魔法が使えない【神子】に転生しました
思いついて書きなぐった。
(異世界転生ってあるんだな。ましてや魔法が普通にある世界に!!)
おぎゃあと誕生した時にはすでに前世の記憶があり、乳母とか母とか侍女が普通に魔法を使って明かりを付けたり、水を取り出したりした時は感動したものだ。
でも、次の瞬間。
「黒い髪……赤い目………【神子】じゃない!!」
忌々しそうに母に睨まれて、何か嫌な予感がしたのだ。
「なんでこんな【魔力なし】を生んだんだ!!」
数時間後現れた父が母に怒鳴りつける。母はずっと肩を震わせて泣きながら謝っていて、母付きの侍女はそんな母の不幸の要因である赤ん坊の私を睨んでいた。
「【神子】だ!! こっちくんじゃね~よ!!」
そうやって石を投げられるのが日常茶飯事になってしまった。子供が石を投げたことに本当なら叱るべき大人も助けてくれるはずの大人も居るはずだが、【神子】である私にはそんな優しい人はいない。
怪我をしなくてよかったなと石の当たった個所を撫でる。
「【神子】って普通言葉の意味からして皆に大事にされる物じゃないのか」
「そうよね~。私もそう思うわ」
どこからか聞こえた声に相槌を打って、私に声を掛けたのか独り言なのかそんな今更な事を言われて正直びっくりしたのでその声の方に視線を向ける。
「あっ……」
栗色の髪の少年と目が合った。ぼろぼろの旅行鞄を持っている様を見るとこの国の住民ではないようだ。
「俺の言葉分かる?」
栗色の髪の少年が信じられないような声で尋ねる。
「普通に分かるけど……」
なんで分からないと思われたのかと首を傾げて尋ねられる。ちなみに周りには誰もいない。【神子】が現れると避けるとか逃げる人が多いのだ。さすがに家族や家で雇われている人はそんなことないが、それでも必要最低限でしか関わろうとしないのだ。
「いや、俺独り言になると日本語になるから」
「…………」
言われて気付いた。今私は日本語で話をしていたらしい。
言語チートなのかこちらの言葉は理解できるけど、実はまともな会話をしたことがなくこちらの世界の言語はつたない。流ちょうに話せるのは日本語だけだったので無意識だったけど。
「私前世日本人だったし……」
「ああ~。そうか。てっきり俺一人だけだと思ったよ!! 世界は広いかと思ったら広くないんだな~」
嬉しそうに近づいてくる彼に同じように笑う。【神子】と言われて避けられたり冷たくされているのが普通だからこうやって接してもらえるのが前世ぶりだったのだ。
二人でゆっくり話を出来る場所に移動しようと町の外れに向かい、野原に腰を下ろす。前世の話でそれぞれ盛り上がり、転生して困った転生者しか分からないあるある話で分かる分かると頷き合う。
「魔法のある世界に転生したのに魔法が使えるのがこの国イシュランカだけなんだよな~。魔法を使ってかっこよく活躍するんだって期待したのにさ~。ほら、【黄昏よりも~】を唱えたくてさ」
「ああ、分かります!! わたしも【サイス】【ザケル】とか」
「ほほぅ~。優しい王様の方ですか~」
「そちらこそ、ドラまたさんですね」
ふふふと互いの好きな作品を語り合って、
「ここは普通あの王道ゲームだと思うけど」
「王道過ぎるから言うのもはばかりますよ」
と笑いあう。
「我が国だけ魔力があるのは初代【神子】さまのおかげらしいですよ」
普段私に接するのもごめんだとばかりの態度の家族たちがその話をする時だけ長く接してきたので耳にタコ状態だ。
昔、我が国が貧しい小国だった時に、強い魔力を持つ【神子】が現れて多くの民を助けてきた。だけど、【神子】は自分一人では助ける手が足りないと感じ神に願った。
『私の膨大な魔力を少しずつ皆に分けてください』
