンカイとデングって?」
「ダンカイはハーミーの従兄にあたる冒険家。と言っても俺らと同い年。デングは傭兵になった昔からの友人。小学生の頃は俺ら3人でハーミーを守る会とか作ったものだ。懐かしい」
そのダンカイとデングは、空港内の飲み屋でツマミ料理をひろげて、ビールを飲んでいた。もうすっかり酔っている。
「おう、来たか。女子が増えて嬉しいよ」
デングは空いている席に座るように誘導してくる。この2人の危険性を知っていたら、泥酔していてもちょっかいをかけないだろう。いやデングならかけるか。ララバイが彼の隣に座った。
「傭兵なんだって。強いの?」
「これでも、いろんなところから、オファーが来てんだ。俺は、1番金積んでくれたところから受けることにしてる。俺には、金を積ませる力がある」
「へー、手合わせ願おうか」
「ベッドの上なら喜んで。ハハ、悪いが今日は休暇で来たんだ。それにアンタも酔ってる男に負けたら言い訳できないだろ」
「酔ってても勝てる気でいるんだ。だったら酔ってなくて負けたら、あなたは何も言えないわね」
ララバイはデングから酔いを抜き出した。シラフになる感覚があるのは気分がいいものじゃない。改めて目の前の彼女をじっと見つめる。
「オウギ、この人誰?」
「ララバイだ。私の双子の姉にあたる人物で、私も彼女が止められなくて、よく困っている」
「さぁ、手合わせ願おうか」
ララバイはデングを連れて空港の外へと出ていった。ホンド、ゲイン、アンセムが後をついて行く。オウギはダンカイの隣に、ハーミーはそのオウギの隣に座った。
「見に行かなくていいのか?」
「結果は分かってる。それより機内食のお口直しがしたい」
オウギがデングの前にあったツマミ料理を食べる。ハーミーも欲しいものがあったら貰う。さらに追加で注文する。
「2人は酒まだ飲まないのか?」
「そこまで好きじゃないからな。ハーミーもお酒弱かったし」
「飲んだのか?」
「飲んだことすら忘れるくらいだった。昔貰ったアルコールの入ったチョコ食べてテンションおかしくなっていたことあるから、もしかしたらとは思ってたんだが」
「オウギに絶対飲むなって忠告されたからね」
ツマミを食べ終え、手合わせしているララバイとデングの様子を見に行く。場所は聞かなかったが、人が集まっていれば、そこにいるだろう。実際にいた。
デングの右肩から左横腹にかけて大きな切り傷ができている。
「ララバイ、デングは強かったか?」
「悪くはなかった。あのブーメランの扱いはセーフガードでも通用する。知能が低くて試験に受からなかったのが勿体ないくらい。今からでもパパのコネで永存アカデミーに入れない?」
「あまり親の権力を使うな。それで、デングの方は?」
「問題ない。今治る」
アンセムはナノ物質を使いデングの傷を塞いでいた。彼の再生能力はあまり速くない。みるみる傷口だけでなく衣服まで塞がっていく。だが彼女が能力を使ってくれたおかげで、任務が捗りそうだ。
どこからともなく4人の人物が現れ、こちらを見ている。そのうちの1人がアンセムに近づき手を伸ばしてきた。
「君は能力者だな。是非とも我が国に来てくれ」