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〜 黄昏 〜  作者: 晴倉 里都
第一章
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潜入

「優くん」


 智恵香は少し照れながら、優斗に近寄った。


 優斗はサークルの先輩に「言っていた彼女です」と智恵香を紹介した。


「塚本智恵香です。よろしくお願いします」


 智恵香はどこから見ても、派手では無いが少しだけ高価で良いものを身につけた清楚なお嬢さんだった。


「必要ならいくらでも出します」


 娘を陥れた犯人をあぶり出すためなら、必要経費は惜しまないと代議士は言っていた。

 そうは言ってもそれに乗っかり、無駄に高価なものを買うつもりは無かった。

 使用した服などは、後で売るなどして、必要経費からその分差し引く予定だ。


 入学前の2週間、そして入学後の2週間、優斗と智恵香はほぼ毎日会っていた。

 白川のすすめで、いろいろなところに二人で出掛けた。


 お互いを知るためで、本当の恋人同士のデートでは無かったが、優斗はそれなりにどこに行っても楽しんだ。

 智恵香も、笑ったり楽しんだりはしているようであったが、あくまでも仕事仲間と一緒という感じで、当然、仕事の打ち合わせの話が大半を占め、優斗の印象は


 敬語は無くなって多少打ち解けてくれたかな


くらいに(とど)まり、交際関係の男女はもとより、その一歩手前の微妙な男女間といった雰囲気も、出せるまでに到達していなかった。

 よって、入学後、本当に付き合っているように周りから見えるかが懸念材料だった。


 しかし、入学と同時に、智恵香はスイッチが入ったように『優斗にベタ惚れの可愛らしい女の子』を過度に見えない程度に演じだした。

 演技中の智恵香とはわかっていたが


 これは男は勘違いするわ

 こんなに演技が出来るなら、最初からしてくれ


と、優斗は内心、文句を言いながらも面白がっていた。


 優斗は、入学するとすぐ、例のバレーボールサークルに入部し、この2週間サークルに通い詰め、情勢をある程度把握した。


 サークルを仕切るのは、部長の一ノ瀬(いちのせ)、副部長の相葉(あいば)高垣(たかがき)、会計担当の平本(ひらもと)、遠征試合担当の前中(まえなか)、そのほか、臼杵(うすき)小野(おの)羽田(はた)向井(むかい)安原(やすはら)が各役員についており、計10名で役員会が構成されている。


 部外から監督とコーチ2人の計3名が来ており、部員数は登録者約100人、そのうち半分弱が幽霊部員で、残りが実質の参加者だ。

 試合の主要メンバーは、役員を除いた20人程度、後は、遊び程度のバレーをしているか、女子はマネージャーのようなことをしている子が多い。


 その後、智恵香が優斗の彼女として入部し、マネージャーとして部員へのちょっとした気配りを見せては、気が利くおとなしい彼女と噂になり始めていた。

 これからは、優斗と智恵香の別れるタイミングが、一つの大きな山場になる。


「言っていたとおり、優くんの浮気が発覚して、私が振られて、かなりの傷心状態に陥るというので良いと思うけど」


 智恵香は淡々と述べ、それが一番妥当な線であることは優斗もわかっていた。


 ただ「あんな良い子を浮気して振るなんて、男のクズ!」と、サークル全員を敵に回しそうな気がして、優斗は『良い子過ぎる智恵香』を演じる智恵香を少し恨めしく思った。

 そして無意識に、智恵香の演技に「すげえな」とつぶやいた。


「何が?」


 智恵香が尋ねた。


 もしかして、本当のお前は、彼氏の前ではいつもあんな甘えた感じなのか?


 と聞きたいところを優斗はとどまった。

 ここのところ、智恵香があまり振って欲しくない話題が、彼氏を含めた恋愛関係であることがわかっていたからだ。


 さっきのように仕事絡みなら、まぁ、話は出来ないこともないが


 今は特定の彼女はいないが、優斗にも過去、付き合った女の子は何人かいる。

 告白されて、それなりに良い子なら付き合ってみるパターンが多い。

 この点は、白川が言っていた智恵香の入りと似ているらしい。

 優斗は、基本優しくおおらかで、物事に動じない性格だが、ダメなものはダメと頑なで、厳格な冷たい一面もある。

 逆にそんなところに女の子は沼ってしまい、『重い彼女』『独占欲の強い彼女』が出来上がる。

 この前も、彼女の『しょっちゅう会いたい要求』に応じられず、別れたばかりであった。


 実際に、自分を追いかけて未経験の運動サークルに入部し、周囲に彼女面する子がいたら、ちょっと引くかもしれない

 だから浮気……

 まぁ、あり得なくもないか


と、優斗は、一人自分を納得させていた。

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