第一幕ーⅠ 冒険者
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――――――――俺は…
俺は、一体…
「!!」
目が覚めると、そこは一面の漆黒に染まった焼け野原であった。
大地は死に、木々は燃え、川は蒸発し、空は漆黒の雲で覆われ、その雲は酸の雨を降らせあらゆる金属を溶かした。
周りには、見知った顔…大好きだった友たちの亡骸がじわじわと酸の雨に浸食され、身体が溶けていく。
そんな地獄のような状況に立ちすくむ1人の男は、身体をブルブルと震わせる。
「…あ…ああ……嘘だ、こんなの、こんなこと…夢だ、夢だ夢だ夢だ…夢に違いない、きっと夢だ…!!」
腐り果てた大地に膝をつき、ボロボロと溢れ出る涙が零れ落ちていく。
「覚めろ…覚めろよ…覚めてくれ……!!なぁ…寝ているだけなんだろ?そうなんだろ?はは…こんなところで寝てたら……風邪、引くだろ…?」
目の前には人間の女性の遺体が転がっていた。
それは、自分が、愛した大切な人。
(貴方はまだやり直せる。だから…絶望しないで。)
女性の身体をすくい上げ、そして…抱きしめる。
その大きな竜人の身体は女性を包むように…
「…お前が…みんなが…俺…みんなが居ないと…ッ…ーーーーーッ!!」
虚しく響き渡る男の叫びは誰にも聞こえることは無く、虚無へと消えていった。
この日、世界は壊滅寸前まで破壊しつくされた。世界中の大地が死に、世界中のあらゆる命が消え、生き残った命もまた、日々衰弱し、死に絶えていく。
世界統合戦争の少し前、レクシアという付帯世界で起こった…歴史の書にも残らない、終わりと…そして長い長い命の始まり。
Delighting World 創伝 ~Brave Hearts~
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冒険を始めたばかりの冒険者はセントラルでは歓迎されるそうです―――
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この世界はどこまでも広く、そして未知で満ちている。
ここで生きる者たちは希望や夢を持って逞しく生きている。
そして魔法や剣を駆使して文明を発展させたり、時にはまだ見ぬ地を冒険したり。
それぞれがそれぞれの生き方をしている。
特にこの世界で最も盛り上がりを見せているのが“冒険者”。
この世界の未知を解き明かし、世界中を旅して生活していく者たち。
時には困っている人を助けたり、魔物を倒して素材を集めたり。
誰も知らない秘境を目指したり。
千差万別の暮らしがあり、一人ひとりにそれぞれの冒険がある。
この日、そんな世界に新たに冒険者になろうと冒険者の中心街“セントラル”へとやってきた者たちが居た。
「ここがセントラルか。やっとたどり着いたぜ。」
「…―――…」
「大丈夫か?」
「へ、平気です…これしき…!デーガ様をお守りする為ならば…」
「だーから、そういうのやめろっての。」
魔族と竜人の混血である青年、デーガ・カタストロフ。将来魔族の長となる男だ。
黒い鱗を蓄え、紫色の瞳が陽の光を浴びてよりその輝きが増す。
そして、そのお供を務める少年。
魚人と呼ばれる海を住処とする種族のアルーラ・ポット。
デーガは災害によって魚人の恩人ブレイブ・ポットを亡くし、自分の力不足と知識不足を痛感し、より多くの見聞を得るために憧れていた冒険者になることを決意した。
いつか立派になり、最高の魔王になるため、デーガの冒険者としての物語が幕を開けようとしているのだった。
これは、既に起こってしまった過去の物語・・・
変えようのない過去のハジマリを描く、創伝の物語だ。
Delighting World 創伝 ~Brave Hearts~
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一幕
第1話
~冒険者~
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セントラルは冒険者たちのために作られた町だ。
