金魚
三題噺もどき―さんびゃくいち。
毎日、毎日。
大雨のニュースと、熱中症に気をつけろと言うニュースを見る。
テレビの中では、安全なスタジオにいるアナウンサーと、外にいるリポーターが半分ずつで写されている。
「……」
1つの国とは言え、上と下とでこんなにも、気温や天気に差が出るのだなぁと、改めて思い知る日々だ。
そんなの今に始まったことではないが。
そしてまぁ、そんなの思い知ったところで、自分には関係ないなぁと思ってしまう。
もっと危機感を抱きたいところではあるし、そうすべきなのだろうけど、あまり現実味がないものは、受け入れようがない。
「……」
一応。
数日程前には、この辺りにも大雨警報とかが出てはいたのだが、そこまでひどくはなかった。
まぁ、電車は止まったのだが、学校は普通にあったのだ。
自転車通学である以上、雨に濡れながら自転車を漕いで学校に行ったさ。
「……」
我が家は、親は仕事だから、車での送迎なんて期待できないし、バス停が近くにあるわけでもないし、タクシーなんて頼む金もない。
なので、当たり前のように大雨のなか、自転車を漕いだ。
「……」
毎度思うが、なんで生身で大雨の中を自転車で漕いでいく通学生は、わざわざ学校に行かないんだろうな。
電車が止まっている以上、その分の生徒は来ないわけで。どうせ自習とかにするくせして、来いという。
もう……自宅待機でよくないか。
「……」
まぁ、もう、終わったことだし。
そんなことを言ったところで、何も変わらないので、従うだけなのだが。
まぁ、親も親で少しは心配とかないのかこいつらはと、思わなくはないが。
行けと言うなら行くしかない。
「……」
その親は、今日は仕事ではないが、家にはいない。
家というか、まぁ、今いるのは祖母の家なのだが。
今、その祖母の家にいるのは、自分ひとりだ。
他の身内は、みんなしてどこかに行った。確か、墓参りがなんだとか、言っていた。
本来なら、一緒に行くべきなのだが、というか行くつもりではあったのだが。
昔からの風習か何かで、日ごとに振り分けられた干支と同じ干支の人は、行ってはいけない……みたいなのがあって、たまたま自分ひとりで残っているのだ。
「……」
他の日にしたところで、他の誰かしらが行けなくなるだけなので、別にいいのだけど。
むしろ、1人でこうして家の中で涼んでいていいモノかと不安にすらなるが。
それはまぁ、仕方ないので、快く受け入れた。涼しい室内サイコー。
「……」
まぁ、でも暇で暇で仕方ないのだけど。テレビはもう飽きたので消した。スマホもあまりいじる気にすらならない。
―だから、リビングに置いてあった金魚鉢を眺めている。
「……」
脈絡も何もないが、もう考えることすら割と面倒なんだ。
机の上に、大き目の金魚鉢を持ってきて。
そのすぐ近くに座って、ぼーっと見つめている。
今時こんなもので金魚飼っている人いるんだなぁとか、いつから飼っていたんだろうとか……どうでもいいことを考えながら。
気が付けば、机の上に直接頬を置いて、変な角度で見ていた。
まぁ、これはこれで……。
「……」
珍しい色合いの、淡い……何色だろう。黄色というかオレンジというか……尾の方は濃ゆいけど、というか赤っぽい……。
ん、あぁ、これあれか、腹の方が見えているから、淡い色に見えるのか。
角度が違うだけで、こんなに見え方も変わるんだなぁ……。
「……」
ひらりと尾びれを水の中で揺らしながら、一匹で静かに泳いでいる。
ただ静かに。
何をするでも。
何を見るでもなく。
何を言うでもなく。
ただ、泳いでいる。
「……」
たまに手を、金魚鉢の上に持って行ってみると、何を勘違いしてか、口をはくはくと動かす。
魚である以上、鰓呼吸なのだろうけど……こう、口を開け閉めしているのを見ると、少し苦しそうに見えるよな。
はくはくと言う呼吸音が、聞こえてきそうなほどに。
ただ餌をねだっているだけなのだろうけど。
「……」
水の中でしか、生きられなくて。
思考することもなくて。
餌も与えられるのを待つだけで。
声を上げることなんてもちろんなくて。
小さくて狭い金魚鉢の中で。
たった一人泳いでいる。
「……」
きっと、他にも仲間がいたはずなのに。
1人だけ掬い上げられて。
「かわいそうになぁ……」
なんて。
お題:掬い上げる・淡い・呼吸音