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〜 黄昏 〜  作者: 晴倉 里都
第一章
12/204

仕事

「智恵香!」


 自転車に乗った(かなで)は、親友が彼氏ではない男性と並んで歩く姿をみつけ、臆することなく声をかけた。


 智恵香に普段あまり通らないこの場所にいる理由を聞かれた奏は、新しいアルバイト先の面接の帰り道だと説明した後、優斗をチラリと見て


「どなた?」


と、興味津々な様子で智恵香に尋ねた。


「一緒のバイト先の堀井くん」


と紹介すると、ふーんと言いながら奏は、優斗を観察するようにじっと視線を向けた。



 これは、優斗と智恵香がサークルに潜入する前の『互いを知るためのデート』をしている最中で、ちょうど帰宅する途中だった。


 智恵香はこのタイミングで親友にみつかりたくなかった。


 なぜなら


「あなたも智恵香バカ?」


 いきなり奏がこんなことを言いだすのは日常茶飯事だったからだ。


「ちょっと、奏やめてよ」


「智恵香ばか?」


 優斗はこのことを知らなかったため尋ねると「聞かなくていいから」と智恵香が止めた。


「なんかね。私、智恵香にはまってるの。あっ、私、彼氏いるし、親友としてだけどね。でも、智恵香は冷たいし、私の片思いなのよね」


と言って奏はケタケタと笑った。


「智恵香が誰かに送ってもらってるなんて珍しくて。あなたも智恵香バカなのかなと思って」


 優斗は理解した。


 あぁ、野球好きな人を野球バカとか言う、そういう意味か


 それにしても智恵香バカって

 面白い友達だな


 優斗は笑った。


「智恵香の彼氏に浮気してるってチクっちゃおっかなぁ〜。堀井さん、智恵香、彼氏いるよ。どうする?奪っちゃう?」


 奏は楽しそうに言った。


「奏!浮気とかじゃないし、堀井くんにも失礼でしょ」


 この後、奏と智恵香の攻防戦がしばらく続き、優斗は横でただ笑って見ていた。


「じゃあまたね」


 ひととおり智恵香にからんで満足したのか、奏は颯爽(さっそう)と自転車で走り去った。


「この辺りで親友に会うってことは、彼氏に偶然会うとかないのか」


 優斗が尋ねても、智恵香は「大丈夫」というだけだった。


「俺、疑われるかもしれないな」「彼氏が怒ったらどうする?」


などと、冗談めかして言っても


「信じないならそこまでだし」


と言うだけで、智恵香は照れ隠しのような様子もなく淡々と述べるだけだった。


 浮気はしてないし事実無根なので堂々とはしているが、一応、設定上は付き合っている者同士のデートとして出掛けているのであって、問い詰められた時にどう違うと説明して押し通すかと言うと、これまた微妙ではある。


 ただ、智恵香は全く動じていないため


 もしかすると、今、あまり彼氏との関係性がよくないのだろうか

 それとも


「彼氏のこと信頼してるんだな。信じてもらえるって」


 優斗がそう言うと、智恵香は


「仕事だから」


と言って、それ以降、この話題を打ち切った。


 智恵香は、彼氏にも誰にもこの仕事の話はしていないと言っていたので、仕事で仕方なく……という言い訳は出来ない。


 優斗の言葉への回答としては、いささか的外(まとはず)れなことを智恵香は言っているが


 そういうことか


 優斗は納得した。


 智恵香が俺に仕事の依頼を受けてほしいと言った時に感じた空気と同じだ

 彼女の中では、『仕事』が重要で、常に『仕事』に一番重きを置いているようだ

 仕事を優先すれば他のことは二の次になるのか

 彼氏のことなど仕事に比べればまるで取るに足らないかのような口ぶりになる

 何故こんなにも仕事に


 優斗はこのことが気になった。


 そして、ふと、しばらく考えてからこう思った。


 なるほど、智恵香バカってこういうとこからくるのかもしれないな

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