第二幕ーⅢ 魔族の在り方
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魔族には魔物を操る力があるそうです。
でも、自分よりも格が低いと言うことは効かないようです。つまり、魔族と魔物には上下関係があるということになるようです。
魔族にも上下関係があって、格上は格下に命令を与え実行させる力があるようです。
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呪いを受けて眠っている母親を助けて欲しいという男の子の依頼を受け、呪いの元となる魔物を討伐するために近くの林へと向かったデーガたち。
襲ってきた巨大な狼と戦うがデーガたちは討伐寸前まで追い込む。しかし、デーガ単身で逃げる狼を追いかけて奥へと言ってしまう。
あとをおいかけようとするグラドだが、アルーラはそれを静止する。
デーガの様子が変なので様子が見たいと言うアルーラ。
一方デーガは逃げる狼を捕獲し、負わせた傷を治癒した。
デーガが見るにはこの狼は呪いをかけた魔物ではなく、呪いをかける魔物に仕立て上げられたものだったのだ。
つまり、呪いをかけた魔物は別にいる…ということなのだ。
デーガその別の魔物に勘づいているようだが…?
―――
「よう、待たせた!」
デーガが林の奥から現れた。
「だ、大丈夫だったか?」
グラドは心配してデーガに声をかけるがデーガはすがすがしいほどに笑っていた。
「無事仕留めたぜ!」
「そ、そうか!それは良かった…これで母親は助かるというわけだな。」
グラドは嬉しそうだ。アルーラは無表情だが、小さく頷いた。
「回復までには少し時間がかかるけどよ、一応様子見に行くか!」
デーガはそう言い、グラドたちを連れて男の子の家まで向かう…
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「あ…」
「よう!」
男の子の家に着いたデーガたちは早速家にあがらせてもらい、母親の様子を見た。
「…見たところあまり変わってないように見えるが……」
グラドが様子を確認するが、母親の様子はあまり変わっていないように見える。
「時間が少しかかるんだよ。あと1日もすれば良くなると思うぜ。」
「…」
デーガは笑顔で応える。
アルーラはずっと無言でデーガを見ているようだが、グラドは良かった良かったと頷いていた。
「お前の母ちゃんはすぐ元気になるからな!」
「う、うん…ありがとう…!」
デーガの笑顔に男の子は笑顔を見せる。その顔を見てグラドはホッとした。
「よし、ギルドに報告しようぜ!」
デーガはそう言い、帰ろうとする。
「あ、えと!これ…!」
男の子は依頼の報酬であったポーションを渡そうとする。
「あーそういうのもあったな。」
デーガはそのポーションを男の子から受け取らず、そのまま返した。
「え…どうして…?」
「かーちゃんが目を覚ましたら飲ませてやりな。すぐ元気になるぜ。」
「で、でも…報酬…」
「俺はちゃんともらったぜ?んで、それをお前にあげた。な?」
デーガは報酬を受け取らなかった。
「全く…君というやつは…」
グラドは小さく微笑みながらも小さくため息をついた。
「あ、ありがとう…」
デーガたちは男の子と別れ、ギルドへと戻ることとなった。
―――
「いや~良かった良かった!なっ!」
デーガは笑顔でグラドとアルーラに言う。
「君は本当に見返りなど求めんのだな。」
「まぁ時と場合によってだよ!慈善団体じゃねぇしな!」
デーガは笑い飛ばす。
アルーラはそれを見て小さくため息をつく。
(嘘が下手ですね。デーガ様…)
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「あら、おかえりなさい!」
「よう!」
「おう、早かったな!まぁ簡単な依頼だったしな!」
ギルドに戻ったデーガたちをエアルド、マリーとリリーが迎え入れてくれた。
