台風接近
オウギが日本に戻ってきて2週間ほど経った日、町に台風が来るという予報が出た。しかも現在、3つの台風が接近しているとのこと。直撃しないにせよ、天候は荒れるだろう。備えるために屋根の修理をしないといけない。
「今日は遊んでくれないの?」
孤児院の子どもたちが屋根を見上げながら聞いてくる。5人で来て全員で早く終わらせる必要もない。
「私が遊んであげようか?」
修理に参加する気のないララバイが申し出てきた。
「お手玉にでもするのか?」
「それ良いわね」
「ゲイン、遊んでやれ」
普通より大きい人は子どもたちからも人気がある。肩車してもらうだけでも景色は圧巻だ。
「私だって子どもは好きよ。けどあなたは違うんでしょ。聞いたけど、ハーミーと結婚する気はあっても、子どもを作る気はないって。何でこんなことしてるの?」
「私が親になりたいと思うか?ここと彼らには手助けがいる。それに昔からの縁だ」
かつてオウギはハーミーに連れられて孤児院に来た。親に歓迎されなかった子ども、あるいは親の英断で捨てられた子どもと会えば、彼らが理解してくれると考えたからだ。その成果はあった。だから今もこうして来ている。
「ハーミーは私が見てきた中でも最も素晴らしい人間と言える。その血縁を、子どもを作る気のない弟のせいで絶やされるなんてもったいない」
「残念だったな」
子ども問題は過去にもホンドたちと話したことがある。最終的にオウギがセーフガードになってテンガンの後を継ぐなら、子どもにも危険が及ぶ可能性があるという彼の主張が通った。
屋根の修理が終わり、台風が来ても大丈夫なように植木鉢や遊び道具が室内に持ち込まれる。ちょうど終わったのが昼頃だ。
「お昼食べてく?」
孤児院の孤児最年長のコハクが提案してきた。偶然だが前来た時と同じでカレーだった。アンセムはナノ物質で舌を若返らせ、甘口でも美味しく食べられる技を身につけていた。
カレーを食べ終え、団欒して帰るつもりだったが、永存アカデミーの同士から電話が入ってきた。同じリーダー格のショウロウだ。面識はあるが会話したことはない。
「何があった?」
「お前に電話する奴は何かあった奴だけなのか?まぁいいや、7月に起きた高校の1つのクラスの生徒全員が消息不明になった事件知ってるか?」
「ニュースで聞いた程度には」
「その高校生たちが先日全員戻ってきてたんだ」
「良かったじゃないか」
「実は俺の母親の友人の子がそのクラスメイトの1人でな。個人的に捜査を頼まれていたんだ。俺も訓練やら任務やらで、なかなか捜査できずに何もしてやれなかったんだが、戻ってきたその子をみてみたら、どうも別世界に召喚されていたらしい」
「今は異世界って言うんだよ」
電話をスピーカーにしていないのに、ララバイが会話に入ってきた。
「それで特別な力でも貰って帰ってきたと?」
「あぁ、おそらくクラスメイト30人全員な」
「どんどん異形だらけになりそうだな」
「今彼らは公園に集まっているんだ」
「こんな休日に全員が公園に?仲良いんだな」
「俺はチームのメンバーと共に彼らから、貰った力について聞き出そうと思う」
「必要なことなのか?」
「力は人を惑わす。行っていた世界が殺伐としていたなら、その力は存分に役に立ったかもしれない。だがこっちではそうもいかない。正しく使える力なのか見極めなくてはならない」
「それを君がやる必要があるのか?」
「俺では判断を誤るかもしれないから、オウギ、お前に電話をしている」
「了解今すぐ行く」
オウギから電話を取り上げ、ララバイが返答した。勝手なことする姉だが、ただの一般人だった高校生が何かしらの力を得たのなら、みておこうという考えには賛成だ。
公園で高校生たちは静かに現状報告をし合っていた。彼らは異世界に行き、役職スキルという能力を得て帰ってきた。この力を他からは隠すことを決め、こっちの世界で使って異常がないかを見ている。現状誰も問題なく使えている。
「コラギ、一応言っていた制御装置、ブレスレット型できたぞ。太いし、両腕につけないといけないから、ダサいけど」
「ないよりいい」
コラギは怒りで凶暴な戦士になるバーサーカーという役職スキルを持っている。戦いには向いているが、生活において邪魔でしかない。
「ん?誰かいる!」
観測者という、広い範囲を見ることができる役職スキルを持つモルタナがオウギとショウロウ、それにそれぞれのチームのメンバー、合わせて10人に囲まれていることに気づいた。本来ならもっと早く気づけた筈なのに。
「誰だ!」
「察知はいいのに、察しが悪い。俺は永存アカデミー訓練生ショウロウだ」
「アイツ見たことあるぞ。セーフガード見習いだったのか」
「ってことは逃げた方がいいな。ウラガイ、移動だ!」
「させないよ」
ララバイが次元を歪ませ、ウラガイの空間移動を妨害する。すっかり能力者の国で見た次元の扱いが身についているな。
「落ち着け。私たちは君たちの力について知りたくて来たんだ」
「騙せるものか! そうやって近づいて、いずれは俺たちも能力者の国という監獄に入れるつもりだろ!」
どうやらこの高校生たちは、メディアの報道を鵜呑みにしてしまっているらしい。連中は、能力者の国を何かしらの力を持った人間を隔離し研究するための施設だと決めつるけるような発言を繰り返し、国の承認を推しているセーフガードのことも批判している。
「お前たちが能力者でないことは知っている。根本が違うのもな」
「黙れ!」
ヨキナシが華奢そうな人物に向かっていった。弱そうなのを倒して突破口を作ろうとしたのだろう。見た目通り本当に華奢なら永存アカデミーには入れない。思いっきりぶん投げられた。ちなみに彼は女性的な見た目だが男だ。
「よくも!」
先に仕掛けたのは高校生側なのに、まるで敵討のようにみんな交戦体制に入る。
「オウギ、私に任せてくれたら、彼らはすぐに大人しくなるよ」
「傷つけるのも痛めつけるのもなしなら任せるが」
「できるかどうか試してみる」
ララバイが1人で力を持った高校生たちを圧倒していく。その中の1人マイウオが、オウギという名前を聞き、彼を人質にするために彼の生涯が現在進行形で書かれている本を取り出した。
「ちくしょう、また本に鍵がかかってやがる!」
「何するつもりだったか知らないけど、残念だったな」
結局ララバイは、傷つけることも痛めつけることも、やった。次はなしだな。
「さて、話してもらおうか。何なら向こうの世界で何があったかまで聞きたいな」




