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旅立ち

皆様、はじめまして。夕霧と申します。仕事しながらの片手間執筆のため誤字脱字をはじめ色々と拙いところは沢山あるかと思われますが、セツナとトワの冒険を暖かい目で見守って下さると幸いです。

あまり綺麗とはいえない茶色の布を被った1人の少女。

その少女の横を歩く大きな鞄を背負った青年が1人。

雑踏を、てくてく歩く。

2人の足跡は四つそして少女には尻尾がついているのか一つの細い線が人混みの足跡に消されて消えていく。

「にぃに、ちかれた。」

赤い綺麗な瞳をうるうるしてポツリと呟く。

「うーん。休みたいよなぁ。」

空っぽのお財布をひらいて唇をすぼませる綺麗な空色の髪色をした青年。

「ふかふか、ふとん。ぬくぬくのみず。おいちぃごばん。」

きゅるきゅるとなくお腹をさすりながら市場に漂うご馳走の香りが少女の嗅覚を刺激する。

ふぅー。と口からこぼれた深いため息が寒さで白くなり消えていく。

「ここいらで稼ぐか。」

目の前に広がる円形の噴水の広場に目をやり青年が覚悟を決める。

青年と少女は龍神族の幼子で一族の伝統に従って旅をしているのである。

大人になると、あまりに超人離れしてしまい人族の生態系を破壊するので幼子のうちに社会見学を兼ねた人生経験を積むためみんなが通る修行というわけである。

「なに、しゅる?」

さっきまで泣きそうになってた少女の瞳が爛々となる。

この2人の兄妹は武術と法術がピカイチなので演者として路上で稼ぐ日々を、送っている。

稼ぐ上でも細かいルールがありその一つが質素であれというわけである。

龍神族のフルパワーであれば、おちびでも簡単に大金が動くわけで金に物を言わせた旅は禁止というわけなのだ。

ましてや、国よっては神様扱いとなりおんぶに抱っこの至れり尽くせりの贅沢な生活等、旅の目的から外れるのは言わずもがな。

結果としてこの貧乏旅の完成というわけである。

「最近、剣術サボって法術で稼いでたし剣舞でもするか。」

兄貴は鞄から木の枝を10本取り出して順番に妹に放り投げていく。一見乱雑に渡された枝一つ一つが何気なくクルクルと弧を描いて気がつけば残像が生き物の姿に形作られていく。

「よってらっしゃい。みってらっしゃい。芸の達人、竜の使いが見せるは御伽の幻獣。」

兄貴の元気の良い声が広場に響く。

「よっ、よっ、はいやぁ。」

妹の可愛らしい合いの手が観客から手拍子を招く。

「これまた、珍しい。竜の子かい。今年はいい年になるね。ほらいっといで。」

広場の屋台番のおばぁちゃんが孫の背中を押して見に行くように促す。

「竜の子ってなぁーに?」

6歳の孫がおばぁちゃんに聞き返す。

「とっても有難い、この国の守り神様よ。」

優しくばぁばが答える。

「じゃあ、じゃあ、とっても強いんだね!見てくる」

嬉しそうに小走りに広場の中央へ駆け出す。

「さて、お次は北の国から氷牙虎ひょうがこ。」

気合いの入った青年の声に誘われて人だかりが出来上がっていく。

「お肉が一枚、二枚。いっぱいあぁーとね。」

欲にまみれた妹の瞳がお肉になってあっという間にポツンと置いた可愛らしい木目細工の箱の中はコインでいっぱいになっていた。

広場が人の群衆で溢れている中、ひと際目立つ背の小さい小人が竜の子の演劇に近づいてきた。

その小人は高そうな黒の礼服を着込み、Tシャツは黄色とダサい色合いでしゃれこんだ長い漆黒のシルクハットで身長を嵩をましたいのか身長に不釣り合いな服装で兄妹に近づいてきた。