「依頼、無事に達成したぜ!」
「そうか、じゃぁ達成の手続きをしよう。」
デーガとグラドは依頼達成の手続きを行う。アルーラは受付の机に必死にしがみつこうとするが、高さが届かないため掲示板を眺めながら待機することになった。
「―――よし、これで続き完了だ。そうだな…あと2・3回ほどDランクの依頼を達成出来れば昇格出来るぜ。Cランクなら2回程度で良いぜ。」
「へぇ、随分とサクサク上がるんだな。」
「DからCはな。そっから上は結構こなさないと上がらないぜ?」
「ほーん。」
「で、報酬は貰ったのか?」
「おう!最高に良いポーションをな!」
「そっか!なら良かったぜ。」
デーガは笑顔で堂々と言うが、グラドはデーガの顔を見て小さく微笑んだ。本当は報酬は貰っていないことはデーガは言うはずもなかった。
(デーガ、君は本当に優しい奴だな…)
手続きを済ませたデーガたち。
時刻はそろそろ夕刻になろうとしていた。
「初めての依頼無事に上手くいって良かったな!」
「そうだな、この調子で早く一人前になりたいものだな!」
家に戻り大きく背伸びするデーガ。
帰るなり早速食事の支度を始めるアルーラ。
「アルーラ少し休めよ。」
「いえ、デーガ様たちも空腹でしょう。」
「まぁ、そう…だな…」
依頼中は何も口にしていなかった一行は確かに空腹であった。
アルーラは「ゆっくりしていてください」と言い、グラドとデーガは食事を待つことになった。
「しかし、本当にあの子の親が助かって良かった。」
「だな~。へへへ。」
デーガは嬉しそうに微笑んだ。だが――
「…?デーガ?」
「ん?」
「あ、いや…気のせいだ。すまん。」
「?そうか?」
グラドはデーガの目を見て違和感を覚えていた。
それは、今までの目とほんの少しだけ違うように感じたのだ。
目つきは鋭い方だが、それがより尖っているように感じた。そして少しだけ…ほんの少しだけ鋭い眼光を浮かべているように感じたのだ。
しかし、グラドにはその違和感をデーガに伝えることは出来なかった。
グラドにとってデーガはまだ出会ったばかりの友人だ。
デーガの小さな違和感は気のせいかもしれない。そう思うと何も言えなかったのだ。
―――
「…ウム、相変わらず美味いな。アルーラの食事は。」
「だろぉ~?ホントなんでもござれなんだよアルーラは!」
「当然です。デーガ様の手を煩わせることなくこのアルーラ、いつだって最大の想いでデーガ様に―――」
「「…」」
アルーラは誇らしげにそしてデーガに全力でアピールしようとしているのが分かる。
「な、なぁデーガ!明日はどんな依頼をする?」
グラドは話を逸らすようにデーガに振る。
「そうだなぁ~…やっぱ身体動かしてぇ気持ちはあるけどよ。すげぇ困ってそうな依頼があったらそれが良いな!」
デーガは内容というよりは依頼者の状況を考えようとしている。
「それもそうだな…やはり困っている者を優先したいな。」
「あ、でもよ!グラドが行きたい依頼があったら言ってくれよな!」
「あぁ、その時は遠慮せずに伝えよう。」
デーガたちはアルーラのデーガを称える話をスルーしつつ、雑談をしながら楽しく食事をし、ゆっくりと過ごした。
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そして夜になり、グラドとアルーラが眠りについたことを確認したデーガは音を立てないように起き上がる。
「…」(さて……)
デーガは扉を開けて外に出る。
「…」
デーガは翼を大きく広げ高く飛ぶ。
本来飛行というのは大きく魔力を消耗する行為だ。
基本的に飛行が出来るのは魔力が高いドラゴンぐらいだ。竜人にも翼はあるが飾りでしかない。
しかし、魔族は例外だ。魔族はドラゴンすらを超える高い魔力を持つ。飛行は彼らにとっては造作も無いことなのだ。
静まり返ったセントラルに端っこ。そこは先ほどの子供とその親が暮らしている家だった…―――
―――
「…もう少しだね。もう少しで…」
