猫の王子1
「ふー。なんかぐったりだわ。」
ネオが疲れた顔で王都の入り口を顔パスで通り過ぎて行く。
「えっ?門番の検問無いの?」
セツナが驚く。
「こいつ、チビだけど意外と凄いのよ!なんとこの国の第三王子。」
グレンが、弟子を嬉しそうに褒める。
「師匠、王子ではあるけどな。王権の無い、張りぼて王子よ。」
ネオが先頭に立ち、正門から真っすぐ大通りを王宮へと歩んでいく。
ネオの実の親は18年前のコーネル王国内の内戦に巻き込まれて亡くっており、戦場で泣いていた所を前国王クリス・コーネル3世が見つけて引き取ったのだ。
それから、2年前に長く続いた内戦が終戦を迎えた。
多大な犠牲を出しながらも国王側が勝利を勝ち取れた所までは良かった。
しかし、敗北した事に激怒したのが黒幕だった魔王ハキム、なんと手下に前国王を暗殺させたのだ。
実の親も育ての親もハキムに殺されている事知ったネオはグレンに頼み込んで去年の夏に弟子にして貰ったのだ。
その時にグレンの神気で錬成されたレイピアを弟子の証としてプレゼントされており、それが今の愛武器となっている。
「へー。」
セツナとトワが揃って驚愕しつつも、ネオにかける慰めの言葉が出てこなかった。
王宮に向かう道すがらネオについてグレンから細かく話を聞く事ができた。
「こいつ、強いんだけど、強さの拠り所が復讐心からきてるから、完璧な獣神にはなれんのよ。竜人族ならわかるやろ?龍神族一番身近にみてるわけだしさ。」
グレンは少し寂しそうに付け加える。
「負の感情に支配されている限りは神気を扱えないですからね。半獣神の理由が良くわかりました。けど凄い危ういですよ。堕天するか昇華出来るかの瀬戸際じゃ無いですか。彼なら、復讐を諦めて憎しみを捨てれば直ぐにでも獣神として真気を神気に昇華出来そうなのに、凄く勿体なく思っちゃうけど、気持ちって簡単に割り切れるモノじゃないし、理屈で説明出来ない気持ちが心にはありますから、何だかすごくもどかしいです。」
セツナは、街道での戦いに参加せず、グレンが切ない顔で見守っていた気持ちが痛い程わかり、牙付きと言いにくい感情が芽生えた。
「同情はいらんからな。」
ネオはチラッと振り返る。
金色の毛並みが徐々に三毛色に戻っていく。
自分の鞄から首輪を取り出して自分の首につける。
「おかえりー。」
遠くからダッシュで駆け寄る1人の女性。
さらに遠くから護衛なのだろうか騎士達が全力で追っかけてくる。
「うわっ。ねぇちゃん。恥ずかしいわ。」
ネオが抱きついてくるお姉ちゃんから必死に逃げるが、だき潰されてしまう。
「ぷはっ。紹介するで、うちの姉貴。シュティム・コーネル王女。」
顔近付けてきて顔をスリスリする王女を全力で拒否するネオ。
シュティム・コーネル姫、25歳の現役国王、故クリス国王の意思を継いだ運動神経抜群の超わんぱく王女。
「姫っ。。はぁ。。はぁ。。きゅぅ。。に。。執務室。。から。。飛び出すの。。やめっ。。て」
重たい装備をした重騎士2人がバテた口調で追い付く。
「だって会いたかったもん。こいつ、1年間連絡すら寄越さず家出しとんやから。全く、相変わらずモフモフでいい匂い♡」
ネオを抱き上げていっぱいモフる王女。
「わし、もう子供ちゃうし、恥ずかしいから辞めて。」
ネオは顔を赤くしながら、やっと姉の手から逃れる。
「連絡寄越さないお前が悪い。うちにはモフる権利がある。グレン様、お久しぶりです。うちの弟がすいません。」
いっぱいモフった満足感に浸る王女。
グレン様に対して深くお辞儀をする。
王女という割には長ズボンと雪虎の毛皮のコートを部屋着の上に被ってきた楽な服装だった。
「偉い、庶民的な服装ですね。」
セツナは王女の服装に驚く。
「うちな、王女する前は冒険者してたんよ。だからドレスアレルギーでさ。無理なんよ!ちなみにこの毛皮、自家製やからな。」
シュティム王女は、嬉しそうに話す。
身長が170cm位あるのだろうか、凄く身軽にコートをひらりとお披露目する。
「そう言えば兄貴は?」
ネオはルンルンな姉に質問する。
「あぁー。多分今頃、、自分の部屋に籠ってるよ!」
そう言うとシュティムは王宮を指差す。
「ドカンっ。」
真っ黒な煙が王宮から立ち上がる。
「あぁー。。なるほど。」
ネオは黒く立ち上がる煙を見て全てを理解する。
ネオの兄ちゃんは、コリン・コーネル王子改めて法務大臣。
このコーネル王国では、法律と法術を管理する法務部が存在しておりそこで頭を張っているのが兄貴というわけである。
かなり、けたたましい音が、王都に鳴り響く。
「相変わらずやな。お前らの長男は。」
グレンは懐かしそうに煙を眺める。
「これは、かなりつよい。反応する!!にぃにと似てるかも。」
トワは爆発した波動から法術のレベルの高さに驚く。
「ほら、王宮に来なよ!部屋準備するし。」
シュティムが王宮までエスコートをする。
国民から愛されているのが良くわかる王女だった。
普段から街中を歩いてまわっているのが、周囲の反応からすぐに分かった。
王女が街中にいるのに野次馬がこないのだ。
国民は、皆んな部屋の窓から軽く手を振って挨拶するご近所感が強く、セツナとトワは驚く。
こうして4人は無事に王都に到着する事が出来た。