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〜 黄昏 〜  作者: 晴倉 里都
第一章
6/204

時機

 優斗の入部から、約一ヶ月。


 代議士の娘が交際していた相手が、会計担当の平本であった可能性が出てきた。

 ただ、これも、二人が交際していたということは当時、公にされておらず、平本は、金づるとして見ていた娘を上手く利用するため、周りには交際の事実を秘密にしようと娘に持ちかけていたと考えられた。

 おそらく娘は言われるがまま、逆に内緒の恋愛を楽しんでいたのであろう。


 犯人たちに脅しで口止めされた娘は、交際相手が誰だったか未だ頑なに語らないが、娘がバレーボールサークルに所属していた当時、娘の母親と姉がこんな会話をしていたことがあったそうだ。


 娘が仲間と遊びでバレーボールをし、突き指をして帰宅した時があった。

 娘は「先輩に手当てをしてもらった。先輩が、包帯は解けないようにしっかり巻いたから、また明日、自分が新しいのと交換して巻き直してあげるって言って下さったの」と、包帯を巻いた手を見せながら母親に話をしたとのことであった。

 その時、母親が「お医者さんでもない人に手当てをしてもらっても後を引くから、病院に行った方が良い」と勧めたが「先輩のお母さんは看護師さんで、こうすれば良いって教わっているらしいから大丈夫」と言って娘は病院には行かなかった。

 娘は包帯が解けないように家の中でかなり気を遣っていた。しかし、用事をしていて水が飛び、包帯が濡れたので、母親が新しい包帯を巻き直してあげると言ったが、娘は「明日、先輩に直してもらうからいい」と、絶対にその包帯に触らせなかったとのことであった。


 当時、その母親と妹のやりとりを横で聞いていた姉が、後になって母親と二人きりになった際、母親に対して「包帯の巻き方が変わってたら、先輩が自分のやり方が下手だったのかと思って、これから手当てしてもらえなくなるから嫌なんじゃない?」そして姉は笑いながら「きっとその先輩のことが好きなのよ。恋する乙女心だから放っておいてあげたら?」


 これまで、犯人達のヒントになることがないか、代議士からいろいろと話を聞いていたが、犯人達につながるものは得られていなかった。

 このエピソードは、つい最近、母親が長女との会話をふと思い出して代議士を通じて伝えてきたことだった。


 優斗は


「入部してすぐくらいに、足の骨折から退院してきた(あずま)先輩という人が松葉杖をついてサークルに顔を出し、担当の看護師さんがかなり怖かったと仲間と雑談していた。その時、平本先輩が、ウチの母親も職場で鬼看護師長と呼ばれているらしくて、普段他の看護師に文句を言う患者さんも、母親の言うことには全部従うらしいと言って笑っていた。その時、平本先輩のお母さん、看護師の偉いさんなんだなと思った記憶がある」


と言った。


 確定は出来ないが、役員の中で、一番、人当たりがソフトで、真面目で親切な平本は、世間知らずの代議士の娘も安心できる相手として交際を始める可能性は十分考えられた。


 今、平本は公にも彼女はいないと宣言しており、ここ1週間ほど、白川が平本を尾行するも、部活仲間と遊ぶくらいで隠れた交際相手がいる様子も無く、親しくしている女性の陰も見えなかった。

 智恵香は今のところ、代議士の娘と同じ、世間知らずのお嬢さんを演じている。

 他の役員よりは、人当たりの良い平本が、おとなしいと思われている智恵香を口説く役柄をする可能性は高かった。


「今ね」


 智恵香が言った。

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