天秤は揺れる3
「よっ。全く手こずったわ。」
魔気の波動が強すぎたため、全く気が付かなかったのだが、ライデルが無理矢理ポータルをこじ開けて聖域に戻ってきた。
「何これ?」
ライデルは降り立った壊れたポータルから溢れる魔気溢れる次元の裂け目を塞ごうとする。
「あっ、触れない方が良いかも。」
ネオが咄嗟に止めに入る。
「んっ?やばい奴なの?消すんじゃなくて押し返せばよくない?」
ライデルは平然とした顔で魔気を捩じ伏せ押し切る。
「あっ、最近腰痛持ちのジジとババやん。ただいま。」
アルーマでの異常な次元の乱れを感じ取り聖域にライデルが帰ってきた。
「ポータル壊れてるのにどうやって?」
トワが驚く。
「簡単よ。気合いでこじ開けるんよ。」
ライデルの生まれ持った頭の良さが遺憾無く発揮したのである。
力技ではポータルは開かないのだ。
「これは、結構ひどいな。」
魔獣達の暴れた傷跡を見ていると。
「馬鹿もんが、長がおるのに挨拶しろ。」
カトスがライデルの頭を小突く。
「あっ!久々っす。トワのパパさん。外出許可ありがとうございました。楽しかったす。」
ライデルが嬉しそうに駆け寄り握手を求める。
「そうか!楽しかったか。目的は果たせたのか?」
危険地帯でする話ではないがライデルの手を握り神気を流す。
「はい!何とか見つけれました。聖光石がアルーマにもありました。」
ライデルは小さな石をクランに渡す。
「そうか、これがアルーマにもあるのか。それほど、不安定なのだな。」
困った顔になるクラン。
「長、申し訳ない。うちの孫、皆んな馬鹿なもんで。あとでまた教育し直します。」
恥ずかしそうな顔をするリベア。
「ばぁちゃん、ひでぇな。こいつらと一緒にせんでや。」
クルトが一言物申す。
「いや、同類だろ。」
サーベルが突っ込む。
「それより、また。」
ネオは小さな裂け目が無数に散らばる風景に絶句する。
【塞がれ】
リベアの龍言が空間に広がる。
【復元】
カトスはリベアの音程より少し下げて龍言をハモらせる。
「そうだ!これだ。」
安定した瞬間にグレンは砂時計を大量に空間転移させて持ち出す。
こうしている間にも作業班が一緒懸命、空間安定装置を作り続けていたのだ。
「すげぇ。」
ネオは上位ランクの人達の能力にただ驚く。
あれだけ不安定だった空間が元に戻ったのだ。
いつの間にかポータルも復元されていた。
「さて、とりあえず体制を立て直しますか?長老、時間稼ぎお願い致します。倅の応急処置はこれで大丈夫なので、グレンさん目覚めるまで後頼めます?」
クランは落ち着きを取り戻した空間を再度念入りに確認して、片腕を失った眠るセツナをグレンに託す。
他の村や里の様子を見に行くためにこの場を後にする必要があったのだ。
「勿論です。鬼神の里宜しく頼みます。親父達がいますが、無茶しちゃう性格なので。」
グレンはすやすやと眠るセツナを受け取りクラン様へお願いをする。
「勿論!月日の流れは早いですね。あんなに可愛かったのに今では、すっかり頼もしいですね。鬼の姫様は、いつかうちの娘も貴方みたいになると嬉しいですよ。」
クランはグレンの小さい頃から知っており、課会で久々の再会をした時にその成長ぶりに驚いていたのだ。
ライデルと肩を並べる位実力がついていたのだ。
「やんちゃな姫が文字通りの鬼姫になったわけだ。」
横で話を聞いていたライデルがチャチャを入れる。
「うっさいな。ライデルさん。先輩だろうが遠慮しませんよ?」
グレンは少しキレる。
若手の中で断トツのセンスを持つライデルは、グレンにとって忘れれない先輩なのだ。
叔父様に修行をつけていただいた中で覚醒したグレンは負け知らずで調子に乗っていたのだが、見事に鼻をおって頂いた存在なのだ。
「おっやるか?いつでも来いよ!」
ライデルが挑発にのる。
「馬鹿たれ、時と場所を考えてやりな。非常事態よ。あんたも門番手伝いな。」
ライデルはリベアに耳を引っ張られて消えていく。
「さてさて、我々も少し休憩しますか。」
