夜が来たれり2
魔気の霧が一点に集まる。
禍々しい大きな門が立ち上がる。
赤く血の色をしており、門のまわりには苦しむ人々の顔が彫られた悪趣味なデザインで一番上に猛々しいツノが生えた山羊の頭が居座っている。
「ギギギっ。」
錆びついた金属音が地面を震わす。
真っ赤な魔気が吹き出して一気に周りの地形を変える。
星すら消えた暗黒の世界。
8888本の蝋燭の灯りだけが闇を照らす。
「クックックっ。ようこそ魔界へ。」
ハキムは嬉しそうにはしゃぐ。
魔気、この空間全てが魔気で構成されている。
「どうですか?これが本当の闇です。呼吸すら苦しいでしょ?とっとくたばれよ。」
ハキムは続けて魔法を詠唱する。
『闇、永遠、召喚、剣と剣』
発動。
三日月の形をした刀が二つ両手に現れた。
真気を練れない苦しそうなトワに向かって剣を振り下ろす。
「魔王ってほざくから、もっと強いと思ったのにめっちゃ残念やわ。8を司るハキやん。」
タキシードの裾が美しく靡くネオがレイピア一つで二刀流を抑え込む。
ネオの瞳は金色に輝き、首輪がゆっくりと溶けていく。
「神格?」
トワ、自身が自分の封印を解いて覚醒しかけていた手を止めた。
一部の魔気が中和されて真気から神気に性質が変わった。
「正確には出来損ないやけどな。」
半獣神のネオは答える。
毛並みが美しく黄金色に染まる。
「夜の支配者はお前だけちゃうからな?煌めけ。マグリジット流、二の型、流星群。」
ネオの神気を纏ったレイピアがハキムの身体に無数に突き刺さる。
『闇、永遠、球体、甲羅』
闇の空間を発動。ハキムは全身を濃い魔気で包み込み突きを全て弾く。
『闇、永遠、変化、棘、回転、前進』
闇の棘を発動。
間髪入れずに球体から無数の棘がネオを目掛けて襲い掛かる。
「はっはっ。マグリジット流、三の型、神速」
呼吸が乱れていたネオだが、次の瞬間、ハキムの胸にレイピアが深く突き刺さっていた。
ハキムはネオを首を絞めようと手を伸ばすが、ネオは一瞬で元いた位置に戻り距離をとる。
大きくハキムは口から血を吐き出す。
「半端者といい、人間如きが、何度も何度も私に恥をかかせやがって。」
胸の傷が癒えない事に驚きを隠せないハキム。
刺されたところがズキズキと痛む。
「これは、神器か!」
傷口を触り刺された武器が神器だと知る。
半神如きがここまで深いダメージなどあるわけがないのだ。
偽りの神気など純粋な魔気では一瞬で散って消える。
ところが目の前の猫は、ピンピンしてやがる。
極め付けは刺された傷、魔法で完治しないのだ。
ジリジリと焼け付く痛みが身体を蝕む。
魔気を喰っているのだ。
体内に入った神気が蝕むように、じわじわと広がる。
「ハハハ。舐めるなよ。魔神狩りに支障が出るからここは見逃してやる。感謝しな。」
ハキムはゆっくりと深く魔気を吸い込むと、
『闇、永遠、影、移動、@&!!』
テレポートを発動。魔気と共にコル砂漠から姿を消した。
「クソが。逃げんなよ。」
ネオが毛を立てる。
「ネオ、めっちゃ怒ってますね。」
セツナが、ふーっと魔気が消えた綺麗な真気を吸い込み呼吸を整える。
「8は親の仇なんよ。彼が6歳の時にね。8を崇拝する邪のモノに両親とも目の前で殺されてるだ。そのご両親には昔、私がめっちゃお世話になってね。その恩返しとして、彼のご両親にはもう恩は返せない。だから、せめて彼を引き取って修行をつけてた訳よ。彼がいつの日か復讐するためにね。」
そう、ポツリとグレンは何故手を貸さなかったのか真相を語った。
夜が来たれり、ネオの心に宿る夜を知り、セツナとトワはそっとミルクを差し出した。
街道の遠くに王都の灯りが優しく揺れる。
冬の王都に夜が来たれり。
4人の心にそれぞれの想いを抱いて王都へと歩き出す。