「しょっぼい、見世物だな。尻尾付きが。」

近づいてくるなり、不躾な物言いな小人。

「んっ?お前は、、、牙付きじゃないか。」

竜のお兄ちゃんが手を止めて自分より二回りも小さい小人に目を光らせて少し言葉を詰まらせてから、思い出しかのように大きな声で話し返した。

尻尾付きとは、この世界での最上位種の龍神族とは別の竜人族を獣人族が馬鹿にする時によく使う呼称である。

その反対に竜人族は、獣人族を牙付きと馬鹿にする関係なのである。

竜人族と獣人族は所謂、犬猿の仲で遥か遥か昔のおじいちゃんのまたまたそのおじいちゃんの時代から続く不仲な関係なのである。

だから、街の真ん中で目立つ竜人族を獣人族が見かけようものならケンカを売りに行くのが彼らからしたらマナーなのである。

「俺の牙が素敵過ぎて褒めてくれてありがと。」

牙付きが黒い瞳をにっこりと細めて微笑みかえす。

「あぁ、赤ちゃんみたいな乳歯で素敵だよ。乳歯ちゃん。」

しかっりとマナーがある挨拶で返事する。

「誰が赤ちゃんじゃ。今年で20歳の俺に何をぬかしてやがる。」

獣人族の小人は少し怒ったのか黒い瞳が赤らむ。

「嘘だー。15歳のお兄ちゃんより年上??」

思わず、妹がおめめをぱちくり、ぱちくり、して聞き返す。

「お前らなめとんか、身長145cmの成人の俺に。奥歯をガタガタいわしたるから覚悟せいや。」

細めた目をカッ見開き獣人族が可愛らしいサイズの牙を立てて威嚇する。

龍神族の兄妹からしたらめっちゃ格下の雑魚なのだが、修行中の身バレはご法度のためあくまでも竜人族として立ち振る舞いが求められる。

「くっそ。手加減するの真剣に難しいぞ。。」

お兄ちゃんが妹に念話で愚痴る。

「やさしくなでなでだよ?お兄ちゃん。きたく、だけはしたくないの。」

妹が心配そうな目でお兄ちゃんを見つめる。

「すまんな、チビども。」

群衆の奥からひと際背の高い、女性が駆け寄ってきた。

「チビがチビにケンカ売ってどないするんよ。お前らすまんな、うちの弟子がさ。」

額から大きな赤い角が二本、そしてなによりびっくりするその身長、2.1mのスレンダーな女性がシルクハットの獣人族の頭を押さえつけて謝らせる。

「姉御、痛いっすよ。俺の身長縮むじゃないっすか。」

獣人族の小人は、しぶしぶ頭を下げながらしっかり目だけは威嚇を続ける。

「こいつ、ネオ。獣人族の猫血統なんよ。仲良くしたってや。そんで、うちは鬼神族で赤鬼のグレン。師匠からのお使いを頼まれて探し物してるんよ。よろしくな。」

鬼神族の名前を聞いたとたん、群衆が一斉に頭を下げる。

あれだけ活気があった広場が一瞬で静まりかえる。

「ほらほら、みんな気を楽にしてや。今はほら、神格を封印してるからさ。」

手の甲に刻まれた鬼火の御朱印を広場全体に赤く光らせる。

御朱印とは神族の神格を封印する封印術の一つである。

