表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Delighting World 創伝 Brave Hearts  作者: ゼル
零幕 ~魔王・カタストロフ~
2/8

零ノ二幕 ~勇気を鳴らす音~


零ノ二


―――



私たち生物は自分の力不足を感じると、次は頑張ろうと努力を始めるそうです。


でも、時々もういいやと投げやりになってしまう者たちもいるようです―――




―――




「お~す、来たぜブレイブ。身体はどうだ?」

「あぁこれはデーガ様…いつも申し訳ありません。私などの為にこんなところまで来ていただいて。」


「堅っ苦しいのは無しにしろ。ホレ、薬貰って来たからよ。」

「いつもご迷惑をおかけして申し訳ありません…」


デーガ・カタストロフ、18歳。


1年前、デーガの世話係を務め続けていた魚族のブレイブ・ポットが病に倒れてしまった。

デーガはそれからというもの、時折こうやってブレイブの様子を見に行き、そして人間の街に出向いて薬をもらってきているのだ。


ちなみに薬のことは父のラドウには言っておらず、ラドウから見るとただ手伝いついでに遊びに行っているように見られているようだ。


「ブレイブ、身体…まだよくならねぇか?」

「申し訳ありません…医師からもよくないと言われておりまして…」


「そっか…いんや!必ず良くなる!薬だって飲んでるんだからな!」

「…ありがとうございます…デーガ様…」


ブレイブは寝たきりの状態となっており、身体には大きな痣のようなものが全身に広がっていた。


ブレイブの患う病は“エーシリズル病”という病気だ。

原因は分からないが全身に痣がのようなものが現れ、これが身体の栄養を吸い取って広がってしまうものだ。

治療法も確立しておらず、デーガが持ってきている薬もあくまで症状を遅らせることしか出来ないのだ。


「今治療魔法の勉強をしてんだ。もしかしたらブレイブの病気が治るモンが編み出せるかもしれねぇからな。そうなったらまたウチに来てくれよな。」

「…こんな私にここまでしていただいて…頭が上がりません…」

「馬鹿言ってんじゃねぇっての!俺とお前の仲だろっ。」


ブレイブは寝ていれば基本的には元気だ。

デーガはブレイブと話している時が一番楽しかった。そして、今デーガが魔法と次世代魔王になるための勉強以外に、自主的に行っているものがある。


「んじゃ、少しだけ頼めるか?借りるぜ。」

「はい。」


デーガはブレイブの部屋の壁にかけてあったギターを取り出した。


これはブレイブが持っているギター。名前を“ブレイブ・ハーツ”という。

かつて世界を救った初代伝説の勇者の名前をそのまま取ったものだ。


ブレイブ自身の名前も、それに習って付けられた名前だ。

魔族にとっては忌々しい名前…であるのも、過去の話だ。今は、カタストロフが絶対悪から解放され、勇者が居なくなった今、それを忌々しいと思う魔族は居ない。


デーガはギターをブレイブに教わっていた。

ブレイブは音楽が好きで、昔はギターで演奏して魚人たちを楽しませていた。そして、ブレイブは時々幼かったデーガに弾き語りをしていたこともある。


しかし本人は今この状態だ。ギターを弾くことも出来ない。

その時、ブレイブの演奏に憧れを抱いていたのがデーガだった。

だからこそ、デーガはブレイブ・ハーツを借りてブレイブから演奏を教わっていたのだ。



―――


「フゥ、こんなもんか?」

「えぇ、とてもよくなりました。もう誰かに聞かせても恥ずかしくありませんね。」

「そっか!ヘヘッ、こいつを世界中に轟かせてやりてぇなぁ!」

デーガはすっかりギターにハマっていた。この演奏を世界中に響かせてやりたいとまで思っている。


「こいつを持って世界中を回るんだ。それだけじゃねぇ。俺はさ、冒険者になりてぇんだ!」

「冒険者…ですか?」


「あぁ!オヤジに昔買ってもらった冒険譚がめちゃくちゃおもしれぇんだ!まだ見ぬ地を冒険してお宝を見つけたり強い魔物と戦ったり、終わったあとは冒険者仲間たちと酒を飲んで飯をたくさん食って笑いあうんだ!」

