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色褪せた花  作者: 吉井春
出会い
4/6

美代との触れ合い、美代を襲った異変

 その日は美代の家に行くことになっていた。

 退院祝いのときに交換した連絡先を使い、「この日にしようね」と前から決めていた。

 私は、彼女の家、しかも初めての彼女、その家に赴くということで緊張していた。

 髪型は入院する前以来、約半年ぶりに整えるので多少手間取ったが、美代のことを思うと何の苦にもならなかった。むしろ頬が火照るほどであった。

 両親に「行ってきます」というと、私の家から三十分程の距離にある。美代の家に足を向けた。


「いらっしゃーい、待ってたわよー」と奈緒がにこやかに出迎えてくれた。

 すぐ後ろには頬をうすく紅色に染めた美代が立っていた。

「やった、直人が来てくれた」

 そう嬉しそうに美代が微笑むと私も思わず頬を染めて微笑んでしまった。


 私はまず、居間に通された。奈緒に案内されるときに美代が隣にくっついてきたので、頭を撫でたら少し頬を紅く染め、安心したように微笑んだ。

 そのお返しか美代も手を握ってきた。思わず私も頬を紅くなり、美代に「お熱いわねえ」と揶揄われた。

 

 美代の家は伝統的な日本家屋と言った風で、庭園があり、砂利が敷かれ飛び石があったり、松が植えられてあったり、獅子脅しもあった。

 居間では一誠がお茶を用意して待っていて、「いらっしゃい、直人君」と穏やかに迎えてくれた。

 ちょうど時間が昼食時に近いという事もあり、奈緒は「お昼ごはん作ってくるからゆっくりいちゃついててねー」

 と一つ余計なことを言って昼食の準備に取り掛かった。

 奈緒が言った一言に思わず一誠も「ああいう人だから」と苦笑した。

 一体彼女の父親の前でどういちゃつけと言うのだ。無理にも程がある。いくら私が一誠に認められているとはいえ、彼女の父親の前でいちゃつけと言うのは私にとって無理な話だ。

 それを私の表情で察したのか、一誠は、

「私はお邪魔だろうから奈緒さんの手伝いをしてくるよ」

 と気を使って席を外してくれた。


 こうして、私と美代は二人っきりになった。私が何をしようか戸惑っていると、美代が、

「二人っきりだね」と

 頬をうすく紅色に染め手を握ってきた。ただ握るというわけではなく、指と指を交じ合わせる、いわゆる「恋人繋ぎ」といった風だ。

 これには思わず私も頬が紅く染まり、鼓動も速くなった。

 それを美代は感じ取ったのか、耳元で

「可愛い人、」と艶っぽい声で囁き、頬に口付けをしてきた。

 私はすっかり美代に弄ばれている。それが心地良くもあるが、同時に男として格好のつかなさもあった。全く、美代は魔性の女である。

 私も一矢報いようと、繋がれた手を解き美代を抱き締め、首筋に食みついた。

 そうすると、美代は「ひゃっ!?」と裏返った声を上げた、私はそのまま唇に食みつきなおした。

 そのまま美代の唇の柔らかさを堪能していると、美代が羞恥に耐えきれなくなったのか、唇で訴えてきた、「ふ、、、ふ」

 私は美代の唇から自分のものを離すと、美代は「直人って、、思ったより積極的だね、、」

 と顔を茹で上がりそうなほど紅らめ、だが、どこか嬉しそうに微笑んで囁いた。

 「美代の方こそ、、なんていうか、色っぽかった、、」

 と私も美代と同じ様に顔を紅らめ、恥ずかしげに囁いた。

 「だって、直人が可愛かったんだもん」

 「美代も可愛いよ」

 「もう」

 美代はまた恋人繋ぎをして来たが、その手には物言いの意も含められていたのか、力が強く入っていた。

 すると、「髪型似合ってるよ」と耳元で小声で囁かれた。

 私は頬を紅く染め、やはり美代には敵わないと思った。


 「二人ともいちゃいちゃできたかしら」

 奈緒が昼ごはんを運びにきた。一誠も一緒だ。

 さっきの出来事は親に話すには過激すぎると思う。話せても恋人繋ぎくらいだろう。それ以上は言えない。二人だけの秘密だ。

 それを美代も理解しているらしく、奈緒を満足させるために、「恋人繋ぎはしたよー」と言った。

 「それ以外は?」

 「黙秘権を行使します」

 「えー」

 「奈緒さんも探りすぎない、二人だけの秘密にしたいこともあるんだろうから」

 「わかったわ、残念だけど二人のことだものね」

 「さすがパパ」

 一誠の手にかかれば奈緒も落ち着く、それだけ奈緒が一誠に惚れているということだろう。それは私の両親にも言える。両親の仲がよいことは良いことだ。


 一誠のおかげで穏やかになった食卓を四人で囲い昼ご飯を食べ始めた。

 「いただきます」

 玄米に、主菜はちょうど旬である鰹のたたき、副菜にはこれまた旬の若竹煮、漬物に沢庵、汁物には豆腐と和布の味噌汁。THE和食といった感じだ。奈緒も一誠も料理の腕は良いらしくどれも美味であった。