「もう少しで、なんだって?」
「ッ!?」
子供の後ろに立つデーガ。その目は今までグラドやアルーラたちに見せている目よりもずっと鋭く、そして…その全身から満ちているのは―――殺意。
「お、お前、どうして…!」
「気づかないとでも思ったか馬鹿。」
「ッ…!」
なんと男の子は先ほどまで見ていた純粋な顔ではなく、とても歪んでいる表情をしていた。
「邪魔をするな…!」
男の子は手を前に出し、何か黒い魔法を放つ。
「おっと。」
デーガはそれを片手で弾き飛ばす。部屋の壁に命中するが、それは霧のように消え去る。
「怪しいと思ったんだよなぁ。」
デーガはスッと身体を揺らし、男の子の身体を掴み、地面に叩きつける。
「ガッ…!?クソッ!」
「呪いで苦しめて殺すつもりなら依頼出してる意味が分かんねぇ。何のつもりだ?」
「チッ…このガキがボクの意志を乗っ取って依頼を出しやがった…!キャンセルも出来なかったが報酬がポーション1個だ。そんなショボい依頼など誰も受けないと思っていたんだ…!」
「けど、俺たちがきたってことか。」
「計算外だったさ…!!それに魔族が来るなんて想定外だった…!」
「運が悪かったってことだな。お前からぷんぷんと香る呪いの臭い…そして近くの林からも感じる同じ臭い。どっちかがクロなのは分かってた。」
デーガは男の子の身体を押さえつけながら喋り続ける。
「まぁ十中八九お前がクロとは思ったが…お前、演技派だな?一回信じて見るかと思って一応林の方から探るかって感じで気づいていないフリしてたってわけだよ。」
デーガは笑みを浮かべる。
「まぁ案の定、林の方は囮だったと。」
「クッ…この女を救いに来たってことか…!」
「まぁそれもそう。あとは魔物を勝手に利用して悪ィことしてんのも気に入らねぇ。」
「お前とて…魔族だろう!?我々魔族は世界を混沌に陥れるために生まれた種族だッ!」
「てめぇいつの時代の話してんだ。」
デーガは更に力を強める。
「ぎっ…ぐっ…」
その時、男の姿が変化し、黒い身体の小さな羽を持つ悪魔が姿を見せた。それは紛れもなく魔族であった。
「やっぱ魔族。この面汚しが。よくもまぁそんな醜態を俺に見せたな。」
デーガは舌打ちをし、更に身体を押さえつける。
「世界を支配する時代は終わった。俺も、カタストロフも、魔王ラドウはそんなことは望んでいねぇ。」
「ぐっ…このッ…あらゆる生物を呪い殺し力を溜めて来たというのにッ…“あの方”に示しが…!」
「“あの方”…?ほう、詳しく。」
デーガは弱めの魔法をゼロ距離で放つ。
「ぐがァッ!?」
「さて、吐きな?“あの方”って誰の事だ?」
「い、言うわけがないだろう!それに…いつまでもボクのことに構っている場合か!?この女はもうじきボクが魔力を吸いつくして死んでしまうぞ!」
「心配御無用。俺だってもうその女は手遅れだってことぐらい分かる。」
「くっ…!」
デーガの目はとても冷ややかな目をしていた。
これまで見せていた明るいデーガは今、もう欠片も残ってはいない。そこに居るのは紛れもなくかつての非情な魔族のようだった。
「1%でも救える可能性があるなら救いに行く。けどな…0%はどんなに頑張っても0%だ。」
「非情なやつめ…!」
「非情で結構。さぁ、吐きな。」
「…言えない!」
「あっそ。なら無理矢理吐いてもらう。」
デーガは目を閉じて小さくため息を吐く。
そしてカッと目を開く。その目は紫色に輝いており、その視線は見る者を委縮させるほどの威圧感を放っていた。
「あ、なんだその魔力は…!…なっ…な、な…なんなんだお前は!!」
怯えた表情でデーガを見る。
「さぁ、我が命に従え。“あの方”とは?」
デーガの声が魔族の男の脳に響き渡る。
「ボ、ボクは―――なにも知らないーーーです。」
「…はぁ?」
「な、名前を知らないんだ!だがいずれ魔族の王となり世界を混沌の時代へと導いてくださると約束してくれ――ッ!」
魔族は口が勝手に開き、喋り出す。
(く、口が―――勝手に…!!)
