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〜 黄昏 〜  作者: 晴倉 里都
第一章
21/204

思惑

 茫然自失(ぼうぜんじしつ)になって座り込んでいる智恵香の元に、平本が駆けつけ、上着を羽織(はお)らせるなどしてその姿を隠し、必死で話しかけた。


 一ノ瀬と槇島は、どうしようかこのまま家にも帰せないし、タクシーに乗せて一旦、ホテルにでも行こうかと相談しあった。


 その時


「そこで何をしてる」


 そう言って入ってきたのは、(みなと)コーチだった。


 一ノ瀬達は驚いて、湊コーチを見つめた。


「一ノ瀬部長?」


 湊も驚いて言った。


 一ノ瀬がポカンとして何も言わなかったため


「いや、最近、部室に無断で侵入してる者がいるらしいと聞いて。犯人をとっ(つか)まえてやろうと思って来たんだけど」


と言った。


 一ノ瀬達は湊コーチの嫌疑の中には全く入っていない様子だった。


 ただ、智恵香の方に目を向けた時、何があったのかと鋭く尋ねた。


 この状況では説明せざるを得ず、当然、コーチは「病院と警察に」と言った。


「やめ……ください。誰にも……言わな……いで」


 智恵香が小さな声で反論した。


 ここで通報されればややこしいことになる


 湊コーチは


「とりあえず、一旦私の家に行こう」


と言った。



「ええ、そうなんです。なので、突然のことで申し訳ございませんが、今日、娘さんを。はい、他の生徒も一緒に」


 湊コーチは智恵香の父親に架電し、真実は告げず、部活でトラブルがあり、娘さんは直接関係ないが、何人か緊急聞き取りが必要で、遅くなるので娘さんを自宅に泊まらせてよいかと架電した。


 所長はIT企業の社長さながらに話をして、快諾した。



 さて


 智恵香はシャワーの蛇口をひねり、水音を出した。


 今のところ予定通りいきます

 今日は動きは無いと思うのでまた明日


と、浴室に持ち込んだ携帯電話で優斗にメッセージを送る。


 優斗は現場近くに隠れていて、智恵香の持つ盗聴器も聞いているはずだ。


 なんだか登場人物が増えてしまったが、事情はのみ込んでいるだろう


 シャワーを浴びるフリをしながら、優斗の返信を待つと


 とりあえずコーチもいるなら安心だけど、盗聴器はオンにしとけよ


と送られてきた。


 盗聴器は朝まで消しておくつもりだったのに

 優くん、寝ずに盗聴器聞くつもりかしら

 心配症にもほどがあるんだから



 智恵香は考えた。


 第三者の湊コーチの介入は想定外だった。


 とりあえず、警察には言わないでほしいというお願いは受け入れてくれたが、湊がコーチという立場上、学校に報告されても困る


 学校の上層部は智恵香達の潜入の事情は知っているが、あくまでも湊コーチは部外の人だ


 中途半端に事情を知らない役職の者の耳に入ると厄介だ

 ただ、コーチは大学に直接関係はないがゆえに、不祥事で廃部になれば働き口が減って損をするのは湊コーチなので、噂になりたくないと口止めすれば、言わないとは思うが


 湊としては、本心は、このことは大っぴらにはしたくないだろう。しかし、大人としてそれ相応の措置はしないといけない   


 この狭間(はざま)に今、揺れているのかもしれない


 コーチに知られたことで、一ノ瀬達の動きが変わるかもしれないのもネックだ



「動画とか撮られている可能性はありそう?」


 リビングに戻ると、湊コーチが智恵香に尋ねた。


 智恵香は小さく頷いた。


「許せねぇな」「なんとか取り戻して消させないと」「俺達で何とかするから。智恵香ちゃんは心配しないで」


 一ノ瀬達が口々にそう言った。


 智恵香は(うつむ)きながら思った。


 どの口が言う

 どうせこの動画も手に入れて、今度はこっちが脅されることになるのだろう


「証拠はその動画くらいかな」


 湊コーチが聞いた。


 平本が


「智恵香ちゃんが電話で最初にあいつの名前を言ったんですけど。その時、録音とかもしてなくて」


「そう」


と、湊コーチが静かに言った。


「録音……ね」

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