第二幕ーⅡ 呪いの元を探しだせ
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見返りを求めない冒険者は少ないようです。
それはやはり、依頼をすることで報酬を得て、それで生活をしている人が大勢いるからだそうです。
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はじめての依頼はDランクの収集依頼。
一般的な薬草、エーリア草10本の採取だった。
そして報酬はポーション1個というとても割に合わないものであった。
だが、廃棄される寸前まで放置されていたその依頼を見てデーガはそれを請け負った。
冒険者は困っている者の味方。
デーガたちはその精神を大切に、依頼主の元へと向かう。
そこで出会った人間の男の子はアルーラに病で伏せている母親の姿を見せてもらうが、これは薬草では治せるものではなく、呪いがかけられているものだと知った。
この依頼はただのDランク収集依頼ではなくなってしまったということだ。果たしてデーガたちはこれからどのような決断をするのだろうか。
―――
「あれは間違いなく魔法による呪い。カーズ系統のものです、デーガ様。」
「カーズか…そんなもん使えるとしたら…魔物だな。」
デーガは予想を立てる。
「その可能性が高いかと。」
「そうなのか…?魔法使いには使えない魔法なのか?」
「使えなくはねぇけど使える奴は少ないと思うぜ。魔物には簡単だけど俺ら生物にとっては結構難易度が高いモンだし。」
魔物と魔法に対する知識が豊富なデーガは簡単に説明をする。
魔物を束ねる力を持つ魔族、そして魔法を生み出した元祖と呼ばれているのも魔族。
魔族であればこの辺りの知識は常識のようなものだ。
そしてそれに仕える魚人も同様に知識が豊富なのだ。
「強いカーズなら3日ぐらいで対象を死に至らせることもあるが…1週間ってなると魔法自体は弱いものだな。んで、カーズ系統を治療する手段は1つしかねぇ。術の発動者に辞めさせる…魔物であれば倒すこと。それだけだな。」
デーガはそう言った後に「だがちょっと問題があるなぁ」と、首をかしげる。
「魔法を使ってる魔物…それを特定して倒すのは中々骨が折れる。当の本人は意識もねぇ危険な状態だ。話を聞くことも難しいってなると発生源の魔力と母親の呪いにかかってる魔力を照らし合わせるしかねぇな。難しいけどよ。」
「本来であればこのように宛てのない呪いは諦められるのが普通だ。」
「なっ、そうなのか…!それは…悲しいな…」
グラドは医療関係のことには疎いようで、アルーラは常識のように語るが、グラドは知らなかったようで諦められていることに驚いていた。
「と、ここまでが分かることですが…デーガ様、どうされますか?」
アルーラはデーガに依頼をどうするか聞くが…
「ま、やれるだけのことはやってみるさ。」
デーガは請け負うことは変えないようだ。
「…デーガ、俺もそれには同意したいが…本当に良いのか?これはDランクの依頼だ。そして報酬も変わらずポーション1本。そしてこれは討伐依頼になった。改めてギルドに戻り相談するべきではないか?」
グラドはあくまで中立の立場となってデーガに尋ねる。
「いんや、やるぜ。カーズの魔法が使える魔物ってなったらどう考えてもDランクの魔物じゃねぇんだよ。ギルドに再申請なんてしようモンならCランク、いや、Bランクまで上げられる可能性だってあるぜ。」
デーガは依頼書を見せながら言う。
「CランクやBランクの依頼なのにポーション1個が報酬なんて誰が受けるんだよ。だからこのまま片付けてDランク依頼として終わらせちまえばいいじゃねぇか。」
デーガは全く報酬の見返りなど考えてはいなかった。
ただ、助けたいという気持ちしか持っていないようだ。
「そうか…君は見返りなど求めてはいないのだな。」
「へへ、まぁそんなとこ。んじゃもう一度子供のところに行くぜ。母親を見せてもらう。」
デーガは意気揚々とセントラルに戻ろうとする。
「見て何か分かるのか?」
「俺は魔族だぞ?呪いの発生源を辿るぐらいちょちょいのちょいだ。」
「…そ、そうなのか…!難しいと言っていたから宛も無いのかと思っていたのに君という奴は…!」
デーガはとても新人とは思えないほどに出来ることが多いようで、グラドはただ感心するしか出来なかった。
(俺もデーガのように出来ることがあれば良いが…俺に出来るのは…この武器を振るうだけのようだ。)
グラドは背に背負う斧を見て、決意を固めるようにデーガを追いかける。
「君の主はなんというか、お人よしが過ぎるな。」
グラドはアルーラに言う。
「それがデーガ様だ。私の、最高の主なのだ。」
アルーラは誇らしそうにしている。アルーラも見返りは求めておらず、単純でデーガがそう決めたなら全肯定する。そういう精神なのだろう。
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男の子の居る家へと再びやってきたデーガたち。
「あっ…」
「よう、すまねぇが母親様子を見せてくれねぇか?」
デーガは視線を合わせて子供に聞く。
男の子はアルーラをチラッと見ながら戸惑いを見せている。
アルーラは何も言わず頷いた。
「う、うん。わ、分かった…」
男の子はデーガとグラドを家に入れてくれた。デーガとグラドは礼を言い、家の中へと入っていく。
「…フーン…」
家の中を確認するデーガ。
