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こんとらくと・きりんぐ

絵葉書(こんとらくと・きりんぐ)

作者: 実茂 譲

 古い監獄から文明人に怪我をさせた地元民が引き出され、縛られたまま粗末な人力車に乗せられる。

 男の上着ははぎ取られ、痩せた体に肋骨が洗濯板みたいに浮かんでいた。顔は絞ったオレンジみたいになっていて、頬が一番くぼんていて、頭が妙に大きく見えた。剃り上げた男の後頭部から長い辮髪が伸びていて、打ち首にするときはそれを引っぱって、首切り役人が刀を振り下ろしやすいようにするそうだ。

 監獄の門から市場の中心にある処刑場までよぼよぼの車夫が人力車を引き、道沿いの見物人たちはじっくり、これから処刑される男を見ることができた。

 罪人に優しくすると来世のための徳になると信じる迷信深い連中が人力車に駆け寄って、煙草に火をつけて、死刑囚にくわえさせてやった。

 後ろを歩いていた監獄役人が自分たちにも煙草をよこせと言い、来世に期待する男は現世の厄払いのつもりで煙草を差し出したが、役人は一本の煙草ではなく、箱のほうをかすめ取り、何か文句があるかと眉根を寄せて、じろりとにらんだ。

 来世男は声を上げて笑いながら群衆のほうへと引っ込んだ。

 一行が市場の門をくぐり、生臭いか花のにおいがする通路を進み、焼酎と蟹の屋台がある中央広場で人力車は止まった。

 市場には三人の人物が待っていた。

 真っ赤なルビーと雉の尾羽根の帽子をかぶった役人だ。かなりの老齢で、白い口髭が長く垂れ下がっていた。彼は国で三十一番目に偉い役人であり、この処刑の責任者だ。

 そして、ふたり目こそはこの儀式の主役である首切り役人で、薄い着物に裾を切ったズボンを吐き、幅広の大きな刀を手にして、切っ先を敷石のあいだに軽く押し込んで、杖のようにして立っていた。

 そして、三人目はショートヘアの少女、もしくは長髪の少年に見える殺し屋で、この儀式において、殺し屋の役は『死刑囚に怪我をさせられた文明人』である。殺し屋は絆創膏一枚を左手の甲に貼っていた。

「あの、ここまでしなくてもいいんですよ?」

 殺し屋が言うと、三十一番目に偉い役人は袖で口を隠して、フォフォフォと笑って、

「わたしどもの国がいかに文明的であるかを知っていただきたいのですよ。外国ではわたしどもの国を非文明的だと言うものがいるそうですが、我が国は厳格な法を持っています。わたしどもは文明的なのですよ。外国人に対する、それも文明的な外国人に対する攻撃は全て死刑と国法で決まっています」

「でも、こっちは手の甲をちょっと引っかかれただけですよ? 何というか罪に対する過剰な罰を見ると、職業柄、不安になるんですよ」

 だが、役人はそれ以上きかず、国の言葉で何かを命じた。

 すぐ、監獄役人たちがふたりで死刑囚を人力車の座席から持ち上げて、首切り役人の前に降ろした。そこからは慣れたもので跪かせて、辮髪を握って体と反対側へと引っぱり、目いっぱい首を伸ばす。

 キエイ!と刀が振り下ろされると、首はころりと落ち、残った体から、ざあざあと血が流れ出した。

 監獄役人たちは首を置くと手慣れた様子で長い辮髪にとぐろを巻かせて首を飾り、その首のそばに立った三十一番目に偉い役人は殺し屋に手招きした。言われた通り殺し屋が近づくと、文明人からカメラの使い方を習った地元の男が記念写真を撮った。

 殺し屋はその夜にその国を発った。


 一か月後、殺し屋はある国の百貨店の絵葉書売り場で、北の国の流氷や南の国の椰子の絵葉書と一緒にこんな名前の着色絵葉書が売られているのを見つけた。

 題名は『野蛮の象徴』……。

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― 新着の感想 ―
[一言] 余罪があって極刑なのか、公けに抹殺する必要なのか、更生の態度が見えないからなのか、それとも。葬るだけならこのひとに頼むほうが(想像以上に高価なんでしょうか)とか妄想がはかどります。 死刑の是…
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