デーガは笑顔で冒険譚を語る。ブレイブはそれを何度も聞いているが、自分もそれになりたいというのは初めて聞いた話であった。


「…デーガ様は、夢をたくさんお持ちなのですね。」

「おう!もちろん次世代の魔王になることも忘れちゃいねぇよ?」

「ハハハ、私としてはそちらが本命でございますよ。」


デーガは将来、ラドウの後を継いで魔族を統べる。

そしてカタストロフの魂もデーガの中へと移り変わる。


「カタストロフ様は元気ですか?」

「相変わらずお人よしだよ。最近はオヤジの身体を借りて町に出て人助けしてるって聞いてる。」

「そうですか…カタストロフ様も、変わられた。デーガ様も変わろうとしていらっしゃる。私も…変わらねばなりませんね。」


「何言ってんだよ!ブレイブはそのままでいーんだよ!俺は今のブレイブが大好きだぞ!」

「ありがとうございます、デーガ様…お優しい方に成長されて…私は嬉しいです。」





(あなたは…眩しいですね…あなたのような方が将来の魔族を引っ張って行けば…きっと、この世はもっと…)




--------------------------------------




デーガはそれからもブレイブの元に頻繁に行くが、ブレイブの身体は日に日に悪化していっている。


「…クソッ、忌々しい病気だッ…!」


「デーガ様、そろそろ帰った方が…ラドウ様も心配しています…」

ブレイブの息子である、アルーラ・ポットが言う。


ブレイブとよく似た容姿をしており、とてもまじめな少年だ。


デーガはブレイブの調子が悪くなってからは朝から夜まで見守る日もある。


心配する気持ちは誰しも理解はしているが、デーガの学ぶべき魔法や次世代魔王になるための勉学が遅れているのも事実だ。

ラドウからもそれは言われているが、デーガはブレイブの様子が気になって仕方がなかったのだ。


「…ワリィ、遅くまで居ちまった。」

「いえ…あとは私にお任せを。」


デーガは悔しい気持ちを抱えたまま帰っていく。



「…父さん…今日は海が荒れています。少し怖いですが…私も…貴方の跡を継いでデーガ様にお仕えする身です。だから…安心してお眠りを…」


―――




「海が荒れてるなぁ…最悪の天気だぜ。」

次の日には天気が大きく乱れており海は激しいうねりを見せ、大きな波が崖を叩きつけるように暴れている。


「…これじゃブレイブのところに行けないじゃねぇかよ…クソッ。」

デーガは仕方なく溜まっている勉学を行うが全く集中できない。もしもこの荒れた天気でブレイブの身体が悪くなってしまったら。

そんなことが頭を過っていた。

傍にアルーラが居るとしてもとても不安だった。


「…クソッ…」


ガタガタと音を立てるガラス窓。

ザーザー鳴り響く雨の音。

そしてバシャーンと大きな音を立てる波の音。


全てが煩わしくなるほど、デーガはイライラしていた。


「デーガ、居るか。」

「オヤジか。なんだよ。」

デーガの部屋に入ってきたラドウが声をかける。


「…よく落ち着いて聞け、デーガ。」

「ンだよ、改まって。」



「…ブレイブが…」

「!!ブレイブがどうしたって!?オヤジ!!」


「落ち着けと言っているだろう。」

「ッ…!」

慌てるデーガを静止させ、ラドウは再び語りだす。


「ブレイブの容体が更に悪化したとアルーラから情報が送られてきた。」

「!ブレイブは無事なのか!」

「…今は、な。だが…」

「だが…?」


「……この天気で魚人の住処が壊される事故が発生している。このまま天候が悪化し続ければ魚人の住処全体が危ないかもしれぬ。」


「…ッ…クソッ、どうしたらいい!?オヤジ!俺に出来ることはねぇのかよ!」

「…無い。」

「…!」


雷が鳴り響く魔王城。

強い雨の音だけが虚しく響くデーガの部屋。どうにもならない絶望がデーガを支配した。


「くそっ!」

デーガは部屋を飛び出す。


「待てデーガ!何処へ行く!」

「助けに行くんだろうが!魚人を1人でも多くここに避難させんだよ!!」


「馬鹿者!荒れた海に飛び込むなど命を捨てに行く行為だ!」

「ざけんな!俺の目指す魔王は誰も見捨てねぇ魔王だッ!」


「デーガ…!」

(ラドウ、我が行こう。)


「!カタストロフ…!」

カタストロフがラドウとデーガに語りかける。

(我が力を使えば一時期だが天候を操作出来る。その間にデーガは1人でも多くの魚人を避難させよ。海の魔物たちにも手伝わせよう。)

カタストロフは魔物を操る術を持っている。そして魔王たらしめる膨大な力により天候を少しだけ覆すことが出来る。



「助かるぜカタストロフ!頼んだぞ!」


デーガは走り出す。


「…全く、無理をするなよ。」

(あぁ。)


