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〜 黄昏 〜  作者: 晴倉 里都
第一章
19/204

距離

「考えている案が一つあるの。優くんの協力がいるんだけど。無理にとは言わない」


 二人の間に気まずさが無いと言えば嘘になるが、優斗も智恵香もそこはお互い大人な対応をしていた。


 ただ、仕事は仕事と割り切る性格の智恵香も、この提案は言い出しにくいようで、


「気を悪くすると思うけど。ごめん」


と先に謝罪を入れ、このまま進んでも得られるものが少なく、方向性を変える必要性があることなど、理由から話し始めた。


 優斗はここで腹をくくった。


「お前の考えた案。受けるから言えよ」


 智恵香がまだ具体的な内容を説明する前に、優斗はこう言った。


 智恵香が考えることは、この仕事として間違ったことは無いはずだ

 ただ、そのためにいつも智恵香自身が本人の扱いを軽んじている

 しかし、今回、ここまで俺に言いにくそうなのは、智恵香の中で、自分より俺の危険が高まるなどの理由があるからだろう

 後は、俺が個人的に嫌だと思うことらしいが、女性陣に(つる)()げられたくらいでは智恵香は笑っていたので、相当嫌悪感(けんおかん)がある内容であることは間違いない


 ここで、説明の前に『受ける』と回答することは、優斗の中で意味のあることだった。


  お前を信頼しているから何も聞かなくても言うとおりにする


ということが暗に伝われば、この出来てしまったよそよそしい距離感を無くす、きっかけになるからだ。


 優斗は智恵香が何を言ってきても、それに従って事を進める心積もりをした。



 智恵香は悩んだ。


 内容を語る前に、先に優斗が提案を受けると言ったのだから、本来、口火(くちび)を切りやすいはずだが、(かえ)って言いづらくなってしまった。


 優斗の言葉は有難(ありがた)かったが、今から自分が言いだすことは優斗にとって思ってもみないことだろう。


 いや、優斗でなくても誰も想像すらしないことで、本当に常識的にあり得ない提案だった。


 起爆剤(きばくざい)となる出来事

 金を巻き上げられるくらいの脅しネタで、犯人たちの恐喝ターゲットが、一時だけ優斗に代わるもの

 自分たちだけでは手に負えないほどの事柄


 そうすれば、裏の人間を引っ張り出すことが叶いそうだからだ。


 そうなると内容は限られた。


 よくないことは智恵香もわかっている。代議士の娘のためでもあるが、万が一、娘が聞けばあまり好ましくない作戦だ。


 思いつかなくて良いことを、考えてしまった智恵香は、自らを恨んだ。


 この前、優斗が行った『自分が浮気しておいて恥も外聞も無く彼女ともう一度よりを戻したいと周りに言いふらす』という設定より、はるかにレベルの違う内容だ。


 しかし、考え込んでいても物事は進まない。

 すでに優斗は提案を呑むと言って、説明を待っている。

 智恵香もここで覚悟を決めた。


「優くんには、私を(おそ)ってほしいの」


 優斗にとって距離感どころの話ではなかった。

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