料亭にて
「おすすめのものを人数分お願いします」
一誠が注文取りに申しつけた。
事前に一誠たちが広めの個室を予約していたらしく私たちもそこに通された。
席の座り方としては、退院祝いということで私と美代が二人並んで座り、私の側に寛人と美奈が座り美代の側に一誠と奈緒が座った。
この座り方には些か恥ずかしさを覚えた。どうやら美代もそうらしく頬をほんのり紅色に染めていた。
「わあ美味しそう!」
そう奈緒が弾んだ声を部屋に響かせると、前菜に鰻の煮凝りや冷奴、鱚の酒蒸しが運ばれてきた。先附に煮鱚やそうめん、だし巻き卵が運ばれていたので私と美代は先にそちらに手をつけていたのだが、ちょうど他の物も食べたくなっていたところなので、タイミングがよかった。
「ちょっと酒臭いですね」と美代が言いながら鱚の酒蒸しを食べているので、
「そうですね」
「でも美味しいです」
と美代が微笑んだので私は照れて少し目を逸らしてしまった。
食事が一通り運ばれると美代が突然服の裾を引っ張ってきた。
「はい、あーん」
「!?」
私は驚いた。美代は頬が紅潮している。どうやら先ほどの鱚の酒蒸しで美代が酔ってしまったようだ。
「めーでしょ、はい」
「はふ、、!?」
「ふふ、きすだから」
私は勢いに押されて鮭茶漬けを口にしたのだが、その後美代が頬に口付けをしてきた。彼女はどこか艶っぽい微笑み」を浮かべている。
その様子を見て美奈と奈緒が
「あらあらまあまあ」
とにこやかにこそこそと話をしている。
一方で、一誠も寛人となにか話をしている
「二人ともお似合いですね」
そう聞こえたので私は
「父さんも母さんも一誠さんも奈緒さんも揶揄わないでくれ」
と不満げに言った。一方で美代はまだにこやかに微笑んでいる。
甘味が運ばれてくる頃には美代も酔いがおさまったのか、
「先ほどは、すみませんでした、、、」
とまた、しかし今度は意識的に頬を紅潮させて謝ってくる。
「大丈夫です、というか、もうあんなことしたんだからタメ口でもいいんじゃない?」
「あ、えっと、そう、だね」
「、、、、えっ!?」
「さっきのお返し」
美代が茹で上がりそうなほど頬を赤らめている。
「ひゅーひゅー」
「ひゅーひゅー」
「うるさい母さん」
「う、うるさいママ」
「遅くなっちゃたけど美代も直人くんも退院おめでとう!」
と奈緒が代表して退院を祝ってくれた。
「これからも通院治療は続くけど、私と一誠さんで美代のことは面倒見ていくし、直人くんも寛人さんと美奈さんがいるから大丈夫よね」
とこちらに目を向けた。
「ええ、もちろん私と寛人さんで直人のことは大丈夫よ、でも、」
とちらりと美奈が美代の方を見る。
「二人とも付き合っちゃえばー、さっきから仲良いし」
「美奈さん私も思ってたー、ちょっと不謹慎だけど運命の出会いって感じだし」
「は!?、何言ってんの二人とも俺たち出会ったばっかりだろ」
「でも美代ちゃんはまんざらでもなさそうよー」
そう聞いて美代の方を見ると
「私ではご不満ですか?あ、私じゃ、だめ?」
と頬を赤らめて甘い声で問い変えてくるので、私は一瞬理性が飛びかけた。
「美代がそういうなら、、いいよ、俺でいいなら俺たち付き合お」
私もまんざらではなかったがあまりにも出会ってすぐだった為、ためらったが美代が付き合いたがっているなら私も断る理由はない。
「やった、これはちょっと病気に感謝だね、」
美代が嬉しそうに微笑んだ。
「ひゅーひゅー美代初めての彼氏じゃん、もしかして直人くんも?」
「初めての彼女ですよ、しかも同じ病気を持ってる、美代さんを大事にします、美代さんが辛かったら全力で支えます」
「私も直人が辛かったら全力で支える」
お互いに同じ病気を持っている分苦しみもわけ合えるだろう。
「娘に彼氏ができるのって思ってたよりも苦しいですね、でもきっと直人くんなら美代を大事にしてくれると思います」
「そう言っていただけて嬉しいです、これから家族ぐるみの付き合いになっていきますね、よろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします」
こうして、私と美代の退院祝いは幕を閉じ、それぞれの家路についた。
別れの際に美代とこれからの誓いのキスを交わし。