初デート - 二人の想い出-
美代を副作用が襲ってから、一週間程経った。
どうやら、新しい薬は彼女の身体と合ったらしく、毎日彼女とやり取りをしているが違和感はないようだ。
しかし、あんなことが合ったため、美代は私とデートしたかったらしいが一誠と奈緒が一週間は身体を休めるように言っていたらしい。
その心配を美代も反故とは思わなかったらしく、『直人まっててねー』と電話でにこやかな声で言われた。
そんな中でも、私と美代は初めてのデートのプランを作っていた。
彼女は海に行きたかったらしく、『海いきたいよー』とメッセージを送ってきた。
海と聞いて、私は美代の水着姿を想像してしまった。彼女はスタイルは悪くなく、むしろ良い方であった。
それは先日美代を抱き締めたときに、実感したし、外見からも分かる。
自分の彼女の水着姿を妄想して頬を紅潮させていると、美奈が「どうしたの?、美代ちゃんがなんか送ってきた?」と声をかけてきた。
美奈はやけに勘が良いので、スマホを覗いてきたら「なるほどー」と悪戯げに微笑むと、「男の子ねー」と笑顔で揶揄ってきた。
「うるさい」
と抗議すると、「でもまだ海開きはしないわよねー、残念だったわね」と微笑むと、美奈はひらりと家事に戻っていった。
美奈の言う通り、まだ海開きまでは約二ヶ月程あったため『砂浜を歩くぐらいにしよっか』と返信したら、彼女は、『やったー』と笑顔の顔文字で返信してきた。
私達の住んでいる所の近くでいうと、鎌倉が海もあり、寺社仏閣もたくさんあるのでこれからの安全を願うのにも良いだろう。
そう思い、美代に『鎌倉にしよっか』と送ると、『そうだねー』と猫の頷いているスタンプが返信された。
約束のデートの日になると、私は美代の家に行ったときのように髪型を整え、お洒落着(私が好きな柄シャツ)に着替えジーンズを履き、イヤリングを付けると、美奈に「気合いはいってるわねー」と微笑まれ、寛人からも「楽しんでおいで」とにこやかに言われた。
玄関から外に出ると、もう初夏といった陽気で、薄ピンク色の花びらから新緑の葉に着替えた桜が目についた。
近くのローカル線の改札前で美代の姿を見つけた。
薄ピンクのロングスカートに、白のニット、それに薄群青地の花柄のカーディガンを羽織っていた。
「待った?」と声をかけると「ううん、今着いたとこ」
本当にそのようで、交通ICカードにチャージをしているところだった。
私もチャージを済ませると、美代が、
「かっこいいよ、直人」と前と同じように耳元でささやくと、外だからキスこそなかったが不意をついてきたため、思わず頬を染めてしまった。
「かわいい」と美代が悪戯げに微笑むと、私も、
「美代の方こそ、似合ってる。可愛いよ、服だけじゃなくてメイクもね」とお返しに言うと、
「ありがとう、メイク気づいてくれたんだ、直人のために気合いを入れようとママにちょっと教えてもらったんだ」
と、頬を薄く染めて満面の笑みになった。メイクに気づいたのが思いの外嬉しかったのだろう。
寛人から、「女の子の細かな変化には気づくものだよ」と教えられてきた。それを実行しただけだ。
すると、美代が、「でも思ったよりチャラいかな、イヤリングしてるし」もうちょっと真面目な感じかと思った、と呟いた。
「意外か?」
「ちょっと驚いただけ、大丈夫だよ、すごい似合ってる」
「そっか、ありがとう」
そういって、手を差し出すと美代が握ってきた。
もちろんそれを意図して差し出したのだが、いざ握られると華奢な手のひらから柔らかな触覚と体温が感じられ、思わず頬が紅くなった。
「ふふ、やっぱり直人はかわいいね」
「っ、、」
