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〜 黄昏 〜  作者: 晴倉 里都
第一章
9/204

自重

 優斗は、報告書を作成している智恵香に少し目を向けた。


 智恵香の言ったとおり、確かに代議士の娘のように内気で大人しいと言われる女の子は、誰かの後押しやフォローが無ければなかなか行動に移しにくい面があるだろう。

 ましてや、大学入学直後にそれなりに活発なサークルに入り、すぐに男と交際を始めてお金を貢ぐ。娘のそばに強い味方がいないと成り立たない動きだ。

 そして、それは明らかに『男』ではない。

 彼女が安心出来る『女の味方』がいたはずだ。

 今後、智恵香はその『女』の存在を仮定して探しつつ、役員の平本をネックに調べていくのだろう。


 自分に何が出来るかを考えたとき、優斗は少し敗北感を持たざるを得なかった。

 この仕事に慣れておらず、腰掛けバイトのように雇われた身ではあるが、今のところ自分は智恵香の考える智恵香に言われたシナリオ通りにしか動けず、先を見通せない自分に悔しさはあった。

 プライドと言うほどでも無いが、役に立ちたいし、認められたいし、良いところを見せたいというのが普通の感覚だろう。

 ただ、優斗はそういった気持ちは持たなかった、というよりは持たないようにしていた。

 全体を見ずにくだらないプライドで変に出しゃばれば、智恵香の仕事の邪魔をすることになるのがわかっていたからだ。

 考えを求められたり、意見を言わないといけないときは智恵香に伝えたが、後は優斗は智恵香の助けになることだけをして、邪魔だけはしないように心掛けてきた。

 智恵香が仕事に自分の信念を持って動いていて、それを尊重することが、一番上手くいくことが理解出来ていたからだ。


 そんな優斗が唯一、ここに残ることを考えた理由があった。

 もし、自分が残留するのなら、智恵香にとって『邪魔』と思われることをしなければいけないために、優斗はここに残ることを考えていた。

 報告書を作り終えたのか、智恵香が手を止めた。

 優斗は視線を他に()らした。



 智恵香は、報告書を仕上げると優斗の方を向いた。

 話しかけようとしたが、優斗が自分で備忘録をつけていて、それを見ているのがわかったため、少し待つことにした。

 この時点で、智恵香は優斗に何か特別なことをしてほしいとは思っていなかった。

 ただ、サークルにいてもらって、何か情報が入れば教えてもらえればありがたいと考えていた。

 内部に味方がいればそれだけ情報が入る確率はあがる。 

 ましてや優斗は、智恵香の中で助かっていることがあった。

 智恵香が他の所員より白川と連携しているのは、白川が仕事上、役に立つことはもちろん、言い方は悪いが智恵香の仕事の邪魔をしないからだった。


 他の探偵事務所の所員ももちろん優秀で、悪い人はいない。ただ、やはり良い意味でも悪い意味でもプライドがあり、智恵香の仕事のやり方と合わないときがある。

 白川は智恵香と仕事の進め方が似ていて、智恵香が何の理由があってこうするかを熟知しているため、冗談以外は反対することは無く、智恵香としてはやりやすかった。

 そういった意味で、優斗もまだ何もわからないからというのもあるとは思うが、おそらく性格上、仕事の口出しはしてこないタイプらしく、智恵香はこの時点では優斗にもう少し仕事をしてもらっても問題は無いと思っていた。


 智恵香は優斗が今考えていることを知るよしもなかった。

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