使い道としては、魔族や魔族が使役する邪の物を退治する時に用いるのである。

魔族は神族の神格に物凄く敏感なので格上の神格を察知したら一瞬で逃げてしまうのである。

その特性を逆手にとり神格を消す事で敵に感知されにくくして逃げれない敵の懐まで近づき魔族狩りを行う。

魔族の魔気を探るのにも封印術は非常に有効なのである、というのも魔気に触れた時に感じる違和感を敵に悟られず感知出来るのも封印術の強さの一つである。

紋章に刻んだ神格が魔気に反応するが外には漏れないので自分だけ気が付けるメリットが大きい。

特に、魔族は神族と相反する一族で、魔術や邪術を駆使して人々に恐怖心や疑心暗鬼を抱かせる事でその感情を取り込み力を生み出す古の時代からの神族の主敵である。

その魔族に対する神族は、人々からの信仰心によってその力を発揮する事が出来るので、魔族からしたら邪魔な存在である。

一般的に成人の神族が御朱印をつけずに会話するだけでも言葉に言霊が宿り、街一つが消えろの単語だけでも滅ぼせるわけである。

ささいな言動一つで街が消える危険がある以上、広場の群衆に緊張が走るのは当然の事なのである。

「ざわざわ、はじめてみた。御朱印付きの神族様や。」

「えらいお綺麗なかたやな。」

「おっきい。」

「胸でか。」

「御朱印付きて事は邪の物退治ですか。」

「いや魔の物かもしれませんよ。」

「何カップかの。」

「姉御はHカップで、栄養が全ておっぱいにつまってるんやでじいちゃん。」

御朱印をみた群衆が安心したのか一斉に話始める。

「おい、ネオ。殺すぞ。群衆に紛れて阿保ぬかすな。あとそこの変態爺さん、胸ばっかみとるなよ。目ん玉穿るぞ。で、坊ちゃんたちは名前は?」

透き通った遠くまで響く声で兄妹に語り掛ける。

「私たちは、北の山脈より竜人族のセツナと妹のトワと申します。遥か東の国から根源たる火の力の神たる鬼神族にご挨拶申し上げます。」

深く、兄妹揃ってグレンに頭をたれる。

「今時えらい珍しいな。正式な挨拶されるのも久々やし、よう出来た坊主やな。」

にっこり、笑みがグレンからこぼれる。

「恐れいります。ところで、角2本持ちの鬼神族がお一人で探し物ですか?」

恐る恐るセツナがグレンに問いかける。

「一人ではないで、一人と一匹や。それにしても兄ちゃんえらい珍しい目しとるな。」

コツンとネオの頭を小突いて二人の兄妹に笑いかける。

「一匹ですか。。確かに一匹ですね。良くわかりましたね。真理の目です。正面きっての戦闘はからきし使い物になりません。」

少し小馬鹿にした笑い含みながら問いかけには真剣に答える。

真理の目とは、真実とことわりを見る11の奇跡の目に名を連なる一つである。

精神操作や幻をはじめとする擬態といった嘘を強制的に真実に戻すリセット機能と法術や邪術に魔術といった法則を用いる呪文の構成を分解して読み解く理のサポート機能に特化した目である。