掃除が行き届いておらず埃だらけだ。母親が倒れてから1週間程度だそうだが、その割にはあまりにも汚れていると感じる。何か前兆があってから倒れたのだろうか。
遠くから見るリビングの机の上には家族写真が見える。
男性と女性の大人と子供が1人。
「こっちだよ。」
眠る母親の元へと案内されたデーガとグラド。
「…ム…これは…!」
そこに眠っていたのはとても顔色が悪く、呼吸も弱く今にも死んでしまいそうなほどに衰弱してしまった母親の姿だった。
「……間違いなくカーズの呪いだな。」
アルーラは頷いた。
「お母さん…治る?」
「…おう。なんとかしてやる!」
デーガは何故か少し合間を置いてから返事をし、男の子に笑顔で応える。
アルーラはそこに少し違和感を覚えるが、グラドはその違和感には気づいておらず、「俺たちに任せてくれ」と男の子に笑顔で言う。
「あ、ありがとう…」
男の子は微笑んだ。デーガたちにも心を開いてくれたのだろうか。
そして男の子を家に待たせてデーガたちは再び外に出た。
―――
「さて!呪いの元を探し出すかッ!」
デーガは大きく背伸びして町の外へと歩き出す。
「デーガ、宛はあるのか?」
グラドはデーガに尋ねる。
「呪いの臭いは覚えた。あとはそれを辿ればいい。楽勝だなッ。」
デーガはそう言い、迷いなく歩き出す。
「デーガ様。何か気が付いたことが?」
アルーラはデーガに含みがありそうな言い方をする。デーガは「いんや。何も?」と軽く受け流した。
「ここから遠いのか?」
「いんや、わりと近いぜ。向こうの方だから…森の中かな。」
デーガが指さす方向には小さな林がある。
あまり大きな林ではなく、一通り見て回るのにそんなに時間はかからない程度の林だ。
「あんなに近くに…?不用心すぎないか?」
グラドは疑問に思うが、デーガは「魔物なんてそんなもんだよ。」
と、軽く言う。
「魔物には知能の高い者、低い者が居る。呪いをかけた魔物は恐らく知能がそこまで高くないのだろう。」
「流石魔族だ。魔物には詳しいようだな。」
「へへっ、サンキューな。」
デーガは笑顔で言い、一行は林へと向かう。
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「さぁて…」
デーガは目を閉じ、呪いの気配を感知する。
「…こっちだな。」
デーガはそう呟き、奥へと足を運ぶ。
グラドとアルーラはデーガの後ろをついて歩く。
「…来るぜ!」
しばらく歩いているとデーガが声を出す。
「!」
すると突如、魔法のようなものがグラドの横を通り過ぎる。
「!」
すぐさま武器の斧を構えるグラド。
「こいつが呪いをかけた魔物だ。」
「…?」
アルーラは首をかしげる。
(おかしい。この魔物に呪いをかける力など無いはず……?)
「結構強めの魔力だ!気を抜くなよッ!」
デーガはそう言い、拳を構える。
奥から現れたのは体長2m程度の大型の狼だった。
「狼型の魔物か…!確かに呪いを使うだけあって禍々しいな。」
漆黒の毛皮を蓄えた狼がグラドに向かってとびかかる。
「クッ!」
グラドよりは小さいがそれでも2m程度の巨大な狼だ。
力は強いが、グラドも負けてはいない。
「舐めるなよッ!」
グラドは斧で狼の牙を受け止め、押し返す。
そしてデーガは押し返してバランスを崩した狼に向かって炎を纏った拳をぶつける。
「グルアッ!!」
狼は身体を転がして火を消し、口から魔法を放つ。
「デーガ様!アクアシールド!」
アルーラは防御壁を展開する。水を纏った円形の盾を出して魔法を防いだ。
「グラド!畳みかけるぜ!」
「あぁ!」
デーガは今度は雷を纏った拳で狼の懐に入り拳をぶつける。電撃で痺れて身動きが取れなくなった狼に、グラドの斧が振り下ろされる。
「グルアアッ!!」
狼の悲鳴が響き渡る。流石に一刀両断とはいかないが、背中から血しぶきが吹きあがり、狼は地面に転がり暴れている。
そして必死に林の奥へと逃げていく。
「逃がすかッ!」
グラドはそう言うが、デーガが「いや、ここは俺に任せろ!」と言い、一人で林の奥へと走り出す。
「デーガ!1人では…!」
「グラド。デーガ様を待つのだ。」
アルーラはそれを静止する。
「し、しかし!」
「グラド。デーガ様の様子が少し変なのだ。」
「何だって?それはどういう…」
「デーガ様にも考えがあるのかもしれない。様子を見させてくれ。」
「わ、分かった…」
デーガに狼を任せ、グラドとアルーラはその場で待機することになった。
―――
狼は負傷しながらもデーガから逃げ続ける。
「おっと、そろそろ大人しくしときな!」
デーガは手から魔法を撃つ。それは狼の足を茨のようなもので縛り付け狼の歩行を封じた。
「グアッ!グルゥッ!」
狼は威嚇をし続ける。
「ワリィな。グラドの一撃でも死なねぇと踏んでたんだけど結構深い傷負わせちまったな。」
デーガはそっと狼の身体に手を当てる。
するとデーガの手から淡い緑色の光が出現し、狼が受けた傷を治療しだしたのだ。
「…?」
狼は不思議に感じている。
「やっぱりな。お前、“呪いの気を植え付けられてんだ”。」
「ガル…ガウッ…」
「お前は呪いをかけた魔物じゃねぇ。“呪いをかけた奴に仕立てられたんだな”。」
「…うし、もう良いぞ。」
デーガは拘束を解いて、狼を自由にした。
「…」
狼はジッとデーガを見つめている。
「悪かったな。もう行っていいぞ。もう悪い奴に利用されんじゃねぇぞ。」
「グルル…」
狼はデーガを見つめながらも、そのまま林の奥へと消えていった。
「…さーてと。」
デーガの目つきが変わった。それはいつもよりも少し尖ったような目をしていたのだった…