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セパレート  作者: アキトの小説の時間
チームアップ
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孤児院

 ララバイのメンバー入りは永存アカデミーの同士たちから強い反感を買った。親の権力を使っていたことが何よりも批判されているポイントだ。しかしアカデミーが建設される20年前より前は、セーフガードのメンバーはスカウト制だったし、今でも才能のある者はスカウトされる。ララバイの強さを考えれば妥当だ。


「この巨体と怪力、オウギが友達に置いておくのも納得ね。でも私の力は絶対的」


 戦闘訓練でララバイとゲインが戦った。チームで1番背が高い者と1番背が低い者の戦いの結果は、背が低い者の勝利に終わった。せっかく講習で体得した質量のある分身が何の役にも立たない。


「オウギから技を貰えばいいのに、彼は何であげないの?」

「かつて、軽率なことはできないと学んだんだ。それにお前は頭3つ飛び抜けているから分からないかもしれないが、俺たちは充分強い」

「それは否定しない。ところで当のオウギは?アンセムがいないのはいつものことだけど」


 アンセムはララバイのチーム入りが受け入れられず、なるべく彼女と関わることを避けている。今日はオウギの趣味に付き合っていた。そのオウギの趣味というは、町の孤児院への貢献だ。


「オウギだ!」

「やぁやぁ子どもたち、これ今回の差し入れ」


 アンセムに持たせていた「偉い人の話全45巻ボックスセット」を6歳くらいの男の子に渡させる。子どもは重たそうにしていたが、嬉しそうだ。あんな本貰って喜ぶ子ども実在したんだな。言っても漫画ではあるからか。


「このお姉さん誰?」

「アンセムだ。この人は喋れるよ。遊んでもらいなさい」

「……アカデミーにいるべきだった」


 オウギは孤児院の建物の中に入り、様子を確認する。廊下には壁いっぱいに絵が飾れ、広間にはオモチャが転がっている。テレビを観ている子どもたちに挨拶し、キッチンに入る。そこには孤児院で最も大きい孤児がいる。


「あ! 来てたんだ」

「コハク、そろそろ屋根を直してもらった方がいいぞ。雨漏りも酷いんじゃないか?」

「窓ガラスと給湯器直して、洗濯機買い替えたら資産が尽きたって。直してくれる?」

「台風が直行するようなことがあればチーム総出で直してやる」

「その言葉忘れないでね」


 コハクは慣れた手つきで切っていた野菜を鍋に入れ、炒め始める。孤児院に住む40人分ものカレーを作っているんだ。時間はかかる。オウギはじゃがいもの皮の薄さを称賛する。


「上手いな。すっかりプロの料理人だ」

「野菜の剥き方だけで判断されてもね。私はここを継ぐから料理人にはならないし」

「変わらないんだな」


 かつて、コハクはオウギの養子になりたがった。それは年齢差が足りないことを最大の理由に断った。その後、オウギの恋人ハーミーがイギリスの大学へ行ったことを気にオウギの彼女になろうと動いてきた。それは年齢差があることを最大の理由に断った。今となっては面白かった思い出だ。


「オウギ!」


 アンセムの叫ぶ声が聞こえる。アンセムに続いて子どもたちの叫び声も聞こえる。すっかり子どもたちのボスになったようだ。


「誰?」

「今チームで1番ストレスが溜まっているメンバーだ」

「行かなくていいの?」

「そのうち見つかる。楽がしたくて私のチームに入ったのに、働かされてばっかで不機嫌になっていたんだ。そしたらチームに彼女が嫌う女が入ってきて、今ではいつも悪態をついてる」

「抜けられたりしないの?」

「面倒くさがりだからな。それに彼女は、私のチームに入りたがっている他のメンツを押し退けて入ってきたからな。周りの目も気にしているんだ」

「いたー!」


 今ではアンセムの手下になった子どもが大声で報告しながら掴みかかってきた。後に続いて子どもたちがやって来る。


「こらこら、包丁が飛び交う部屋で動き回るんじゃない。そっちの部屋へ。で、アンセムは何をやってのけたんだ?」

「すごいんだよ! 外のパンチするやつ1回で壊しちゃったんだから」

「それは凄い。直さないといけない物が増えたな」


 オウギは適当に手を振り、コハクに「また後で」と伝える。前までナノ物質なしでは大して強くなかったのに、デフォルトスペックが上がって制御が効かなかったか?いや、制御する気なんてなかったみたいだ。

 アンセムは座ってサンドバッグを直す様子を子どもたちと見ている。


「私が面倒くさがってチームから抜けずにいるって?」

「聞いてたのか」

「外から探してる時に、窓開いてたからね。と言うか気づいてなかったの?気づいてて陰口叩いてたんだと思ったんだけど?」

「普段から周りに警戒しているわけじゃない。そんなことしたら君たちのプライバシーは失われる。それで実際どうなんだ?」

「合ってるんだけど、癪に触った。本気で抜けてやろうかと思ったけど、でも他に行くアテないから抜けられずにいる。誰かに拾ってもらえれば良いんだけどな」

「子どもたちの前でよく言えたものだな」


 サンドバッグの修復が終わり、オウギとアンセムはコハクの作ったカレーをご馳走になる。子どもたちの基準で作られた甘口のカレーだ。アンセムの口には合わない。そんな彼女の隣にコハクが座る。


「オウギどう?」

「どうって?」

「チームのリーダーとしてどうなのかなって思って。子どもの耳を塞がないといけないような愚痴じゃなかったら聞くよ」

「ティーンエイジャーの中でも下側の分際で、大人びたこと言うもんじゃないよ」

「それで、どうなの?」

「強いし、落ち着いてるし、判断能力も高いと思うよ。けど、ちゃんと感情も持ち合わせてることがこの間分かったんだ」

「何があったの?」


 アンセムは嫌いな女が好かんリーダーと殴り合い、挙げ句の果てにその嫌いな女がチームに入ってきたことで好かんリーダーもここ数日不機嫌であることを話した。思返してみるといい気味だ。


「オウギ、テンガンの話とかしたがらないもんね」

「てっきり父親に憧れてセーフガードになろうとしてるんかと思ったんだけど。私なんて親孝行のつもりでママに勧められた永存アカデミーに来たのに」

「オウギがセーフガードを目指すのは、そこが自分の力を活かせる最大の場所だって考えてるからだよ。親子の問題はともかく、セーフガードの方針には賛同してるから」

「よく知ってるね」

「教えようか?小学校行ってなかった話とか、ハーミーに依存してたとか、他の男に取られるのが怖くて彼女を夜這いしようとした話とか、おおかた過去の話なんて全然してないんでしょ。私はいろいろ知ってるよ」


 全部聞こう。こんな飯ウマな話を逃すなんて勿体ない。

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