「はじめて見たわ。実際、にいちゃん強いやろ?妹は圧倒的なバケモンクラスに強いけど。」

まじまじと青い瞳をながめながらギラギラとした好奇心旺盛な鬼の瞳がひかる。

「そうおっしゃるお姉さまは鬼の目ですね!」

トワが興奮気味で話にわってはいる。

トワは火の系統の中でも上位の太陽を象徴する日を扱う。

だからこそ鬼の目は興奮が抑えれないわけである。

火属性最強の一角、赤鬼の鬼目は国宝級なのだ。

鬼目が最強と言われる所以は、その圧倒的な邪を祓う能力が高い事にある。

鬼目に睨まれた邪の物は消え去り、格上の魔の物ですら固まる。

物理的に圧倒的な武力を持つ鬼の前での強制的な縛りは死を意味する。

「お嬢ちゃんとは気が合いそうやな。同じ匂いがする。」

拳をトワの前に突き出し握手代わりのグータッチを求める。

「はい。わたしもそう思います!」

苦笑いするセツナの横で熱い拳がぶつかる。

広場に季節外れの熱気が広がる。

「姉御がほめるとは珍しい、そんなにこの小娘強いですか?」

ネオが同じ身長のトワを疑いの口調でグレンの姉御に問いかける。

「ふっ、お前じゃ話にならん位強いよ。トワちゃんは先祖返りかな?」

フードの影からユラユラ揺れる尻尾を指差してトワに聞き返す。

「はっひ。そうでし。」

実際はただの人化が下手くそで隠せてないだけなのだが、なんとか誤魔化す。

「トワ、あんまり普段畏まった態度なれてないから無理するなよ。」

セツナが嚙み嚙みの妹をフォローする。

「ここ人が多いし、場所変えるでさ。丁度昼時だしメシにするか、ちびども。」

グレンが広場の角にある食堂を指指す。

「そうですね。お集りの皆様、お時間割いて頂きありがとうございました。では最後に、」

トワに目配せをしてセツナが木の枝を一斉に空に投げる。

「ふーっつ。ブレス。」

大きくトワは口を開いて色とりどりの炎の塊を空に舞う木の枝に吹きかける。

めらめらと木の枝が燃えるが木の枝は燃え尽きること無く空でくるくると回り続けて昼の空に火の玉が躍る。

「竜の子の舞これにて終焉です。最後にお気持ちばかり少し頂けると今後も旅が続けていけますのでご協力お願いします。」

二人が大きくお辞儀するタイミングで花火みたいに昼の空に木の枝が燃え尽きて消えていく。

「おおー。綺麗や。」

ネオがきらきらした目で上を見つめる。

「お待たせ致しました。行きましょうか。」

セツナとグレンが会話する傍らで、トワは小銭がいっぱいになった木箱を大事そうに抱えてお兄ちゃんの大きな鞄の中に仕舞う。

~食堂~

「選ぶ店間違えたかな?ちょっと匂うな。これとこれ。あとこれもやな。さて、私がいうのもあれなんやけど。珍しいな。北からこんな南まで竜が来るのも。武者修行的な感じなん?」

グレンが店員に注文しながら会話を始める。

「南にいる親戚に会いに行く旅の途中です。」

セツナは木のコップに入った水をちびちび飲みながら答える。

実際に竜人族は、龍神族が住まう聖域の門番として北の里と南の里を中心に集まって生活している。

守護を生業としている性質上、子供は里の外を出歩かない。鬼神族として200年生きて成人したグレンでも北の竜人族の子供と出会うのは初めての事で驚きが大きいのである。

この世界において法術や医術のお陰もあり人族で平均寿命は200年、エルフ1000年、小人族700年、獣人族100年(ネズミ系統20年~亀系統2000年と種族にばらつきがあり大体の平均値)、木人族ツリーマン1万年、妖精10年、精霊(母体となるものが存在する限り死なない)。それらとは別枠の獣神族・龍神族・鬼神族・神族(ごく稀に人族の覚醒した極致、東方では仙人とも)と魔族や邪族は基本的に不死であるがお互いの相反する力の関係上単純に格上相手で死ぬ時はある。

「へー。じゃあもうすぐゴール出来るわけだ。これこれ待ってました。ゲッテル≪東方の方言、通称、黄金の泡:ビール≫。おい、兄ちゃんおかわりな。」

グレンはぐびぐびと美味しそうにテーブルに到着した飲み物を一瞬で飲み干す。

「姉御、あっしも飲みたいわゲッテル。何故、、ミルク。」

ネオは可愛くぺろぺろコップに舌を伸ばして不服そうに舐める。

「あっ、乾杯です。」

小声でグレンの豪快な飲みっぷりに圧倒されながら二人の兄妹は甘い果実を絞ったドリンクを喉に通す。

「ぷはー。あんな、声かけさせてもろたんわな。旅に余裕あるんなら、あるんならやで?魔物退治手伝ってくれんか?」

グレンは二杯目を片手に相談を持ち掛ける。

「邪ではなく魔物ですか?」

少しセツナに緊張がはしる。

この世界の構成は神族・人族・魔族の3種類からなりそれぞれが、聖域・アルーマ・魔界に住んで生活を営む。

特に、アルーマに住まう者たちの中で魔族を崇拝し眷属となった者をよこしまの者と総称される。

邪の者達に崇拝され、このアルーマに降魔を願い欲望と堕落の象徴であるのが、魔族である。

一般的に人族(ひと族・獣人族・竜人族その他)では魔物を討伐するのは不可能な程の魔力と知識に差がある。

魔族の中でも要注意なのが、龍魔族や鬼魔族ともなると別格の恐怖の対象となる。

「ここ最近な、南部でかなりの人数の人攫いが確認されとってな。お師匠様から調査してこいとのお使いを頼まれたんやけど、中々手がかりが無くてな手伝って欲しいんや。あかんか?」

