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〜 黄昏 〜  作者: 晴倉 里都
第三章
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欲望

 優斗はどうすべきか戸惑った。


 智恵香は熱にうなされているのか

 それとも何か目的があって優斗を好きなふりをしているのか


「わかった。ここにいるから」


と優斗は自分の身体の前に回された智恵香の腕に自身の手を重ねた。


 しばらくそうしていたものの、優斗は


「横にならなくて大丈夫?しんどいだろ」


と聞いた。


 智恵香は素直に


「うん、ちょっと休もうかな」


と言って、腕を(ほど)くと布団に横たわり


「寝るね」


というと、目を(つむ)った。


 優斗は寝入る智恵香の顔をじっと見つめた。


 キャンプは、後、三日間で終わろうとしていた。



「うわぁー!」


と白川の叫び声とともに、カランカランと食器がひっくり返る音がした。


 同時に、おやつに出す予定だったゼリーに、地面に座っていたため頭から降り注がれ、ドロドロのお菓子まみれになった奥村が出来上がった。


「ごめん!蹴躓(けつまず)いた許して」


 白川は奥村に平謝りし、一旦、着替えを用意するから、このままシャワー室に行くよう促した。


 おやつを食べ損ねた小学生達は、白川に非難囂々(ひなんごうごう)


「後で別の物買い出しに行くから、ちょっと待ってよ」


と白川は子供たちをなだめ、奥村に


「シャワー室、すぐガスいれるから」


と準備を始めた。


「どう?お湯出てる?」


風呂場にいる奥村に白川が脱衣所から聞くと、奥村はハイと答えた。


「この服洗っておこうか」


 白川が言うと、奥村は


「いいです!自分でやるんで!触らないでください!」


と言った。


 白川は何食わぬ様子で


「ごめんね、じゃあこのまま置いておくからね。ちょっと、バスタオルと着替えと、あと、服入れるビニール袋だけ取ってくるから」


と言って、立ち去った。



 明日は、キャンプの最終日となるため、今夜が最後の夜になるところだった。


 皆が楽しみにしているキャンプファイヤーの準備も整い、すでにお昼頃から参加者全員が高揚感(こうようかん)に包まれていた。


 優斗は体調の悪い智恵香のところにしょっちゅう顔を出し、二人はかなり公認の仲になりつつあった。


 優斗は智恵香の意図が不明なまま、ただ智恵香の雰囲気に合わせて、付き合う前の男女の関係を微妙に振る舞っていた。


 

 優斗は担当する業務があるからと言って、智恵香のいるテントから少し外した。


 智恵香が一人で休んでいると、 坂口 日葵(さかぐち ひまり)がトレーに食器をのせて智恵香のところにやってきた。


「塚本さんのところにこれ持って行くように頼まれたの」


と日葵は言うと


「あまり食欲無いみたいだけど、こういうスープとかなら、なんとかいけない?」


と聞いた。


「ごめんね。ありがとう。置いておいてもらったら、後で食べるね」


と智恵香が返すと、日葵は


「そう言わずに、今、頑張って食べてみようよ。後でだと絶対食べないでしょ、ほら」


と言って、スプーンでスープをすくって「はい、あーんして」智恵香の方に差し出した。


 智恵香は


「私、子供みたいね」


と笑った。


 日葵もそれに応えて笑うと


「そうね。熱くないから猫舌でも大丈夫だよ。ほら、あーん」


と口を開けるよう促し、スープを流し込もうとした。


 智恵香は少し口を開いた。


 しかし、それはスープを飲むためではなかった。


「坂口さん、私を殺すのね」


 智恵香の開いたその口から、淡々とした言葉が流れ出た。



「あなたそこまでして、堀井優斗くんが欲しいの?」

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