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〜 黄昏 〜  作者: 晴倉 里都
第一章
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出会い

 こんなところに映画館でもあるのか


 優斗(ゆうと)は頑丈で重たそうなドアの真鍮(しんちゅう)把手(とって)を握り、軽く押してみた。

 遮音性のある両扉は、上手く力を入れないとお互いの扉同士が邪魔をしあって開けにくい。

 ようやく開いた若干の隙間から、そっと中をのぞき込む。

 薄暗く、何も音は聞こえなかった。


 ただの倉庫かな


 優斗は予想が外れ少し拍子抜けした気分になった。

 瞬間、バン!という大きな音が耳に響き、優斗は驚いた。


 なんだ?今のバン!という音?

 いや、バン!と言ったらいいのか

 それとも、ドン!とかダン!とか言った方が正解か

 もっとパン!とか乾いたような音だったかもしれない


 要は聞いたことのない、タイヤ……とか、何かそういった物がパンクしたような音だった。

 ガスの爆発とまで大きな音では無かったため、優斗は何の音だろうと冷静に考える余裕があった。


 中に入ってみると、鉄骨()き出しの柱や天井が仄見(ほのみ)え、コンクリート壁のヒンヤリとした空気が漂っていた。

 その場で唯一、スポットライトを浴びていたのは、人のシルエットが一筆書きで描かれたボードで、優斗がそれを認識したと同時に勢いよくボードが前方にスライドした。


 ボードの向かう先には、女性らしき人物が立っていた。そして女性は腰辺りに手をやったかと思うと、ボードに向かって腕を伸ばし銃を構えるような姿勢を取る。


 バン!バァァン!と2度響き渡る音。


 優斗はその場に固まった。


 その後、彼女はさらにボードに連射し、銃を自分の胸の前に近寄せた。

 撃ち終わると同時に辺りの電気が灯り、まっすぐ前を見ていた彼女の横顔が、唐突にこちらに向けられた。


 彼女は優斗をみつけると、一歩下がりながら、置かれていた台に近寄り、両腕を伸ばして銃口を優斗の方へ向けた。

 素人でもわかるほど明らかに狙いは床方向で、優斗を外していたが、どうやら


 今は撃つ気は無いが、すぐにでも射程内に入れる準備は整えている


とでも言わんばかりに、視線は(するど)かった。


 優斗は身動きできず、立ち尽くしたままひたすら彼女を見つめた。


「なぜここにいるの」


 彼女は冷たく聞いた。


 しかし、優斗に敵意を持っているようには感じられず、この場にいることだけを非難する口調に感じられた。

 優斗はその質問に声を発することができず、相変わらず彼女を見つめ続けた。



  智恵香(ちえか)は、何かしらの違和感を感じて優斗を見つめた。


 銃を向けられ、普通に受け答えをしろと言われて難しいことはわかる

 銃規制の無い海外なら、自然に両手を挙げるかもしれないが、ここは日本だ

 逆に、固まって動けず、声も出せないのが普通の反応だった

 ただ、目の前の彼は銃を持つ自分を畏怖(いふ)しているかと言うとそういった表情には見えない

 しかし、銃に精通しているかというと、その様子も見受けられなかった

 銃声を聞いていたなら、(たま)はもう入っていないことがわかるはずだ


「お嬢さん!入っていいですか!」


 扉の向こうで、大きな声がした。


 白川(しらかわ)さんだ


 優斗は扉の方に顔だけ動かした。


 さきほどまで、優斗に建物内を案内してくれていた白川が、途中、所用で外し、優斗は一人で見学をしていた。

 白川が戻ってきた時、どこにも優斗の姿が見えなかったためここまで探しに来てくれたのだ。


「お嬢さん!もう訓練初めてますか!堀井(ほりい)さんの息子さんここに来てないですか!」


 堀井さんの息子?


 智恵香はこちらを向いた優斗の顔を改めてジッと見た。


 優斗が、自分は堀井 弘文(ほりい ひろふみ)の息子の堀井 優斗(ほりい ゆうと)であるという説明をする前に、智恵香は視線は()らさないまま銃を引き寄せ、腰に取り付けたガンホルダーにしまい込んだ。


「立ち入り禁止と書いてあったはずよ。勝手に入ってくるなんて危険すぎる」


 普段、あまり物事に動じない優斗であったが、今は言葉に詰まり、智恵香の言うことに返すことが出来ずにいた。


 扉の外で一人放置されていた白川が


「お嬢さん、入りますからね!入りますよ!いいですね!」


と念を押しながら扉を開けた。


 白川視点から言うと、そこには見つめ合う若い男女がいる状態であった。


「あっ!お嬢さんと優斗くん、もう顔合わせ終わってましたか」


 白川は二人の間に流れる空気を読むことなく楽しげに話し続けた。


「いやぁ、立ち入り禁止の(ふだ)が壊れて転がってたんで、ここに優斗くん入っちゃったかなと最初は(あせ)りましたけど。もう射撃場がバレちゃいましたね。私が立ち入り禁止の看板のところ以外は好きに見て回っていいと優斗くんに言ったもんで。お嬢さん、まだ訓練中じゃなかったですよね」


 智恵香は、驚いたような表情になり、白川の方を向いている優斗に後ろから話しかけた。


「あの……」


 優斗は立ち入り禁止と知らずに入ってきたのだ。

 彼に落ち度は無かった。


「あの。私、さっき」


 智恵香は謝罪をしようと優斗に話しかけ、優斗が振り向いた。


「立ち入り禁止って知らなかったのね。さっきは……」


 その時


「白川さーん」


 遠くで、今度は白川を探しに来た人物の声が聞こえた。


「白川さーん、所長が帰って来られましたよ!」


 それを聞いて白川は慌てた。


 早く戻らないと


「優斗くん行こうか。お嬢さんも片付けが終わればすぐ所長室に来て下さい」


 そう言うと、優斗を急かすように何度も手招きした。

 優斗は白川の方に向かう前に、再度、智恵香の方を見た。

 智恵香は先ほどの続きを口にしかけたが、優斗はすぐに視線を逸らし、白川と共に射撃場を後にした。

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