グレンは心配そうにセツナの傍から離れないトワの頭を撫でる。
「うん。。」
少し元気がないトワ。
「トワ、安心しなよ。親父さんが治療してくれんたんやろ?」
ネオもトワを気遣う。
「うん。。」
トワは、こんなに大きな怪我をしたにぃにを見たのが初めてで動揺していたのだ
「トワちゃん、実家の場所教えてよ。セツナを布団に寝かしたい。」
グレンはトワに道案内をお願いする。
「そうだね。ぐれんねぇね。こっち、ついてきて。」
トワは西を指差す。
~セツナの部屋~
見覚えがある天井が目の前にあった。
「気を失ってたのか。」
セツナは右手で瞼をこすろうとするがこすれない。
「そっか。腕、無いのか。」
左手で目をこする。
まだ目の奥がずきずき痛むのだ。
「にぃに、起きた?皆呼んで来るね。」
トワが横で椅子に膝を抱えて座りながら掛布団にくるまっていた。
「うん??うん。」
セツナはまだ今一つ頭がさえていなかった。
「おはよ!セツナ、傷まだ痛むか?腕の復元が出来なかった。すまん。」
父親のクランが声をかける。
「父さん、すいません。治療ありがとうございます。」
左手で失った右腕の切断面を触る。
「いきなりですまんが、天秤の正体、セツナなら少しわかる?」
寝起きのセツナにする質問では無かったのかも知れないが緊急の要件のため聞く。
「多分、ですけど。3か所に存在する三位一体の天秤ですね。」
セツナは自分の腕を食らった敵の正体を説明する。
「やっぱりか。となると、三ケ所同時に攻略しないとまずいのか。」
クランは右手を頬に当てて考え込む。
「父さん、恐らく魔界にも同じものがある筈です。」
セツナは自分の推察を付け加える。
「うーん。チームを3つ作る必要があるな。セツナ、天秤に数字が浮かんでカウントダウンが始まったのだよ。恐らく一時間毎に一つ減ってるから間違えなく何かの予告だ。」
クランは今の聖域とアルーマの現状を事細かくセツナに教えておげる。
「なるほど、もしかしてカウントダウンは666からですか。」
セツナは確信めいた物を口にする。
「そうだよ。セツナ。」
父親は頷く。
「だとしたら、そのカウントダウンは世界統一のカウントダウンで間違え無いかと。まあ、統一ってより融和?違うな、破壊かな。」
セツナも旅の細かい経緯を伝える。
定期的に手紙に書いていたのだが、細かい所までは書いていなかった。
「セツナ、大丈夫?あんたが怪我するなんて珍しいね。生きてて良かった。」
少し遅れて母親とグレンとネオが揃う。
母親は、スプーンとおかゆを作ってもってきてくれていた。
「セツナ、調子は?」
寝ぐせの毛を猫の手で撫でながらネオが心配する。
「良かった目覚めて。」
グレンは枕を抱いて眠そうに寝ぼけながら心配する。
「もしかして、僕かなり寝てました?」
眠そうな皆の姿に時間間隔を失っている自分にセツナは気が付く。
「丸二日寝てたよ。」
ネオが大きな欠伸をする。
「そんなに?そのカウントダウンは今いくつなの?」
セツナは驚く、それだけ深い傷を負っていたのだ。
「618よ。」
グレンが答える。
「そんなに減ってるのか。」
セツナは困った顔で左手で頭をかく。
首を左右にふって関節を鳴らす。
「セツナ、焦っても仕方ないし。朝、会議しよ。」
クランはセツナが遠慮して欲しそうにしていたトワが食べ終えたお粥を回収して皆んなと部屋の外に出る。
「んっ?トワ?」
トワだけが部屋に残っており、先程座っていた椅子に座り込んでセツナのフカフカの布団に顔を埋めていた。
どうやら、安心して気持ちが緩んだのだろうか、満足した顔で爆睡していた。
「全く、こいつは。」
ベットのサイズがゆとりあるサイズなので枕をずらして起き上がり空いたスペースにトワを寝かせる。
右腕が使えないので、法術で簡単に浮かせてベットへと寝かせてあげたのだ。
「すまんな。心配かけたな。」
部屋の天井にくっついている聖光石のあかりを消す。
こうして夜がふけていく。