グレンは次々に届く料理を気持ちよく平らげながらお願いを二人の竜人にする。

「そのまず、グレンさんのお師匠様とはちなみにどなたになるのでしょうか?」

セツナがお肉を取り皿に分けてトワに渡しながらたずねる。

「ありがとう。にいたん。」

トワは二人の会話には特に興味が無いのかお兄ちゃんが取り分けてくれたお肉に夢中で視線がキラキラしていた。

きらきらした瞳と尻尾が可愛くゆさゆさ左右に振れており、緊張しているお兄ちゃんとは対照的な幸せそうな顔している。

「あたいの師匠はあだなが鬼斧で名前がドルトやな。親父の弟にあたるんやけど鬼の目繋がりで弟子入りさせられた。」

グレンは師匠との思い出に良いモノがないのか渋い苦笑いで答える。

「えっ。師匠様がドルト様って事は、、お父様は尖刃使いの鬼医者、現在の鬼神族の族長でもあるハガネ様ですか!!ん?じゃあ、グレン様は、粉砕の鬼姫?ネームド(あだな)持ちですか!!」

飲もうとしていたコップを一旦机に置きなおしてセツナの体は驚きでのけ反った。

「鬼姫は恥ずかしいから、グレンと呼んでや。姫って柄じゃないしさ。」

こっぱずかしそうに鼻の下を左右に指でこする。

「師匠はただの馬鹿力ですよ。」

ネオはハムを頬張る。

「ごめん。やっぱ臭いわ。」

グレンは給仕を睨み、一瞬で右手で棍棒を上から下に振り下ろす。

「素振り。」

そうぽつりとグレンが呟くと給仕の人影が棍棒の一撃で消え去り黒い靄だけが中に舞う。

「えっ。邪の者?」

セツナはグレンの一振りを知覚する事が出来ず、一瞬の出来事に冷や汗があふれる。

邪の者は、魔族と契約する事で体に呪いを刻む。

その呪いは神族の神聖力でのみ浄化出来る。

肉体が滅んだ場合その呪いだけが残るので黒い霧が宙を舞う事は魔神族を崇拝している証なのである。

「わぁお。おねえさま、カッコいい。太陽の拳。」

トワは感激した様子で後ろの座席に座っていた黒いベレー帽をかぶった老人が立ち上がる前に振り返って拳で消し去る。

「ミルクとハム美味いな。」

ネオは師匠が暴れていても我関せずで食事を続けていたのでそれに合わせてセツナも食事を続けた。

「これは手伝わなくてもいいのか?牙付きよ。」

「下手に手を出したら骨折れるよこっちが。ぺろぺろ、ごっくん。」

「そんな事でいいの?」

「気にせんでええんや。」

ここの食堂は客も店側も全員邪の者しかおらず、ケンカの余波で机や椅子が砕け散りその破片が飛んでくるのでネオは手や尻尾ではじきながら美味しい食事をセツナと楽しむ。

「おっ。危ないな。トワ、あんまり壊すなよ。」

大きな机を片手で受け止めて窓の外に放り投げる。

気が付けば店の外は野次馬で溢れていた。

「えい。やー。でこぴん。でこぴん。」

トワは楽しそうに全力で逃げようとする邪の者を子供、大人関係無くデコピンで消し去っていく。

圧倒的な戦力差もあり、セツナ達が座っていた椅子と机以外全て廃墟と化した。

黒い霧だけがそこかしこに漂い浮いており、あまり気分の良く無い香りだけが残る。

「よし、こんなもんか。」

グレンは右手の甲で黒い浮遊物に触れて浄化していく。

(へーあぁやるんだ。)