もう片方の手で頭を撫でらると余計頬が熱くなった。
「可愛い人」
「揶揄わないでくれ」
「ふふ、直人とずっと会いたかったから思わずね、じゃあ行こっか」
「そうだな」
改札は、手を繋いだままでは通れないので、手を解いた、その瞬間美代の手が名残惜しかったが通り終わった後、すぐ、今度は恋人繋ぎに美代から促してくれたため美代の行動が嬉しく、破顔した。美代も同じ様に微笑んだ。
プラットホームで電車を待っていると、私は先ほどから気になっていたことを口に出した。
「なんかさっきから視線を感じるんだけど」
「私達が美男美女だからでしょ」
美代があっけらかんとした声で言った。
「おお、俺のことを褒めてくれるのはいいが、自分のことそんなあっさり美人っていうんだな」
私としては、美代ならありえるとは思ったが自分が美人と自覚しているらしい。むしろ認識しない方がおかしいのだが。
「だって、私可愛いじゃん、ふふ、パパからもママからも可愛いって言われるし鏡見れば分かるよー」
そうにこやかに言い、「でも直人の方が可愛いけどね」と付け足したので、私はため息をつき「わかったから」ともう辞めてくれという気持ちも込めて美代の頭を撫でた。
美代は心地よさそうに目を閉じ、その様子はとても満足げだった。
電車の中もプラットホームと同じ様に、平日の九時という通勤通学時間帯を通り抜けた時間のおかげか空いていて、美代と一緒に席に座れた。
電車の中で話すのも憚られるので、私は何をしようか迷っていたのだが、ひとまず手は握ったままにして美代にメッセージを送った。
『今日行くとこってここら辺だよね』
『そうだよー、あ。お昼ご飯決めてなかったね、私海鮮丼食べたーい』
『じゃあ、そうしよう』
『やったー』
乗り換え駅に着くと、私たちは電車を降りた。
「意外と長かったねー、ちょっと疲れちゃった。」
「じゃあ喫茶店にでも寄る?」
「いや、ちょっとベンチで休むくらいでいいかな。早く行きたいし、それまでお金もあんま使いたくないし」
「そっか」
私達は改札を抜け、駅構内のベンチで五分程休んだ。
江ノ島電鉄に乗ると、一気に旅行気分に変わった。
見慣れない街並みのせいでもあるだろう。
十分程して、私達は江ノ島で下車した。
「ふー、着いたー、水族館楽しみー」
「そうだな」
美代が無邪気に微笑んでいる。
その様子を見ているとこちらまで心地良くなってくる。
事前に決めたデートプランでは、まず新江ノ島水族館に行くことになっていた。
「わーいっぱいいるー、綺麗」
美代が水槽を見て目を輝かせている。今ちょうど鰯の群れが目の前を通り過ぎたところだ。
水槽の名前は相模湾大水槽というらしく、館内でも最大規模らしい。
鰯以外にもとても多くの種類の魚が暮らしており、その中でも特に、ジンベエザメ、エイは目を惹く。
「でっかいねー、エイは顔可愛いね」
「そうだな、とても毒を持ってるとは思えないな」
「えっ、毒持ってるの?」と美代があんな可愛いのに、と驚いている。
「裏の顔ってやつだな」
「油断してたらやられちゃうんだ、直人みたいだね」と美代がにやっと微笑む。
「それは、、美代が魔性なだけだろ、、」
「ふふ、直人の反応が可愛いからついやっちゃうんだよね」
「そういうとこも好きだぞ」
今度は私が美代の不意をついた。
「直人ってそういうとこずるいよね、、」と美代が頬を薄くピンクに染めて目を逸らして呟いた。
「俺だって美代にやられてばっかはやだからな」
「もう」と呟き頬を突いてきた。
「そういうとこも可愛いんだよな」と心で思ったのをわざと呟くと、美代は目を潤ませて頬をさらに紅くさせ、「そんなことを言うのはこの口ですか」と唇にキスをしてきた。