この“レクシア”と呼ばれる世界の中心につくられた冒険者の町。
冒険者の助けになる店が多く並び、そして冒険者ならではのギルドも存在しており、ここでは自由に依頼を受けることが出来る。
冒険者は未知なる場所を求めて冒険するだけではなく、この世界で困っている人々を助け、報酬を貰うという生業もあるのだ。
かつて世界を大冒険した先駆者たちはこうかかげている
“冒険者は困っている人の味方である”
と。
多くの人の力になりたいからという理由で冒険者になった者たちも多く存在する。
もちろん、単純に世界中を冒険したい、見たことのない景色を見てみたいなど、その目的は千差万別。
しかし、その胸に秘められているのは無数の夢ばかりだ。
―――
「はー…はー…」
「しっかし、アレだな。お前体力無いなぁ。」
「…も、申し訳ございません…私たち魚人は海で暮らす生き物が故…地上には慣れておりませぬが故…はー…はー…」
魔王城から約3日ほど。
デーガとアルーラはセントラルの冒険者たちの集うカフェで休息をとっていた。
本来ならば2日程度でたどり着けるのだが、アルーラは途中で体力不足で足が止まってしまい、到着が遅れてしまった。
「だからおんぶしてやるって言ったのによ。意地になるからだぞ。」
「いえ…デーガ様のお手を煩わせるわけには…いきませんので…」
「はー……ま、いいや。おーい!注文良いか―?」
「はーい!少々お待ちくださーい!」
まずは休息と腹ごしらえと考え、デーガはカフェの店員を呼び注文をする。
「いらっしゃいませ!あれ?初めて見る竜人さんですね!新人さんですか?」
人間の女性の店員が尋ねる。
「ん、あぁ。そんなところだけど…客の顔を覚えてんのか?」
「ええ!ここは常連さんが多いので!」
「へぇ~だってよアルーラ。俺たちも顔覚えられちまうかもな。」
「は、はぁ…」
「あら、魚人さんなんて珍しい!」
魚人が陸上に居ることがそもそもレアケースなことから店員は驚いている様子。
「…ちゅ、注文を。」
アルーラはじっと見られるのが恥ずかしいようで、話をそらすように注文に入る。
「あっ、ごめんなさい~えへへ。じゃ、お伺いしま~す。」
―――
「魚人は魔族の付き人。本来ならあまり良い目で見られるものではないですが…ここの町の人々は違うようです…」
「みたいだな。冒険者って自由だからな。種族とかそういうの気にしねぇんだろうよ。」
デーガも魔族の血が流れているが、竜人の容姿に近い姿をしているので、竜人と勘違いされている。
しかし、魚人と一緒ということで、デーガも魔族ではないかと思う者はいるだろう。
それに関して全く心配していないと言えば噓にはなるが、どうやら心配する必要は無さそうだ。
「よう兄ちゃん。あんたもしかして魔族かい?」
「あ?」
カフェで過ごしている他の冒険者がデーガたちに声をかける。
人間が1人と狼獣人が1人。
「だったらどうする?」
デーガはあえて警戒心を見せる様に対応する。
「いんやどうもしねぇよ珍しいなぁって思ってよ!」
「へぇ…どうも思わないんだな?」
「思わねぇよ!稀だけど魔族の冒険者も居ないことはねぇからよ!」
「そうなのか?」
「おう、冒険者は自由な生き物だ。種族とかそんなもんで気味悪がる奴は居ねぇよ。それに最近の魔族は大人しいし、現魔王はむしろ善行をしてるっていうもんだから世間の認識も大分良い方向に向いてるんだぜ。」
「…それは我々にとっても都合が良いですね。」
「そうなのか~…」
(オヤジとカタストロフが頑張ってるから…ってことか。)
デーガは自分の父親と、カタストロフの頑張りがここまで届いていることに少しだけ誇りを感じる。
「なぁ、せっかくだからギルドの場所教えてくれよ。」
デーガはせっかく出会った縁ということで尋ねる。
「おう、良いぜ!見たところ新人みたいだし、先輩として教えてやるよ!へへ。」
デーガとアルーラは冒険者たちからギルドの場所と、登録の仕方、そしてこのセントラルの穴場の店などを詳しく教えてもらう。
それを1つ1つ聞き漏らさないようにアルーラがしっかりメモを残している。
