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〜 黄昏 〜  作者: 晴倉 里都
第一章
17/204

優斗

 智恵香は表には出さないが、かなり怒っていた。


 ………自分に。


 射撃場にこもって、もう何時間が経つだろう。



 仕事とはいえ、智恵香も出来ることなら平本と軽いキスであろうと何だろうと避けられるものなら避けたかった。

 あの男には嫌悪感しか無く、普通に出会っていても


 優しいフリをしたあくどそうな男


としか思わない相手だ。


 長短ありながらも、智恵香もそこそこの人数の男性と付き合ってきて、男性の本性のようなものは、わかる人は最初から見抜けるようになっていた。


 そんな中、優斗が一般的に『良い人』に分類されるのは間違いなかった。


 良い人と言っても、別に聖人君子というわけでも無いし、面白味の無い生真面目人間でもないが、本当に他人へ思いやりがあって優しくおおらかだ。


 付き合いが深まると、頑なで厳格な面が垣間見える時もあるが、そこはただ優しいだけでなく、自分の意思をしっかり持っていて、芯が強い人だと言える。


 この仕事は初めてなのだから、普通なら


 今回は助けてもらってありがとう。でも、相手に疑われかねないから、ああいうことはしないでほしい


と言えば良かったが、結論、あのようになってしまった。


 理由は、優斗の欠点で


『思いやりがあって優しいこと』


だ。


 そう、この仕事をする上では、全く欠点としか言いようが無い


 智恵香に何かある度、いや起こる前からあの心配性的な思いやりは、いずれ仕事の障害になる。


 今回はともかく、今後、業務に影響が出るのは避けられない。


 そうなると


 やはり優くんにはこの辺りで仕事から手を引いてもらおう


と、智恵香は何か理由をつけ、角が立たないよう優斗に辞めてもらうための話をするつもりだった。



 そこまで冷静に判断していたにも関わらず、優斗の姿を見た途端、彼が何かに怒っているように見え、思わず「邪魔しないで」と先に智恵香から口を開き、喧嘩を仕掛けたようになってしまった。


 仕事が絡むと、自分も抑えがきかない自覚はあった。


 今回、優斗が優しさで助けてくれたこと、そして『常識人』として、智恵香の行動が間違っていると怒っていたことも理解は出来た。


 だが


 仕事の邪魔をされるのなら、怒りたいのは私の方だという不満と、本来、助けるべき立場である自分が助けられる形になったことへのもどかしさ。


 そして、結論は、優斗の方が人として正しいし、自分がどんなに彼より仕事が出来たとしても、結局は優斗の方が何もかも上であったと思い知らされたこと。


 いろいろな思いが巡り、結局大人げない態度を取ってしまった自分にイラつき、また、その今更イラついている自分に、さらにイラついてしまう。


 悪循環が止まらないため、一向に射撃場から出られなくなってしまった。


 しかし、まさか、優斗が考えを(くつがえ)してまで、このまま仕事を続けるとは思わず、意外であった。


 私に責められたから辞めるというのは、おそらく納得がいかなかったのだろう

 頑固な面があるとは思っていたが……


 優斗をこの仕事に引っ張り込んだ上に、延長までさせたのは事実だが、彼がこの仕事を長くやるつもりだとは思えず、何かあれば未練もなく、普通に辞めていくと思っていた。


 あまり彼のことをよくわかっておらず、迂闊(うかつ)だった


と智恵香は反省した。



 この智恵香の反省は、全く無意味であった。


 智恵香は、優斗のことが全くわかっていなかった。


 優斗は、頑固だから意地になって辞めなかったのでは無かった。


『優斗は優しいのではない。単に優しいだけでなく、究極に優しい』


ということに智恵香は気づいていなかった。


 智恵香は、優斗が自分の心配をするのを甘く見ていた。


 優斗は本気で


 智恵香を危ない目に遭わせられない


と心配し、自身の主張を変え、逆に負けてでも、自分はここにいて彼女を守るべきだと考えたのだ。


 白川が後日、こう言った。


「惚れたわ」

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