ラドウの身体の主導権はカタストロフに渡る。

姿が変化し、カタストロフは城の外へ出て右手を空に掲げる。


「天地を変えよ。ウェザー・フェザー。」

天候操作魔法、ウェザー・フェザーを発動するカタストロフ。

赤色の魔法陣を展開し空へと赤い光が勢いよく伸びる。


これは魔族のみが知る魔法“禁断魔法”の1つだ。どれも普通の魔法とは一線を画すほどの強力な魔法だが、その分消費魔力が激しく、並大抵の魔法使いでは使うことは出来ないものだ。


魔族は魔力を保有できる容量を表す“魔限値”が非常に高く、禁断魔法を使用することが出来るのだ。


「すげぇ…!」

空にかかる暗雲が一気に晴れ、天気が晴れになる。

海も穏やかになるが、はるか奥の方から暗雲がまた覆おうとしているのが確認できた。

本当に一時しのぎのようだ。


「行け、デーガ。長くはもたぬぞ。」

カタストロフはここから動けないようだ。

カタストロフの声に応え、デーガは海へ飛び込んだ。


「大いなる大海に住まわし我が僕たちよ。我が命を聞くがよい。」

カタストロフの目が紫色に不気味に光る。


すると海に生息する魔物たちが一気に魚人の住処に集まりだしたのだ。


「すげぇ…これが魔王・カタストロフの魔物操作…!」

デーガを乗せて魚人の住処へと急ぐが…




「…嘘だろ…!」


魚人の住処はボロボロだった。

家も残っておらず、魚人の数が少ない。


涙を流す者も多く居た。


「おい!大丈夫か!」


「アァ、デーガ様…!」

「デーガ様が来てくださったぞ!」



―――


天災とは言え、この魚人族たちがこの事故で大きく数を減らした。


デーガはカタストロフが天災を食い止めていることを伝え、生き残った魚人たちを魔王城へと誘導した。


魔物たちに指示を出し、デーガはブレイブとアルーラの元へと急いだが…



「申し訳ございません…デーガ様。」


「…!」


デーガが見た光景、それは崩壊したブレイブとアルーラの家。


そして、息を引き取っていたブレイブだった。

「ブレイブ…!」


「父さん…いえ、父は…貴方にこれを…」

アルーラがデーガに渡したのはブレイブ・ハーツだった。


「この天災で崩壊したこの家から私とこれを守るために父は…」


「……そうか…ブレイブは…自分の子と…俺とブレイブの関りを…守ったんだな。」

「私の力が及ばず…申し訳、ありません…」

アルーラはデーガに頭を下げて謝り続ける。


「――謝るなよ…ブレイブは当然のことをしただけだ…」

「これは…父の形見です。受け取ってください。」

デーガはブレイブ・ハーツを抱え、亡くなったブレイブを見る。


「…確かに受け取った。ありがとな…ブレイブ…ッ…」

デーガは涙を流す。

次世代の魔王になる者として涙など見せてはならない。

それが分かっているとしても、幼い頃からずっと見ていてくれたブレイブの死に対して、涙を流さずにはいられなかった。




―――





それからしばらくして再び天候は悪くなったが、それから数日後、元の青空が戻ってきた。


生き残った魚人たちは海に戻り、住処の復興を始めた。

カタストロフの指示により魔物たちを手伝わせ、復興は順調にいっている。



「…」

デーガは壁にかかったブレイブ・ハーツを眺めてボーッとしている。


「…俺は、何も出来ねぇ。経験が足りねぇ。知識が足りねぇ。何もかもが足りねぇ。」

デーガは魔法書を見つめる。


「…こんな勉学だけじゃ駄目だ。俺はもっと…世界を知る必要がある。」


--------------------------------------





「デーガ、居るか。」

デーガを尋ねたラドウが部屋に入るが、そこにデーガはいなかった。


「アイツめ、何処に…!」

デーガの机の上に置かれていたのは手紙だった。


雑な文字で「オヤジ、カタストロフへ」


と書かれていた。



「…」

ラドウは手紙を見る。

急いで書いたような雑な字ではあったが、読める文字では書かれてあった。






【オヤジ、カタストロフ。俺、旅に出る。冒険者になるんだ。俺はブレイブを助けられなかった。ブレイブを元気にできればブレイブは助かったかもしれない。俺にもっと誰かを救える力と知識、経験があればもっと多くの人を救えたかもしれない。俺には知識だけじゃない。経験が足りないんだ。だから俺は世界を見て学んで来ようと思う。元々冒険者には憧れていたんだ。いずれ次世代の魔王になるまでの間、冒険者になりたいとオヤジにも頼むつもりだった。けどもう俺は我慢できないんだ。だから勝手に出ていく。そして一人前になって必ず帰る、そして最高の魔族の長になって見せるから待っててくれ。 追伸:魔蔵庫借りてくぜ。】



