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Delighting World 創伝 Brave Hearts  作者: ゼル
第二幕
6/8

第二幕ーⅠ はじめての依頼

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はじめての依頼でいきなり見栄を張ってちょっと難しい魔物討伐に向かう冒険者がいるようですが…



中にはそこで大怪我をして引退…なんて人もいるみたいです。



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第二幕

第4話

~はじめての依頼~


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冒険者ギルドに登録したデーガとアルーラはその中でグラドという名の橙色の竜人と出会う。

持ち金が足らず家を借りられずに途方に暮れているグラドを放っておけなかったデーガはルームシェアを持ちかける。

まだ出会って間もない者といきなりルームシェアするのはどうかと思うとアルーラとグラドは意見するのだが、デーガは”冒険者は困っている者の味方”と言い、グラドを受け入れることに決めた。


デーガはグラドは良い人だと判断したからだと言うが、グラドはデーガのまっすぐな目を見て共にルームシェアをすることを受け入れた。


デーガたちはそこそこ大きな家を借りることにし、共同生活が始まった。

半ば強引に共同生活をすることとなり、実質パーティメンバー入りになってしまったグラドだが、グラド自身も誰かと冒険者をやれれば良いと考えていたようで、デーガの好意にも感謝していたため、お互いに新しい友として共に頑張ろうと握手を交わすのだった。