「坊主、真面目だな~!」
人間の冒険者は一生懸命なアルーラの頭をポンと叩いて笑う。
「坊主はやめて欲しい。私はこれでもデーガ様の忠実なる僕…」
「だから僕とか言うなっての!」
「ッハハ!面白いなお前ら!」
狼獣人冒険者は笑うが、アルーラは頬を膨らませる。
アルーラの生真面目さにデーガは呆れるが、この真面目さがアルーラの良いところだということも理解している。
だが、どうにも自分のことをデーガの僕だと言い張るのはなんとかならないものかと思っている。
「よしよし、だったらもう1つおまけだ。このセントラルで気を付けることを1つ教えておいてやるよ。」
狼獣人は言う。
「気を付けること?」
「おう、最近このセントラルを根城にして新人冒険者を狙うコソドロが居るんだ。小柄の獣人ってことしか分かってねぇんだがよ。」
「そんなのがいんのかよ。」
「そうなんだよ。特に新人は物の管理が甘いからなぁ。カモになりがちなんだ。お前たちも気を付けろよ。」
「そっか、ありがとよ。気を付けるぜ。アルーラ、魔蔵庫の管理気を付けようぜ。」
「はい、しっかり守ります。」
アルーラは魔蔵庫を預かっている。デーガの荷物もここに入っている。
魔蔵庫とは、魔力で出来た倉庫のようなものだ。
見た目は小さいキューブのようなものだが、それは見た目だけであり、中は魔力次第で好きなだけモノを出し入れすることができる優れものだ。
「兄ちゃんたち魔蔵庫持ってんのか!新人にはもったいねぇぐらいの高級品じゃねぇかよ!いいな~俺たちも持ってねぇのによ!」
冒険者たちは羨ましそうに見る。
「ん?これ高級品なのか?」
「知らねぇで持ってたのかよっ!!」
「これオヤジから勝手に借りたものだからなぁ。」
「デーガ様…魔蔵庫は安価なものでも“50万ゴールド”はする高級品ですよ。」
アルーラはそう言うとデーガは少し硬直し、冷や汗を掻いた。
「…な、なくしたら絶対怒られる奴だなそれ…!」
「気を付けましょう。」
魔蔵庫が高価であることを知らなかったデーガに笑い飛ばす冒険者たち。
「なおさらコソドロのカモにならねぇように気を付けねぇとな!!おぼっちゃま冒険者さん!」
「ハハハ!!」
馬鹿にされているような気もするが、こういう豪快に冗談を言う辺り、実に自由な冒険者らしい。
デーガもハハハと苦笑いをする。
その後も有益な情報を教えてもらい、デーガとアルーラは食事を楽しみつつ、休息を取った。
――
「ありがとな色々教えてくれて。」
「気にすんなよ!おっ、そうだ。せっかくだから…」
人間と狼獣人の冒険者はカードをデーガとアルーラに1枚ずつ渡す。
「これは?」
「ギルドカードの複製だ。まぁいわゆる名刺ってやつだよ。」
ギルドカードは名刺、身分を証明するものであり、冒険者である証のようなものであるようだ。
名前や得意な分野、冒険者歴、何を生業としているかなどが記されている。生業とは、探索だったり、討伐だったり、収集だったり。冒険者と言っても何をメインで活動しているかは人それぞれだからだ。
人間の方は“タイラー”。狼獣人の方は“リーアル”。
どちらも生業は討伐のようだ。
「つーわけで、俺はタイラー。」
「俺はリーアルだ。ここを拠点として活動してるただの冒険者だ。」
「…なるほど、冒険者はこうやって同士を増やしていくのですね。」
「みてぇだな…!ヘヘッ、楽しくなってきた!」
「ギルドカードはまだねぇけどよ、俺はデーガ。魔族だ。」
「私はアルーラ。魚人だ。」
2人はタイラーとリーアルと握手を交わす。
「よし、これで俺たちは同士だ!またギルドかどっかで会ったらよろしくな!」
「あぁ!サンキュー!」
デーガとアルーラはタイラーとリーアルと別れ、ギルド目指して歩き出す。
「良いもんだなこうやって同士が増えてくのも!」
「…そうですね。」
デーガは2人のギルドカードを見て微笑んだ。
(…楽しそうだ。デーガ様が楽しんでおられるなら…私も嬉しい。)
セントラルに辿り着いた2人はギルドを目指す。
デーガとアルーラの冒険者としての旅はまだ始まってもいない。
これから、始まるのだ。