「…全く…アイツは…」



(ラドウ、横に別の者の字が。)

カタストロフの声だ。ラドウはそれを聞き、手紙の横に付け足しされたように小さな文字で書かれていた文を読んだ。


「…これは…」


【ラドウ様、カタストロフ様、デーガ様のことはお任せください。我が命をかけてお仕えし、お助けいたします。そして必ずここへ帰ってまいります。


アルーラ・ポット】




「…アルーラが…」

(デーガは、1人ではないようだな。)

「そのようだ…アルーラ、馬鹿息子を頼んだぞ。」


壁に掲げてあったブレイブ・ハーツが無くなっている。

ラドウはそれに気が付き、窓から外を見る。


「ブレイブ、デーガを見守ってやってくれ。」

(死者に祈るのか?)

「魔王らしいだろう?」

(フッ、それもそうか。)



この日、将来魔族の王となり、魔王の次世代の器として生を受けた男が世界へと飛び出した。


そして彼は世界を知り、そして冒険者として世界を回り…やがて、この世界の光を、闇を知ることとなる。




この世界に訪れる未来は既に決している。

これは遥か未来の世界で生き続ける者が辿った変えようがない過去の話なのだから。



Delighting World:創伝 ~Brave Hearts~



--------------------------------------



「…っし!こんなもんかっ!ワリィな取り繕ってもらってよ!」


「いえ、それは構いませぬが…本当に行かれるのですか…?」

「おうよ!俺はもっと世界を知ってくる!そしてもっと強くなって最高の魔王になってみせる。」

「そうですか…私たちはいつでもデーガ様の帰りをお待ちしておりますよ。」

「ありがとよ!」


デーガは魔王城前の村で冒険用の道具を買っていた。

デーガの頼みとあらばと多くの行商人たちが物を集めてくれた。

冒険に必要なものから食料まで満たされたデーガの冒険は幸先が良さそうだ。


しばらく歩いていると…


「お?」


見覚えのある顔だ。

「ア、アルーラ!?なんでここにいんだよ!」

「お待ちしておりました。デーガ様。」

そこに居たのはアルーラだった。


「オ、オヤジに言われて連れ戻しに来たってか!?」

デーガは警戒するが、アルーラは首を横に振る。


「私が反対してもデーガ様は行くでしょう。ですので私もあなたの旅に同行させていただきます。よろしいですね。」

「は、はぁ!?なんでそうなるんだよ!俺はまだ魔王じゃねぇ!お前がブレイブの跡を継ぐなら…お前が仕えるのはオヤジじゃないのかよ!」

「いえ、私は…私は貴方に仕えるために生きてきた。私が、貴方にお仕えしたいのです。デーガ様…」

アルーラは膝まづき、デーガに頭を下げた。


「このアルーラ、命がけで貴方をお守りいたします。どうか、私を連れて行ってはいただけないでしょうか。」


「…んぁ~…わーったよ!しゃーねぇなッ!」

「ありがとうございます…!」

アルーラは立ち上がり再び頭を下げる。


「堅っ苦しいって!もっとラフにしてくれよ!な?」

「いいえ、そういうわけには参りません。私は貴方の僕。」

「僕って…仲間、だろ!」

デーガにそう言われ少し迷うアルーラだが…

「…善処します。」

と、だけ呟いた。


「あのな~…まぁいいや!行くぜアルーラ!この世界をたくさん楽しんでたくさん学んで俺は最高の魔王になるんだ!」

「はい、何処までもお供いたします。」



意志を継ぎ、魔族の青年は旅に出る。


再びここに戻るとき、それは一人前の冒険者となって最高の魔王として君臨するその時だ。




これは、未来を描くための過去の物語。

まだ世界が不安定で、7つに分かたれていた古き時代にあった1つの歴史。


Delighting Worldより遥か昔、まだまだ青き魔族の男がやがて世界の抑止力となるまでの青春と、絶望と、再臨の物語。



これは、遥か先の未来を決した創伝の物語である。





Delighting World 創伝 ~Brave Hearts~


開幕。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