表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
〜 黄昏 〜  作者: 晴倉 里都
第一章
14/204

父子

「智恵香来てるんですか?」


 優斗は、表向きには智恵香と別れているので外で会うわけには行かず、細かい打ち合わせが出来るのは探偵事務所内くらいであった。


 智恵香から『お願いしたいことがあるから』と連絡が来たため、優斗の都合でここで夕方に時間を決めて会う約束をしていたが、優斗の用事が変更になり『2時半くらいには事務所に行けることになった』とメッセージを送ってみた。


 しかし、既読にもならず返信も無かったので、とりあえず事務所に来てみて智恵香が来るのを待っていたところ、しばらくして、所員の一人から、智恵香は昼過ぎには出勤してきていたと聞いた。


 姿が見えないので探していると、所長室から出てきた白川に会った。


 白川は、智恵香が射撃場にいると説明した後、笑いながら「かなりストレスが溜まってますね、お嬢さん」と言った。


 どうやら射撃場にこもると、ストレスが溜まっている時らしい。


「まぁ、あんまり受け付けないタイプの男を、ずっと相手しないといけないんで、そりゃ鬱憤(うっぷん)も溜まるんでしょう」


 白川は何気なく言ったが、優斗が一瞬戸惑った様子を見せたため


「あぁ、違う違う!優斗くんのことじゃないよ。あの平本とかいう、狡猾(こうかつ)そうな役員の男のことだよ」


 白川はそう説明したが、智恵香の平本への態度は演技とは言え、優斗の知る限りかなり好意的だ。

 そうなると、自分に友好的な態度を示されても、どうも本当は自分も智恵香にとっては平本と似たようなものなのかもしれないと思ってしまった。


「白川さんは、智恵香のこと、よくご存じですね」


「気になる?」


 白川は速攻、聞き返すと笑った。


 智恵香は、クールと言えばクールだが、冷たい人とまではいかない

 別に冗談も言わなくもないし、楽しげに笑うときもある


 ただ、なんとなく

 何なのだろう

 白川さんとは打ち解けているが、他の人には壁と言うか、白川さんよりは距離を置いて接しているような気がする

 親友の(かなで)も、明るく愛想の良い人柄であるが、智恵香は来る者は拒まずといった感じで、奏に合わせて仲が良い感じだ

 つまり智恵香から発信で親しくはせず、受け身的な人付き合いに思える

 しかし、白川にだけは、受け身的な態度は見受けられない


「昔、私とお嬢さんでペアを組んでたんで」


 つまり、白川が結婚する前、潜入調査などは、智恵香と白川で行っていたということだった。


「ペアと言っても、お嬢さんがそれなりの年になって、私と恋人を装おえる年齢になってから数年くらいだったけどね。私がこの事務所に入ったのは22歳で、その時お嬢さんはたしか中学2年生だったかな。さすがに恋人役はまずいでしょ。ただ、お嬢さんは8歳から仕事しておられたらしくて、子役さながら一人で調査をしてたらしい。子供が潜入してるなんて全く疑われないからやりたい放題だったそうで」


 優斗は驚いた。


 そうか。白川が智恵香に敬語を使うのは、単に所長の娘だからと思っていたが、仕事上、大先輩にあたるからなのか

 そして、智恵香にすれば、仕事上の恋人役などを数年間した白川は、気の置けない相手……

 これが正解なのだろうか


 後、もう一つ気になるのは


「智恵香は、所長と仲が良くないのですか」


 優斗自身は、個人的には所長を尊敬していたが、智恵香を幼い年からこの仕事に使っていたことや、仕事の道具のように説明した日のことを思い出すと、やはり違和感を感じざるを得なかった。


「えっ?所長とお嬢さん?逆、逆。あの父娘(おやこ)ほどお互い信頼してる間柄はなかなか無いと思うけど」


 男親と成人した娘。ベタベタするような年齢でもないが、智恵香が仕事を始めた8歳のころもそれ以前ですら、父親に甘えている姿が全く想像すら出来なかった。


 直接聞いたわけではないが、智恵香には母親はいない。


 父子家庭のため、所長も智恵香も、お互いそれぞれ家事はしているようで、智恵香が早く帰れる時は、スーパーで買い物をしたりして料理を作り、潜入などで忙しい時はお惣菜や外食で、それなりに無理せず二人で生活していることが、会社仲間との会話でわかった。


 信頼し合う父と娘というのも、なんだかしっくり来ず、ビジネスパートナー的に聞こえ


 血が繋がってなかったりして


と優斗は軽く思いついただけで、その考えはすぐ消えていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