「ハイハイ。んで?それを聞いたのは何処だ?」
「み、南の―――サマスコール…!」
「ふ~ん。それってどの辺?」
「ぼ、冒険者の町の近くだ!南に大きな町がある!その近くだッ!」
「ふ~ん、なるほどね。で、他に隠してることは?」
デーガは次々と魔族の子に質問をし、それを答えさせる。
「な、無いッ!」
「オーケー。」
デーガは小さく微笑み、魔族の子を壁に叩きつけた。
「グアッ!し、質問には答えただろう!クソッ…なんなんだ…ボクの口を操るなんて芸当…そんなこと―――ッ!まさか…!」
「全く、ガキがベラベラと良く喋る。」
デーガはため息をつき、力をグッと押し込む。
「グッ…グアアッ!」
身体を潰されて悲鳴をあげる。涙が零れ、「痛い!痛い!」と叫ぶが、デーガは力を緩めることはしなかった。それどころか更に力を強める。
「うるせぇな…」
デーガは更に力を入れ、壁ごと魔族の子を押し込んで家に大穴を開ける。
そして地面に強く叩きつける。
「グアアッ!?」
「喜べ。この俺が直々にてめぇに粛清してやる。そしてあの世で精々反省するこったな。」
「――!」
デーガの目が再び紫に染まる。
そしてデーガは魔族の子が声を出さないように口を封じた。
「静かにしやがれっての。ついでに身体も動かすな。」
そしてついには身体の動きをも封じた。デーガは何も身動きが出来ないようにしたのだ。
「誰かに気が付かれたらどうすんだ全く。」
(な、なんなんだよコイツ!こ、怖いッ…怖い…ッ!!)
身体を震わせることも涙を流すことも出来ず、表情すらも変えられない。
もはや生物としての機能を全て奪っていくデーガ。
「お~すげぇすげぇ。細部まで命令出来るな。お前、マジで格下過ぎだろ。」
まるで楽しんでいるようだった。紫の目を輝かせ、笑みを浮かべながらデーガはあいているもう1つの手を左胸に当てた。
「はじめて試してみたけど案外やれるもんだな“魔王の権能”。じゃ、もうお前良いわ。死んどけ。」
「―――!」
(そうか、コイツは―――嗚呼…これは―――)
――
―――死ぬ。
目の前に居るのはただの魔族なんかじゃない。
目の前に居るのは―――ボクたちが求めている、残酷な――――
魔王だ。
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―――
「…デーガ様。」
「げ。」
「げ。じゃありません。」
時刻は間もなく夜明けになろうとしていた。
グラドとアルーラが目を覚ます前に家に戻ってきたデーガ…の、はずだったがアルーラが入り口で待ち構えていた。
表情は変わっていないように見えるがその声はやはり怒っているようだった。
「え~と、アルーラ?」
「使いましたね?魔王の権能。」
「エ、エート?いや、ソンナコトナイヨ?」
「とぼけないで頂きたい。」
デーガはあまりにも下手くそな誤魔化しを見せ、アルーラはため息を吐く。
「全く隠せておりません。まずその紫に染まった目を元に戻してください。」
「げ。あれっ?」
デーガは慌ててしまい、そして深呼吸して力を抑え込む。
「ど、どうだ?」
「戻りました。」
アルーラは低い声でデーガに近寄る。
「私もなんとなく勘づいておりました。あの子供はやはり魔族だったのですね。」
「~…お見通しかぁ。」
「誤魔化せませんよ。」
アルーラは更にデーガに近づく。そしてその小さな手がデーガの身体に触れる。
「…無理をなさらないでください。」
「―無理なんてしてねぇよ。」
少し間が空いてから喋るデーガ。
「…」
「…嘘が下手ですね。私には話してください。一人で抱え込まないでください。」