神はその願いを承諾して、民に行き届くようにばらまいた。
それから魔力を多くの民が使えるようになり、【神子】に感謝するようになった。
「ちなみに魔力は国民全員に使えるわけではなく、魔力なしは少数いるようです。で、どういう原理か分かりませんが、物心ついた時から使える人もいれば成長期を過ぎて魔力が生まれる人もいますし、逆にある時を境に魔力が無くなる人もいます。だけど、【神子】は……【神子】と同じ黒髪赤目を持つ人は魔力は一切使えず一生を終えます。だから、【神子】として大事に扱ってきたのですが……」
ここからは非常に言いにくいが、国の始まりは【神子】のおかげだが、代を重ねるごとにたまたま【神子】と同じ色彩を持つ子供を大事にする意味が分からないと思うようになったのだ。
ましてや民のほとんどが魔力持ちで【神子】と同じ特徴を持つ者は一生魔力なしだ。
はっきり言って大事にする意味が分からない。と言うことで。
「”魔力無しを生かしてやるだけでもありがたく思え”というのが家族や周りの意見でしたね。私のような特徴を持つ者は生まれてから死ぬまで魔力無しなのははっきりと分かっているので」
せっかく魔力の使える世界に転生したのにそうはっきり断言されるわ。家族に冷遇されるし。
「家を出た方が楽かもしれないけど、生活するための知識も必要な物も知らないので出るのに躊躇っているんですよね」
第一、この特徴的な姿だ。国を出ることすら難儀するかもしれないし、国の外でも冷遇されるかもしれない。
「あっ、それはない」
溜息を吐いたらすぐに否定される。
「魔力を持っているのはこの国だけだし、黒髪も赤目も普通にいるよ。両方揃っているのは珍しいけど、それなら」
じゃじゃーんと取り出したのは白髪染め。
「髪の毛染めちゃえばいいだけだし」
「白髪染め……」
「そこは突っ込まないで!!」
辛うじて読める字を見て呟く。まあ、髪の毛を染めるのは年寄りだけなんだなこの世界は。
「旅は慣れているし、同じ元日本人の誼で一緒に外の世界を見に行かない?」
「本音は?」
「日本人あるある話をしたい」
「でしょうね~」
和気あいあいと髪の毛を染めながら話をしていくと。
「そう言えば、名前を聞いていなかったね。俺は、この世界ではクリス。前世の名前は栗山徹と言います」
「私は……」
聞かれて言いよどむ。
「んっ?」
「私は……前世は牧瀬りかで、今はずっと【神子】と呼ばれているから……」
名前を知らないと告げるとそっと頭を撫でられる。
「リカでいいじゃない。こちらの世界でも通じる名前だし、有名な人形もあったし」
下手なウィンクを見せて告げられると沈んだ気持ちが浮上してくる。
「そうですね。じゃあ、リカで!!」
笑いながら告げると、黒じゃなくなった髪を川で確認して、
「よし、では”善は急げ”で」
「前世のことわざだ。それも伝わらなくて困っていたんだよね~」
と笑い合いながらさっさとこの国から出て行ったのだった。
その後二人は知らないが、二人がこの国を出て行った途端この国で当たり前にあった魔力は完全に消滅した。
初代【神子】は祈ったのは私の魔力を皆に分けて暮らしやすいように。
だから神は分けた。代々の【神子】の魔力を民に。
そんな彼女が国を出るほどこの国を愛せないのならもう彼女に返すのが筋だと判断したのだが、そんな神の判断を知っているのは歴代の【神子】のみ。
神は【神子】が成人する時に必ず尋ねてきたのだ。
『魔力をこのまま分け与え続けるかと――』
代々の【神子】はそのままにしてきた。自分が魔力が無くてもみな助けてくれたからと。だけど、今代の【神子】は国を出る。その事実が今代の【神子】の答えだと――。
魔法の話題で元ネタ分かった人いると信じています。