そして一夜が明け、デーガたちのはじめての依頼が始まろうとしているのだった。


----------------------


早朝、初めて一夜を過ごす家で目を覚ます。

「……ン…あぁ…そうか、俺は――そうだ、冒険者になったんだった。」

窓を見つめる橙色の鱗を持つ竜人、グラド・マディグルは大きく背伸びをして使い古されたベッドから降り、窓の外を見る。


「ああ、いい天気だ。」


空は雲一つない快晴でとても穏やかであった。

「…ん?」

グラドがふと下を見ると、デーガとアルーラが少し距離を取り向かい合っていた。



「何をしているのだ…?」

この家には小さな庭がある。

そこに2人は立っている。グラドは窓を開け、2人を見る。


「行きます。デーガ様。」

「おう、いつでも来な。」

「では。」


アルーラの手から水で出来た爪が出現する。

「魔法か…!」


そしてアルーラは素早い動きでデーガに目掛けて突進する。


「ほっ。」

それをデーガは拳で受け止める。

「まだまだです。」

アルーラの猛攻はやがて水刃となりデーガに襲い掛かる。

「やるな。」

デーガはしっかり防御壁を張っており、やがてそれは全身を使った組手のようになっていく。

手足を、身体を動かし腕に、足に、身体をぶつけ合う。

そしてしばらくし、お互いの拳と爪がぶつかった時

「よし、ここまでだ。」


と、デーガの声で組手は終わった。


「ありがとうございました。デーガ様。」

「おう、また付き合ってやるよ。」

「恐縮でございます。」

「堅いっつーの。」


デーガとアルーラは握手を交わす。そして、ふと、上を見るデーガはグラドに気が付いた。


「お、グラド!おはよう!」

「あ、あぁ。おはよう。」


----------------------




「朝食とコーヒーでございます。」

「おう、サンキューアルーラ。」

「ありがとうアルーラ。」


「いえ、ごゆるりと。」

「店員かよ。お前も座れよ。」

「いえ、私は後で。」


アルーラはそう言い、台所で料理の下ごしらえを始めた。


「やれやれ、メシ作ってくれるのはありがたいけどよ。これじゃまるで召使いじゃねぇか。」

デーガはため息をつく。

アルーラは昨日からずっとデーガの世話をし続けており、そのついでのようにグラドにもたくさんの世話を焼いてくれている。


「アルーラは働きすぎだと思うのだが…」

「言っても聞かねぇんだよな~…」

「魚人は魔族の古き友であり、魔族に仕えし種族…と言われてはいるが、アルーラが良い例だな…」


アルーラの頑張る姿を見てグラドは心配になるが、デーガは半ば諦めているような状態だ。

それほど、アルーラの忠誠心は強いのだ。


「魚人でもアルーラほど律儀な奴は早々居ねぇよ。あくまで魚人は魔族の友人だからな。」

「フム…だがアルーラは…友人というよりは…」


「まぁ、そう見えるよなぁ…俺の立場が立場だからそうしなくちゃならねぇっていうのがあるのかもしれないけどよ。」

デーガはため息交じりに「普通に接してくれねぇかなぁ…」と呟く。


「立場…?」

グラドは首をかしげる。

「あぁ、言ってなかったっけ。」

デーガはアルーラに「俺の立場って言っていいか?」と尋ねる。

「信頼出来る人物であれば構いません。」

とアルーラは下ごしらえをしながら言う。


「じゃ良いわ。えーとな。」

「良いのか…」

デーガはあっさりとグラドを信頼出来る人物認定し、話そうとする。


「俺さ、魔王ラドウの息子なんだよな~」

「……お、ほ、ほう??」

グラドはキョトンとしてしまう。


「母ちゃんは竜人だからハーフなんだけどな。一応次期魔王。」

「お、おお??…待て、待て。エート?」

グラドは頭が混乱してしまいそうだった。


「なにやらとんでもなく凄いことを聞いてしまった気がする…」


「デーガ様、グラドが混乱しております。」

「お、おう…まぁ、分からんでもないがよ…」


デーガの立場のカミングアウトは流石に普段冷静なグラドですらも困惑するほどに大きな事実であった。


「そ、そうか…君はそんな…って、何故そんな君は冒険者に…?」

「えっとな。」


デーガは冒険者になるまでの経緯を簡単ではあるがグラドに説明した。


―――


「そうか…時期魔王になるまでの間…そして最高の魔王になるために外の世界を知る。そして昔からの憧れか…」

「おう。父ちゃんは勇者亡き今、この世界をよりよくしようとしてる。罪滅ぼしみてぇなもんかな。俺もそんな魔王を目指すつもりだ!」


今目の前に居るのは将来魔王になる男なのだ。

グラドは今だ驚きを隠せないが、だからと言ってデーガを特別な目で見るのは失礼だと判断したグラド。

そして、今自分たちは冒険者であるということを。立場や身分など一切拘らない自由な冒険者だからこそ、グラドはデーガを特別な目で見ることはしてはならないと思ったのだ。