と心の中でセツナは呟く。

そして真剣な目で浄化の作法を真理の目で観察する。

「あっ。グレンさん、全員消し去ってませんか?」

ふと大切な事を思い出しセツナはグレンに語り掛ける。

「えっ。全部消したよ。ほら、これでトワが最後の一人をほら。」

グレンが最後の一人を消し去るトワを指差す。

指先の指す方をセツナが振り返ると、

「とりゃ、ぽい。」

トワが全力で逃げる子供の後ろからデコピンを繰り出す様子が繰り広げられる。

「だめ、その子は残してー。」

セツナの叫びも空しく子供の姿は消え去り黒い靄が浮かぶ。

「んっ、なに?」

爽快感ある顔でセツナを見つめる。

「ぁぁああーー!手掛かりが、消えた。で、グレンさん手助けが欲しいとは、」

セツナはすぐ気持ちを切り替えた。

「こいつらのアジトを探し!!」

グレンは年寄り6人、大人6人、子供6人の計18人分の霧を片付けながら店をぐるりとまわる。

「それは、中々ナンセンスな注文ですね。目の前で手掛かりを綺麗さっぱり消しといて。」

セツナの口角が引き攣る。

「だからこそなのだよ!少年。私たちには根気というものが無いのだ。」

グレンは振り返りセツナの瞳をしっかりと見つめる。

「お断りさせて。。」

セツナは断りをいれようと口を開いた。

「やりましょう!グレンねぇ!」

トワは目を天真爛漫な瞳に変えてお兄ちゃんの口を塞ぐ。

「おぃ。。はっ?」

セツナは呆れた口調で聞き返す。

「こんなわくわく。やるべきよ!にぃちゃん!」

両手の拳をこつんコツンとぶつけながら鼻息荒く意気揚々と参加の意思を示す。

「だめです。我が家の家訓に反します。面倒ごとには首を入れない。」

セツナは荷物を纏めて立ち去ろうとする。

「ちがうよ!りゅうの、ほまれは、えいえんに!わたしの名前だもん!」

トワは仁王立ちで兄の行先を遮る。

「だから、悠久の時を生きる我らは時を司りし傍観者として人ともに歩まん。己に宿りし力に溺れる事無かれ。」

「うううぅ。。ちがうもん。竜の誉れは永遠に。闇が世界を覆う時、我らは智慧を司る賢者なり、闇を打ち破りし智慧を心に抱き守護者として歩まん。」

兄妹での言い合いをみてグレンが一言口添えをする。

「守護者の卵として手伝って欲しいかな。」

にっこりセツナに微笑む。

「それを言われたら、断る理由が無くなりますね。」

セツナは諦めたように顔を天井に向けて右手を腰に添えて左手で頭をくしゃくしゃに、搔き乱す。

「やった!!楽しい冒険の始まりだ!!よろしくね、グレンねぇ!」

トワは嬉しそうに目いっぱいシッボを振って喜ぶ。

「師匠のお願いならしゃーないな。尻尾付きのお前らと旅してやるよ。」

ネオが可愛くゴロゴロと喉を鳴らしながら会話に入る。

「よし!では行くか!アジト探しに!」

グレンが全員を見渡して声をかける。

「目的地は?」

セツナが問う。

「ここエフィタスから少し東にある南大陸の交易都市グラナダ。」

グレンが嬉しそうに微笑みながら問いに答える。

*領都エフィタス、南大陸の中央に位置するコル砂漠の西にあるオアシス、人口4万人規模の砂漠へ入る手前にある比較的大きな町。コーネル王国、コル砂漠の守護騎士、シェル侯爵領の領都。

*交易都市グラナダ、コーネル王国の王家直轄都市、人口20万人。コル砂漠の東端に位置する。コーネル王国とガリバー共和国の国境にある南大陸最大の交易都市。監督官、ネルト・アスラ二世外交官。










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