「…グラドに聞かれたくねぇ。場所移さねぇか?」
「畏まりました。」
デーガはアルーラを連れて少し離れた広場に移動することにした。
「グラドにかくしごとをしたいわけじゃねぇけどよ。俺がやったことは一応生物の殺害だからなぁ。」
「嫌われたくありませんか?」
「ん~…まぁ、そんなとこ。」
歩きながらそんな話をし、そして広場に着いたデーガとアルーラはベンチに座る。
まだ夜明け前であり、人は居なくとても静かだ。
街灯がピカピカと光っており、その周囲には虫が集まっている。
そしてデーガはアルーラに先ほどまでの出来事を全て話した。
「オヤジやカタストロフの知らない新しい魔族の派閥があるみてぇなんだ。そいつらは魔族が新たに世界を支配しようと企んでるらしい。正体までは分からなかったけどな。」
「――そうですか。ラドウ様とは別の派閥が…」
魔族は魔王ラドウ、そしてカタストロフが魔族たちを統率している。魔族の人口は今やほとんどおらず、謂わば絶滅危惧種のようなものだ。
しかし、その派閥はラドウもカタストロフも知らないまた別の魔族の軍勢だ。その規模がどの程度のものなのかは分からない。
「俺は将来魔族の王になるんだ。そして俺が目指す魔王は―――世界を支配する魔族なんかじゃねぇ。オヤジやカタストロフのように、世界をよりよくしてぇんだ。」
「…そうですね。それが…魔族と、我々魚人の願い。」
「だからよ…世界を支配しようとしてる魔族が居るなら俺はそいつらを許すわけにはいかねぇし、食い止めなきゃならねぇ。」
デーガの目は決意に満ちていた。
「魔族の歴史はもう血まみれにはさせねぇ。」
「…デーガ様、お気持ちは分かります。ですが…一人で何でもやろうとするのはやめて頂きたい。」
アルーラはデーガの顔を見て真剣に言う。
「アルーラ…」
「デーガ様、私は貴方の為にここにいるのです。貴方の為なら私はどんなことでもやれます。この手を血に染めることなど…容易いことです。」
「物騒なこと言うなって。」
「いえ、私は本気です。ラドウ様、カタストロフ様、そしてデーガ様の為ならば…世界の敵にだってなれます。」
「…」
デーガはアルーラの頭をポンと叩き…
「…ありがとよ。これからはお前のことも頼らせてもらうぜ。」
「――はい、ずっと私を…傍に置いてください。」
デーガは大きく背伸びをする。
「あ~…ちっと疲れたぜ。戻って寝るか~」
「もう朝になりますが…?」
「げ…グラドも起きて来るし、それに今日も冒険者の依頼があるし…!」
「グラドに勘づかれたくないのでしょう?で、あれば…」
アルーラは小さく微笑んだ。
「くあ~!!眠れねぇじゃねぇか!マジかよ~…!」
「教訓です…無理をするからです。」
「くそぉ!こうなったら気合で乗り切ってやるッ!」
「そういえば、母親の女性は?」
「手遅れ。可哀想だが運が悪かったんだ。しっかり弔ってやったが…気分は良くねぇわな。」
「そう、ですか……」
アルーラは少し表情を変える。複雑そうな顔だ。
「もうちっと早ければ助かったかもしれねぇけどな。息子は魔族に喰われて擬態され、母親は呪殺……ホント胸糞悪りぃぜ。」
「…それが本来の魔族の姿です。ですが……貴方もラドウ様も、カタストロフ様も目指す道はこれとは違う。多種族とも友好的に平和に過ごせるよう、尽力致しましょう。」
「…そうだな。けど、やっぱ平和を乱す魔族は放置できねぇ。今回みたいに覚悟決めて手を下すこともあるだろうな。」