「そうか…だがデーガ。俺はお前が魔王候補だからと言って特別扱いはしないからな。俺たちは冒険者なのだから。」

「お?俺が言おうとしてたこと言ってくれるじゃん。ありがとな。」


デーガはグラドの言葉に喜び笑みを零す。アルーラも静かに頷いた。



----------------------


朝食を済ませ、アルーラの下ごしらえが終わりデーガたちは早速初めての依頼を受けるために冒険者ギルドに来ていた。



「よう、早速来たなルーキー!」

「よう!」

「いらっしゃ~い。」


入り口からすぐのカウンターから迎えてくれたのはギルドマスターのエアルド、そしてギルドで働くマリーとリリー。


「よう!さっそく依頼を受けに来たんだが。」

デーガは挨拶し、依頼を受けに来たことを伝える。


「おう、ならあそこの掲示板から好きな依頼を選ぶと良い。ただ規約にも書いてるけど選べる依頼は自分のランク、またはそれ以下、1つ上のランクまでだ。」

デーガたちのランクは最下層のD。

つまり選べるのはD、もしくはCのみだ。


「分かった。ありがとよ。よしグラド、アルーラ!早速見てみよーぜ!」

「畏まりました。」

「あぁ。見てみよう。楽しみだ。」


一行は掲示板に向かい、依頼書を見る。



――


依頼の掲示板には【討伐依頼・収集依頼・探索依頼・その他】の4つのカテゴリーに振り分けされているが、貼られている依頼書はまばらに、雑に貼られている。

冒険者たちが手に取り、違うと思ったら元に戻す。そういう動作が多いものだからある程度は雑になってしまうのだろう。


「綺麗にカテゴリーに分けられているみたいだが、君たちは拘りなどはないのだったな。」

「そうだな。でも強いて言うならこの街の外に出てみてぇとは思うけどな!」

「…フム、それあらば討伐依頼が良いかもしれませんが…」


見たところ、Dランクの収集依頼はこの街の周辺のものが多く、探索依頼はほとんどがCランク以上だ。

討伐依頼は満遍なくあり、数も多い。

そして、討伐依頼と探索依頼は人気のようで他の冒険者たちもかなりの頻度で取っていくため、入れ替わりがかなり激しいようだ。


「討伐依頼と探索依頼以外にはあまり手が届いていないようだ。」


収集依頼とその他のカテゴリーに位置する依頼書はわりと古めのものも何枚かあるようだ…



「随分と偏りがあるようだ…」

「ふ~ん…」

デーガは掲示板の収集依頼とその他の部分をジッと見ている。


「気になりますか?」

アルーラは古くなっている依頼書を見ているデーガに聞く。


「ん~そうだな…これなんて張られたの1週間前だぜ。」


デーガは収集依頼の端っこの方に貼られていた依頼書を手に取り、アルーラとグラドに見せる。

Dランクの依頼で、この街の周辺に生えている薬草、【エーリア草】を10本回収してくるだけの、簡単な依頼だった。


「このエーリア草ならば世界各地に普通に自生しているな…依頼者は何か取りに行けない事情でもあるのかもしれない。」

グラドは手を顎に当てて考える。

「デーガ様、報酬をご覧ください。」

「ん?―――なるほどな。この依頼を誰も受けない理由が分かったぜ。」




----------------------



「よう、決まったかい?」

エアルドの元へ依頼書を持ってデーガたちは赴いた。

そして1枚のヨレヨレの依頼書を出した。

「こいつを受けたい。」


「…こいつは…!へぇ~…」

エアルドは小さく微笑み…


「これは今貼られている依頼書の中で最も古いモンだ。規約で依頼が1週間受けられなかった場合は廃棄することになってる。で、コイツは今日唯一1週間になる依頼書だ。」

「おう、アルーラに聞いた。その上で選んだ!」


「へぇ…何でこれを選んだのか聞いても良いか?」


エアルドは興味深々で尋ねる。


「ん?だってずっと放置されてるしよ。誰かがやらなきゃいけねぇだろ?だったらそれは俺たち新人の役目、だろ?」

それは先ほどデーガたちが見ていたエーリア草10本を回収する依頼だった。


「良いのか?報酬の割の合わなさは分かってると思うけどよ。」


そこに記されていた報酬はなんと“回復薬1本”だったのだ。


回復薬は比較的安価で簡単に買えてしまうものだ。むしろ誰でも一家に数本は置いてあるようなもの。ごく一般的な薬なのだ。

それが1本だけであり、しかも金銭の報酬も無い。


誰がどう見ても割に合わないものだ。


「だからだよ。それだけ困ってるってことだろ。だったら受ける!それだけだぜ!」

「クッ、ははは!なんだそりゃ!お前、面白いな!」

デーガは満点の笑みでそう言うものだから、エアルドも釣られて笑ってしまう。


「そういう奴は大歓迎だ!良いぜ!行って来いよ!」

エアルドは依頼を承認する印を押し、デーガたちを送り出した。


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「デーガ様、良かったのですか?エアルド殿の言う通りどう考えても割に合っておりませんが。」

