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〜 黄昏 〜  作者: 晴倉 里都
第一章
31/204

勝負

 湊 美香(みなと みか)は、このメッセージを見て、舌打ちをすると


「すぐ消せ」


と、送信した。


「はい。ちゃんと消しますので大丈夫です」


と桐谷が返す。


 湊コーチはイライラした。


 渡邊 柚葉(わたなべ ゆずは)が桐谷を嫌う理由がわかる。

 全く悪気無く何かをしでかし、調子に乗って失敗するタイプだ。


「名前を書くなといつも言ってる」


 湊コーチはいつも証拠が残らないよう、記録に残るメッセージは極力避け、週に1度の監督コーチの首脳陣が指導する日に、直接、言葉で役員達に必要な報告をさせ、指示を口で伝えていた。


 メッセージをする場合でも、自分の名前は絶対に出さないよう日頃から皆に徹底させていたのだ。


 しかし、今回、桐谷のメッセージの文章にイラついてしまい、つい怒りを抑えられず、このような自身の関与を肯定するようなメッセージを送ってしまった。


 湊コーチの怒りの内容にようやく気づいた桐谷は謝った。


「消したか」


「はい」


「不要なことは送って来なくていい。大事なことだけまた知らせるように。わかった?」



「『はい、わかりました。湊コーチ』っと。『送信』!」


 白川は、そう言いながら人差し指で送信ボタンを押した。


 白川は、桐谷の携帯電話を預かり、今度は桐谷になりすまして、湊コーチにメッセージを送ったのだ。


 白川はうなだれている桐谷に


「君はしばらく、智恵香お嬢さんと一緒にいてもらうから。もちろん、携帯はこっちで預かる。親には宿泊の了解は取るし、親にはメッセージを送ってもらってもいいが、内容はこっちでチェックする。わかったね」


「はい。わかりました」


 桐谷は素直に従った。



 桐谷は、入学時、湊コーチからサークルで上位カーストに入れてもらうことを条件に、代議士の娘である美羽(みう)に近づき、一緒にサークルに入部させた。


 役員達が、金持ちの議員の娘から若干お金を巻き上げ、一度豪遊して終わりくらいに思っていたら、どんどん役員と女性の先輩達の行動がエスカレートした。


 桐谷は言われているとおり、調子に乗ってしまう性格から、遊ぶ金欲しさや、美羽を入部させたことで役員達から英雄扱いのような待遇を受ける快感に酔いしれてしまい、その後、一緒になって悪事を働いても何の戸惑いも感じることなく、ただただ好き勝手出来る楽しい大学生活だと感覚が麻痺していた状態であった。


 しかし、いざ、演技とは言え『美羽』と下の名前まで呼ぶほど親しくなり、一緒に入部した代議士の娘が、自らの命を絶ったと聞き、初めて自分はなんていうことをしてしまったのかと後悔し、警察に行こうかと思った。


 しかし、今後の自分の将来を考えたり、先輩達を裏切れないこと、さらに、湊コーチが裏の人間と繋がっていて、バラせば何かしらの報復を受けると聞いていたため、泥沼から抜け出せずにいた。


 そんな時、ちょうど渡邊先輩と折り合いが悪くなり、このグループと少し距離を置くうち、本来の人としての道徳観、罪悪感に苦しみ始めた状態であった。


 湊コーチがなかなか尻尾を出さなかったため、智恵香は考えた末、桐谷の様子を見て接触を図り、ここというタイミングで彼女をこちらに引き入れ、証拠を作ることにしたのだ。



 この方策は、代議士にも伝えてあり、もし、桐谷が後悔して協力してくれるなら、桐谷のことは多くを問わないということ、証拠を掴むためなら、娘が命を絶ったと嘘をついてもらってもよいことの了解を得て行っていた。


 代議士は、明るみに出るおそれのある刑事罰は望まず、智恵香が掴んだ犯人達の悪事の証拠を元に、堂々と犯人達には弁護士を立てて戦う姿勢を(つらぬ)き、(むく)いを受けさせるつもりでいた。

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