私も不意を突かれ、頬を一気に紅潮させると「やっぱり直人は甘いね、可愛い人」と意趣返しに成功した美代は艶っぽくも愛らしい笑みを浮かべた。
「やっぱり美代には敵わないな」
「ふふ、お褒めに預かり光栄です」
今度はクリオネの展示コーナーにやってきた。
「可愛いねー」
「そうだな、、」
「流氷の天使」といわれるクリオネだが、私はクリオネが捕食をするときのとても天使といえない、むしろ悪魔の姿を図鑑で見たことがあるため、少し濁った返事をしてしまった。
ちょうど、獲物がクリオネの目の前に来て「流氷の天使」から「流氷の悪魔」に変わったところを二人で目撃した。
すると、美代は「ひゃっ!?」っと私の腕にくっついてきた。その瞬間柔らかな感触が感じられて、思考が一瞬止まった。美代は「怖い!」と悲鳴をあげている。
その後も、サンゴとカクレクマノミの展示コーナーや、海中体験ドームを見て回ったりしたが、美代が私の腕から離れることはなかった。
そのため、私は常に柔らかな感触と体温を感じることになり頬が熱くなった。
私は羞恥と理性の限界になり、美代に「あの、当たってるんですけど、、」と気まずげに言った。
美代は、「え、当ててるんだよ」と造作もなく言い返してみせた。
「はあ。。」と美代の小悪魔ぶりに呆気に取られていると、美代は「ご感想は?」と問いかけてきた。
「とても、、刺激的、、です」
「ふふ、直人も男の子だねー」
「うるさい」
「ふふ」
以前母親と似たような会話をしたなと思い出すと、美代は「直人って初心だよねー」と言ってきた。
「それは美代も同じだろ」
「まあそうだね、私は直人が初めての彼氏でよかったよ」
「嬉しいこと言ってくれるな、俺も美代が初めての彼女でよかったよ」
「ふふ、、」
お互いに微笑み、口付けを交わした。
「あーお腹すいたー」
水族館を後にすると、駅に近いところの店に入り席に座った。
やはり、観光地ということで平日とはいえ多くの人がいた。
メニューを開くと、様々な種類の海鮮丼が並んでいた。
「これは悩むねー」
「俺はもう決めたぞ」
「えっ。はやー」
私は生しらす丼、美代は五種類の海鮮丼を頼んだ。
店の中には磯の匂いが広がっていた。
「楽しみだねー五種類のお魚さん食べられるんだよー、直人にもあげるからね。私にも直人の頂戴」
「いいぞ」
「やったー」
そう話していると、店員が注文の品を運んできた。
獲れたてのものを使っているらしく、しらすは半透明であった。
美代はテーブルに置かれたのもそこそこに、海鮮丼にありついていた。
「美味しいー!」
美代がリスのようにほうばって飲み込んだ後、満面の笑みで叫んだ。
「直人のも頂戴」
「はい、あーん」
「あーん、、ごくっ、しらす丼も美味しいねー」
美代があまりにも可愛く微笑むので、思わず頬を染めてしまった。
「ふふ、私のもあげる、直人が可愛いから二回あげちゃう」
「俺はペットじゃないんだが」
「まあまあ、はい、あーん」
「はぐっ、、美代のも美味いな」
「でしょでしょー」
時刻はちょうど一時であった。
昼ご飯を食べ終わったため、次に行く場所の鶴岡八幡宮に向かうため再び江ノ島電鉄に乗った。
『ご祈祷受けるんだよね、意外と高いんだよねー、てか普通に受けられるってびっくりした』
『そうだよな、なんか神秘的なイメージあったから普通に受けられるって知ったときは俺も驚いたよ』
『そのあとは由比ヶ浜に行くんだよねー、近くの公園も楽しみだけど、砂浜歩くのが一番楽しみだなー』
そう話していると、終点の鎌倉駅に着いた。
そこから、十分程歩くと鶴岡八幡宮に着いた。