アルーラは再度デーガに確認をするが…


「良い!助けてやろうぜ!冒険者は困っている者の味方だからなッ!」

「君らしいな。その決まり文句を言われてしまっては俺も断る理由は無い。まずは肩慣らしということにしようではないか。」

グラドも同意してくれ、3人は早速依頼主が済んでいる家に向かった。


それはセントラルの居住区、その中でも街と街の外を仕切る境界線ギリギリにあるような小さな家だった。


「小さい家ですね…」

「だな。」

デーガはコンコンと家の扉にノックをする。


すると小さな音でゆっくりと扉が開く。


「ん?」

正面には誰もいない。

と、なると…


「おお、下だったか。」

そう、子供だ。

小さな人間の男の子がデーガたちを見ている。


「おじさんたち…だれ?」


「おじ…ッ……!ン、オホン!俺たちは冒険者だ。」

おじさんと言われたことに少しだけショックなグラドだったが、咳払いをし、そして子供の目線に合わせてしゃがみ、声をかけた。


「依頼を受けに来たのだ。話を聞かせてくれないか?」

グラドは子供に話を進めていく。

子供は少し怖がっているように見えるが…


「なんか、怖がってね?」

「……」

「俺たち怪しいモンじゃねぇから安心してくれよ。」

デーガも優しく声をかけるが…


「グラド。やはり怖がっている。デーガ様も。恐らく…顔が…」

アルーラはボソッと呟く。


「「…」」

2人ともコワモテの竜人の顔をしているのだ。

デーガは魔族で、グラドも顔に傷があったりかなりガタイもよく高身長だ。

小さな人間の子供からしたらそれは怖く見えてしまうのも無理はない。


「ここは私が。」

アルーラは逆に低身長で、人間の子供とそう大差は無い。

「この者たちは悪い人たちではない。まずは私と話をしてくれないか。」

アルーラは子供に言う。アルーラもアルーラで少し堅っ苦しいが…


「えと…」

子供は言葉を発しだした。


「「おお~」」

感心するデーガとグラド。


「…やっぱ俺たち、怖いか?」

「…ウム…その、ようだ…少し、悲しいな。」

デーガとグラドは少しだけ悲しい気持ちになったが、気を取り直し、とりあえず会話はアルーラに全て丸投げすることにした。


「お母さんが身体の調子が悪いの。動けなくて…お薬買うお金もなくて…だから、薬草が欲しくて…」

人間の子供は言葉を震わせながら頑張って伝えようとする。


「…君の母上の様子を見せてもらうことは出来るか?」

アルーラは子供に尋ねる。

「うん…良いよ。」

子供は家の中にアルーラを通す。


「お、俺たちは?」

「デーガ様、ここでお待ちください。グラドも。」

「あ、あぁ…」


デーガとグラドはまだ怖がられているようだから一旦家の外で待機することにした。

「ウーン…なんか…なんかなぁ…」

「ウム…何なのだろう。俺たちの初依頼…こんなもので良いのだろうか…」


デーガはこの依頼を受けたことをほんの少しだけ後悔しそうになるが…


「いんや、俺は諦めねぇぞ!依頼が終わるまでに絶対怖がられないようにしてやるッ!」

「お、おぉ…君は何処に気合をいれているんだ…」




―――



「邪魔をする。」

アルーラは玄関を超え、母親が眠る部屋へと案内される。


「お母さん、お客さん。冒険者さんだって。」


「―――」


(…眠っているのか。)


アルーラは母親のベッドを覗き込むが…


「…!」(これは…!)


母親の顔色は最悪だった。酷く青ざめており、呼吸は荒くはなくむしろ弱弱しくゆっくりだった。

だが、どう考えてもこれはただの病ではなく、その辺の薬草で良くなるものではないとすぐに分かった。

「…」

「お母さん、目を覚まさなくて…どうしたらいいか…薬草で、治るかなぁ。」

子供は泣きそうな顔でアルーラに訴えてくる。


「お金、無くて。だからお母さんのポーション1個しか、報酬できなくて…」

震えた声で言う子供の頭を撫で、アルーラは「大丈夫だ。もう何も言わなくてもいい。」

と呟いた。


「お母さん、治る…?」


「…少し、時間がかかるかもしれない。それに…この依頼を受けるかどうかを決めるのは私ではない。」

「…う…っ、ぐ…」

「泣くな。私の主はきっと、君を助けようとするだろう。だが…必ず、という保証はない。」

「ううう~~~っ…」

涙が目に溜まっていく…それをアルーラはふき取る。

「男だろう。君がそんな顔をしていては母親も安心出来ない。」



(行き届いていない清掃、そして見たところ…父親は居ない。つまり…2人で暮らしていることは間違いない。で、あれば…この子は泣いている場合ではない。)

子供に言うには少し厳しい言葉かもしれないが、アルーラは現状の状況を踏まえてあえてそういう言い方をしているのだ。


「信じて待っていてくれるか。私の主は君を信じるだろう。」


「…うん…」

「ヨシ。」

アルーラは手を放し、子供を残してデーガとグラドの元へと向かった。


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「お、戻ってきた。どうだったよ…って、何やら深刻そうだな。」

デーガがアルーラに訊ねるが、アルーラは深刻そうな顔をしていたため、すぐにそれに気が付いたデーガは表情を変えた。


「母親殿の病状が良くないのか?」

グラドの問いにアルーラは頷いた。


「この辺りの薬草では確実に治せません。それにアレは病気というよりは―――少し、場所を変えましょう。」

アルーラはそう言い、セントラルの外へと場所を移動した。



――



「彼の母親はただの病ではありませんでした。」

「違うのか?」

「はい、エーリア草では治せません。」

アルーラはデーガたちに説明を始める。


そして…



「彼の母親は“呪い”をかけられています。」


「の、“呪い”だと?」

「おいおい、マジかよそれ。絶対エーリア草じゃ治らねぇじゃねぇか!」


状況は大きく変わった。ただでは終わらないようだ。


簡単な収集依頼から一変したデーガたちのはじめての依頼はどのような顛末を迎えるのだろうか…




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