 食事の最中に、「今回は」意図的に、美代に「あーん」をされおまけに唇にキスをされた。

 料亭とは違い、彼女の家、しかも両親の目の前ということでとても恥ずかしく茹で上がりそうになった。全く美代は度胸がある。たっぷりの愛嬌もあるが。

 その様子を見て奈緒は「美代やるわねー、その調子で直人君を骨抜きにしちゃいなさーい」と言ったが、これ以上骨抜きにされてはたまったものではない、私としては満更でもないのだが。一誠は微笑ましそうに笑っていた。


 食事が終わると、市販品のデザートが運ばれてきた。和食に合わせてみたらし団子とぜんざいであった。

 話は趣味の話になった。

 「直人くんはなにか趣味とかあるの?」

 「音楽聴くのとお遊び程度ですけどピアノとギターですかね」

 「あら、美代も音楽好きだしピアノやってるわよ、ところでどんな音楽聴くの?」

 「邦ロックとかJ-POPとか歌謡曲ですかね」

 「あらほとんど美代と一緒じゃない、ほんと気が合うわね」

 「そうですね」

 「私も直人と趣味似てて嬉しい、共感できるし」

 「俺も」

 デザートを食べ終わると、私と美代は病院で処方された薬を飲んだ。


 美代に異変が起こったのは、ちょうど夕陽が沈む頃であった。

 突然、呂律が回らなくなった。そして、身体中の筋肉が硬直し、石像のようになってしまった。その様子はまるで蛇に絞め殺されている鼠の様であった。口も開いたり閉じたりを繰り返し胡桃割り人形の様になってしまった。

 突然の事態にまず私たちは美代を横にならせ、救急車を呼び、救急の精神外来に電話をした。

 どうやら、薬の副作用の様だ。

 やがて、救急車が到着し、救急隊員が美代の意識や心拍数、血中の酸素濃度などを調べ始めた。

 どうやら、命に別状はないらしい、ひとまず、そこで私たちは安堵できた。

 救急隊員たちにはこれ以上できることがないらしく、やがて引き返した。

 美代はとても苦しそうだった。例えるなら、無邪気な子供に踏み潰された蟻の様だった。

 その中で、美代がなんとか言葉にできたのが、「な、、お、、、と、、ぱ、、ぱ、、、、ま、、、、ま、、、、そば、、、に」という拙い言葉の羅列だったが、美代の気持ちは痛いほど分かった。

 精神外来によると、薬は時間とともに抜けていくらしいので美代が回復するまで、美代のそばにいようと決めた。

 幸い、私と一誠は体格に差がそこまでないので着替えには困らないだろう。両親に電話で事情を伝えると、「美代ちゃんの側にいてあげて」と返事が来た。

 美代の側を離れるのが忍びなかったが、風呂に入りに行かなければならなかった。私にも私の身を一番に考えることが必要なのだ。

 その間は一誠が美代の面倒を見ることに決まった。もう夜九時なので奈緒も寝る必要があった。つまりは、かわりばんこに美代の側にいるのだ。


 私が美代の側にいた深夜三時程に美代が目を覚ました。もう身体の硬直は解けた様だ。まだ呂律は回りきっていない舌で「なおと、らくになったよ」と言ってくれたので、私は思わず涙が溢れた。

 そのまま美代を抱き締め、「心配だったんだぞ、、」とささやいた。美代は「めんどうみてくれてありがとう、ぱぱとままもいっしょにいてくれたんだよね、」と言った。私は「そうだよ、美代が少しでも楽になって本当に嬉しいよと涙ながらに言った。


 そのまま、私達は再び眠り、翌朝、美代は両親と共に病院に行った。私は家に帰り、色々の出来事を両親に話した。

 まずは、美代の心配をしていたが、今朝呂律がまだ少し回らないのと、人に支えられないと安定して歩けないまでに回復したと伝えると、安堵した様だった。

 その後は、いつもの調子で美奈と何をしたのかと聞かれたりしたが恋人繋ぎをした程度だと返した。美奈もまだ心配が残っていてためらいがあるのか、深くは聞いて来なかった。


 昼頃、美代から「先生に薬の選択を急いだと謝罪されたよー、それでまず副作用のない薬に変えてもらったのと副作用止めももらったよー」とピースの写真付きでメッセージが送られたので私は安心できた。

 


 


 

このエピソードでは、直人と美代が派手にいちゃつきます。同時に絆も深まりますね。

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