思惑
茫然自失になって座り込んでいる智恵香の元に、平本が駆けつけ、上着を羽織らせるなどしてその姿を隠し、必死で話しかけた。
一ノ瀬と槇島は、どうしようかこのまま家にも帰せないし、タクシーに乗せて一旦、ホテルにでも行こうかと相談しあった。
その時
「そこで何をしてる」
そう言って入ってきたのは、湊コーチだった。
一ノ瀬達は驚いて、湊コーチを見つめた。
「一ノ瀬部長?」
湊も驚いて言った。
一ノ瀬がポカンとして何も言わなかったため
「いや、最近、部室に無断で侵入してる者がいるらしいと聞いて。犯人をとっ捕まえてやろうと思って来たんだけど」
と言った。
一ノ瀬達は湊コーチの嫌疑の中には全く入っていない様子だった。
ただ、智恵香の方に目を向けた時、何があったのかと鋭く尋ねた。
この状況では説明せざるを得ず、当然、コーチは「病院と警察に」と言った。
「やめ……ください。誰にも……言わな……いで」
智恵香が小さな声で反論した。
ここで通報されればややこしいことになる
湊コーチは
「とりあえず、一旦私の家に行こう」
と言った。
「ええ、そうなんです。なので、突然のことで申し訳ございませんが、今日、娘さんを。はい、他の生徒も一緒に」
湊コーチは智恵香の父親に架電し、真実は告げず、部活でトラブルがあり、娘さんは直接関係ないが、何人か緊急聞き取りが必要で、遅くなるので娘さんを自宅に泊まらせてよいかと架電した。
所長はIT企業の社長さながらに話をして、快諾した。
さて
智恵香はシャワーの蛇口をひねり、水音を出した。
今のところ予定通りいきます
今日は動きは無いと思うのでまた明日
と、浴室に持ち込んだ携帯電話で優斗にメッセージを送る。
優斗は現場近くに隠れていて、智恵香の持つ盗聴器も聞いているはずだ。
なんだか登場人物が増えてしまったが、事情はのみ込んでいるだろう
シャワーを浴びるフリをしながら、優斗の返信を待つと
とりあえずコーチもいるなら安心だけど、盗聴器はオンにしとけよ
と送られてきた。
盗聴器は朝まで消しておくつもりだったのに
優くん、寝ずに盗聴器聞くつもりかしら
心配症にもほどがあるんだから
智恵香は考えた。
第三者の湊コーチの介入は想定外だった。
とりあえず、警察には言わないでほしいというお願いは受け入れてくれたが、湊がコーチという立場上、学校に報告されても困る
学校の上層部は智恵香達の潜入の事情は知っているが、あくまでも湊コーチは部外の人だ
中途半端に事情を知らない役職の者の耳に入ると厄介だ
ただ、コーチは大学に直接関係はないがゆえに、不祥事で廃部になれば働き口が減って損をするのは湊コーチなので、噂になりたくないと口止めすれば、言わないとは思うが
湊としては、本心は、このことは大っぴらにはしたくないだろう。しかし、大人としてそれ相応の措置はしないといけない
この狭間に今、揺れているのかもしれない
コーチに知られたことで、一ノ瀬達の動きが変わるかもしれないのもネックだ
「動画とか撮られている可能性はありそう?」
リビングに戻ると、湊コーチが智恵香に尋ねた。
智恵香は小さく頷いた。
「許せねぇな」「なんとか取り戻して消させないと」「俺達で何とかするから。智恵香ちゃんは心配しないで」
一ノ瀬達が口々にそう言った。
智恵香は俯きながら思った。
どの口が言う
どうせこの動画も手に入れて、今度はこっちが脅されることになるのだろう
「証拠はその動画くらいかな」
湊コーチが聞いた。
平本が
「智恵香ちゃんが電話で最初にあいつの名前を言ったんですけど。その時、録音とかもしてなくて」
「そう」
と、湊コーチが静かに言った。
「録音……ね」




