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〜 黄昏 〜  作者: 晴倉 里都
第一章
11/204

首脳

 この日は、1週間に1度の監督とコーチが来る日だった。

 部員達にピリッとした空気が走る。


 月島(つきしま)監督、(みなと)コーチ、宇津井(うつい)コーチの3人は、全員バレーボールの指導者としては、有能な人材であった。


 特に、湊コーチは現役時代は有名な選手だったらしく、引退後はVリーグチームの監督を勤め、低迷していたチームを9年ぶりに優勝に導き、チームランキング上位に押し上げた立役者である。


 本来、月島監督よりも実力名実ともに湊コーチの方が上で、監督も湊コーチには少し気を遣っているように思えた。


「湊コーチは、あの件がなければ、いくらうちの部が名が知れてると言っても、大学サークルのコーチなんてしてる器じゃないのに。勿体ない」


「えっ?あの件って何なんですか」


 この会話は、ここ数年、新入部員が入ると繰り返される噂だった。


「湊コーチは、チームの関係者と不倫しちゃって、お互いの家族が泥沼離婚になってかなり話題になったんだよ。でも、バレーボールの指導者としては素晴らしい人だし、練習は厳しいし怖いけどやっぱり的確なことを教えてくれる」


 この湊の話が出れば、次は宇津井コーチだ。


「宇津井コーチ?あの人も昔、失敗してるからなぁ」


「失敗?」


「そう、体罰でいかれてる。高校バレーの監督として全国優勝経験もあるくらいだったけど、選手に暴力を振るって、被害届を出されたらしい。その選手がかなり反抗的で態度も悪かったらしいけど、手を出したら負けなのに、我慢がきかなかったんだろうな。プライドの塊みたいな人だし」


「へぇ、そうなんだ」


「宇津井コーチは、あんまり口出しせず、黙って見ているタイプだけど、アドバイスをした時はちゃんと聞いた方がいいよ。なかなか為になるから」


 ここまでくると、監督も何かやらかしたんですかとの質問がくるが


「月島監督はずっと実業団の指導者として渡り歩いてて、バレーボール界ではそこそこ知られた存在だからね。湊コーチに気は遣ってるみたいだけど、でも、この二人のコーチを上手く使いこなしてるのはさすがかな。昔はかなりの鬼コーチだったらしいけど、監督になってからは仏の月島って呼ばれるくらい変わったらしい」


 このサークルが強い理由は、このクセのある3人の首脳陣の力が大きいようだった。


 今日は仲間内だけじゃなく指導者がいるから、練習もみっちり行われるだろうし、終了時刻も遅くなるだろう。

 大きな動きは無さそうだし、他のマネージャーは、ヘトヘトになった部員達が欲しがるドリンクや冷たいおしぼりなどの準備に余念が無い。


 倉庫に行ってボール磨きでもしてこよう


と、智恵香は練習場所から少し離れた倉庫に入った。


 普段は役員クラスや部員達を観察するため、あまり練習場所から離れない程度にマネージャー活動をしているが、今後のことを再度整理して、上手く立ち回るのに一人でしばらく考えたかったからだ。



 柔らかいクロスを手に、考えごとをしながらボールを拭いていると、不意に誰かが入ってきた。


  平本だった。


  平本は、予算の関係で至急ボールを確認しないといけなくなったが、智恵香の作業は邪魔しないし、お手伝いもいらないからということで、自分でボールの傷み具合や個数を確認し始めた。


 その間、特に智恵香に話しかけたり気にする様子は見せなかったが、出て行く時には


「いつもありがとう」


とだけ声をかけて去って行った。



 平本の普段人当たりソフトで真面目な性格を見て、最後にマネージャーにひと言お礼の言葉を言うくらいは、相手が誰であってもやりそうなことではあった。


 そして、桐谷は智恵香と付き合いたいと言っている人物について「会えばわかるから」と、現時点、誰かということは言わなかった。


 しかし、智恵香はおそらく平本に間違いないという確信を深めた。


 智恵香は、再度、ボールを拭きながら、今後の計画をシミュレーションし始めた。

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