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〜 黄昏 〜  作者: 晴倉 里都
第五章
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物語

 智恵香は、久しぶりに訪れた場所を見つめた。


 変わらない


 確かに多少、設備が新しい物になっているところもある。

 しかし、当時から全体的に古めかしい建物であったため、今、目に見えて極端に古く感じることもなかった。


 懐かしいと思っていいのかどうかすら、智恵香にはわからなかった。

 ここにいたのは5歳から、2年ちょっとくらいだったか


「いらっしゃい」


 真鍋 宏美(まなべ ひろみ)は、巣立っていった子供を優しく迎えた。


 真鍋は智恵香が施設にいたころから、職員として勤務していた。

 当時の職員は他にも残っているが、智恵香が確認したいことはただ一つ、真鍋しか知らないことだった。


「お母さんのこと?」


 真鍋はそう言いながら不思議に思った。

 智恵香が会いたいと言ってきた時も、生みの親のことを聞きに来るという想像がつかなかったのだ。

 智恵香の母が施設を訪れた時、自分が対応した

 実際に智恵香の母親を直接見ているのは職員の中で自分一人だけなのだ

 当時のことは今も鮮明に覚えている


「塚本さんご夫婦からお話はなかったの?」


 子供を引き取った夫婦は、子供に説明する義務がある。

 真鍋は塚本夫婦に母親の話はしていた。


「いえ、話そうとしてくれたんですが。聞かなくても大体覚えているので」


 智恵香はそう言った。


「ただ、私、話の内容はある程度覚えているんですが、連れてこられた日は、母に手を掴まれ引っ張られてきたので、なんとなく嫌な予感しかせず、ずっと下を向いて歩いてたんです。なので、その日はまともに母の姿を見ていないのですけど。それでも普通……」


こう言った後、智恵香は少し考えた。

 『普通』だなんて変ね

 子供を捨てにきた母親の『一般的』なんて、統計されているものでもないだろうが、大多数の人はこう想像するだろう。


 母親が子供を育てられないと施設に来る。

母親は育児に疲れ切った様子で、おそらくお金も底を尽き、地味な格好で施設に来ると。


「そういう母親は育児疲れなどがあるように見えると思うのですが。普段の母は、私の記憶の中では結構着飾っていて、その中でも特にかなり着飾って行くときがありました。子供心に母は普段からとても綺麗にしていると思っていました。ただ、ある程度の年になれば、着飾るのには理由があるとわかりました」


 智恵香は真鍋を見た。


「母は、夜のお店を経営するような雰囲気でしたよね。髪もきちっと()ってセットしていましたし。育児に疲れ切った母親というよりは、私の中では、ホステスのママさんみたいにバリバリと仕事をしているイメージなんです。でもそれは、私が大きくなってから昔の記憶と(つな)げて思ったことです。なので……。真鍋さんが当時、大人の目線で見た母親の印象を聞かせてほしいんです。優しげなお母さんだったとかいう、子供(だま)しの回答は、もう私もこの年なので不要です」


 真鍋は思った。

 この子は本当に小さなころから何も変わらない

 賢くて、いつも合理的で

 誤魔化(ごまか)しても仕方ないわね


 真鍋は言った。


「正直に言うわね。私が最初にあなたのお母さんを見て思ったのは、どこのお店のママが子供を連れてきたのだろうというくらい、あなたのお母さんはかなり目立つ人だったわ。この施設には不似合いなくらい、華やかな雰囲気の人だったの」


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