祈祷受付所で初穂料を添えると、本殿で家内安全、厄除、身体健全、病気平癒の祈祷を受けた。
「いやーやっぱり雰囲気あったね」
「なんというか、初穂料に見合うだけの感じはあったな。これで効果あるといいな」
「きっとあるよー」
参道を逆に由比ヶ浜まで歩いていった。
砂浜に着くと美代ははしゃいで辺りを小走りに歩き回った。
「やったー海だー!!」
「あんまりはしゃぎすぎて転ぶなよー」
「分かってるって」
美代が少し落ち着いた頃、私は彼女の手を握り恋人繋ぎにした。
「今日はデートに来て良かったね」
「そうだな、俺も楽しいよ」
「私も」
「俺さ、入院してるときは毎日同じようなことの繰り返しで、正直人生に絶望してたんだよ。退院してもこれから先何があるんだろうって不安だったし、でもあの日美代と出会って、付き合う事になって俺の人生に色が戻ったんだよ、白黒だった世界が一気に色鮮やかになったんだ。だから、本当に美代には感謝してる」
「どうしたの急に真面目な話して、まあ私も直人と同じかな、入院してるときは毎日が本当に憂鬱で、でも退院して直人と出会って、それから毎日が本当に楽しいよ」
「ありがとう、愛してる、、はまだ早いかもだけど、大好きだよ、美代」
「私も、愛してる、、はもっと後の楽しみに取っておく、大好きだよ、直人」
お互いに抱きしめ合い、キスを交わした。
帰りの電車では、お互い疲れが溜まっていたため手は繋いでいたが、特にメッセージのやり取りはしなかった。
出発した駅に着いた頃には、もう夕陽が沈みかけていた。
「今日は本当に楽しかった、今度は近場のショッピングモールでデートしよっか、夏服買いたいし」
「もう次の予定決めるのか、、まあいいけど。家まで送ってくよ。」
「ありがと」
美代が嬉しそうに微笑んだ。
「あら直人くん、美代を送ってきてくれたのね」
「はい、もう遅い時間ですから」
「そういうとこ紳士的よねー、きっとご両親の教育がいいのね」
「ありがとうございます」
「ママただいまー、デート楽しかったよー、今度はショッピングモール行くんだ」
「あら、それは良かったわね、でもあんまり直人くんを振り回すんじゃないわよ」
「僕は美代と一緒にいればどこでも楽しいので、大丈夫ですよ」
「嬉しいこと言ってくれるわね」
「じゃあ、僕はこれで、奈緒さんさようなら、美代、またね」
「直人、またね」
「直人くん、またねー」
「ただいま」
家に帰ると美奈が嬉々とした表情で迎えてくれた。
「初デートどうだった?」
「楽しかったよ」
「それは良かった、ところで、なんか美代ちゃんにされた?」
私が微かに頬を染めたため、勘の良い美奈は問いかけてきた。
「服を褒められたのと、砂浜でキスしたのと、あと胸当てられた、、」
美奈相手に隠し事はできないと知ってるので、素直に白状すると、
「いいわねー青春してるじゃない、胸当てられたのはどうだった?」
「それ聞くかよ、、なんか、、びっくりしたし刺激的だった、、」
「直人も男の子だものねー、美代ちゃん頑張ったわね、嬉しかった?」
「嬉しかったといえば、まあそこまで気を緩してくれてるって分かったのは嬉しかったよ」
「そう、お母さんも息子が彼女と仲良くって嬉しいわ。先にお風呂入って来ちゃいなさい、ご飯用意しておくから」
そう言われ、風呂に入ると「もうちょっと体引き締めたいな」と美代と海かプールに行くときの事を思い浮かべ微かに頬が熱くなった。
直人と美代の初デートです。美代ちゃんは相変わらずの魔性っぷりを発揮し、直人くんはそれに振り回されてますね。水族館だったり色々想像で書いたりしてる部分はあるので、間違ってたらごめんなさい。