「…平和の為に悪を淘汰すること…善悪をしっかり見定めることができればそれは悪いことではないのかもしれませんが…今回のようなことはなるべく起こらないに越したことはありません。しかし、私は貴方の考えに従います。ただ、貴方らしくないことには口を挟みます。よろしいですね?」
「ははっ、そりゃありがてぇや。俺が血迷った時にはお前が止めてくれよ。」
「デーガ様の御心のままに。」
デーガはこれからの目指す魔族の在り方、そしてデーガが魔族を統べる者として覚悟するべきことを改めて再認識した。
デーガたちの目指す道は時には血を浴びることなるほどに険しい茨の道だ。だが、いつかその道のゴールに辿り着けるよう、立派な魔王になれるように尽力しようと思うのだった。
そして……デーガは結局この日一睡もすることはなくいつも通りに振るまいながら依頼をこなすこととなった。
そして、その日の夜は適当な理由を付けて早めに寝床についてそれはそれはとても長い時間気持ちよさそうに眠るのだった―――
第二幕 完
―――
「良いか?デーガ。」
これは少し前の昔の記憶。
「ん?何だよオヤジ。」
「デーガ、魔王の権能はもう使えるのだろう?」
「あぁ、まだ完璧じゃねぇけど自分より格下の魔物ぐらいならなんとでもなるぜ。」
デーガは自慢げに父、ラドウに言う。
「魔王の権能はあらゆる魔物を自身の支配下に置くことが出来る。どんなあらゆる命令でも効くようになる。お前の使い方次第ではどうにでもすることが出来る。この意味が分かるな?」
「わーってるよ。使いどころを考えろってことだろ。」
「分かっているならばいい。」
ラドウは一呼吸おいて更に語る。
「我々魔族は過去に大きな過ちを犯している。故に、それをよく思わない者も居る。そして――新たな脅威、派閥が現れる可能性もあるかもしれぬ。」
「あ?なんだそりゃ。俺たち以外の勢力が襲ってくるかもしれねぇってことかよ。」
「可能性の話だ。それが私の代か、お前の代になるかは分からぬ。」
「フーン…」
デーガは考える。今後、そういう者たちが現れた場合、自分はどうするべきなのかを。
「どうするべきか、考えているな。」
「あぁ。オヤジならどうする?」
デーガはラドウに尋ねる。
「フム…戦わなくても良いのならば…それでいい。だが、そうはならぬだろう。恐らく――戦いになる。」
「…そんときはぶっ倒しちまっていいんだろ?」
「―――やむをえまい。我々にも信念がある。戦いはいつの時代にもあるものなのだ。気は進まぬがな…」
ラドウは悲しい表情をする。本当に魔王とは思えぬほど彼は優しい心を持っているのだ。
「…優しすぎるぜオヤジ。」
デーガは立ちあがる。
「俺はやるぜ。俺たちの信念を邪魔する奴は…誰であろうとぶっ飛ばして分からせてやる。」
「…フゥ。お前は妻に似て血気盛んだな。」
「アンタが血気無さすぎなんだよ。」
デーガはラドウとすれ違う。
「俺たちは確かに世界の安定を望んではいる。けどそれを脅かす存在が居るなら俺は戦うぜ。その為なら人殺しだってやってやる。」
デーガはそう言い、去って行く。
「…そうならぬことを願いたいものだな。」
ラドウはそう呟き、ため息をついた。
(デーガはラドウよりも魔王らしい。)
「…それは私も思う。」
カタストロフが声を出し、ラドウは呟く。
(お前も、ああなりたいと思うか?我が手を貸してやっても良いぞ。)
「いいや、私は私であり続ける。」
(…そうか、お前はお前で居ると良い。)
デーガの覚悟は決まっていた。
もし、いつか自分たちの思想と相対する者たちが現れるのならば、その手で裁きを下す。
その覚悟は既に、デーガの中では決まっているのだった。