勇者一行を支援します!
神官の階級が間違ってるかもしれません
気づいた時には前世でやりこんでいたRPGにの世界に転生していた。自室にあった鏡を見て、その姿で誰に憑依したかはすぐにわかった。
「グレイ・ピール伯爵か…確か勇者一行に領地の魔物討伐依頼をかけるんだっけな?」
青緑色のサラッとした短いストレートヘアーにオレンジ色の瞳に20代後半なのに10代と間違えられるような童顔。
本編ストーリーにはあまり重要性のない脇役伯爵だった。
主人公達がここに訪れるのはストーリーの中間手前あたりで、執事から話を聞いたあたりまだ訪れてないということは始まったばかりということだろう。
「勇者達が来る前に現状の確認しておくか…」
まずこのゲームの世界のストーリーについて、王道ファンタジーによくある話とほぼ同じだ。突如魔王が現れ世界が魔物達に支配されていった。そんな中、神からの信託を受けた主人公とその仲間達が勇者となり魔王を倒す旅に出るという話。
王道でありながらもキャラクターデザイン、グラフィック、音楽は評価はかなり高く、戦闘システムも初心者にも優しい仕様になっている。
「やり込み要素と強くてアイテム全コンプとか、サイドストーリーのクリアとかも懐かしいなぁ…。まぁ唯一の欠点さえなければ…」
このゲームには唯一の欠点、それは武器や装備やアイテムと買うのに必要なお金がとにかく回収率が非常に悪いということ。
アイテムの価格に対して、入手する額とのバランスがあまりにも酷すぎること、結果ゲームの評価は常に『シナリオ良し!キャラデザ、グラフィック良し!戦闘システム良し!金策周りガチクソ!』となった。
酷すぎるあまりに攻略サイトもどこが効率が良いかと探し、RTA動画という動画でも「ここ金策ポイント」とあげられるくらいだ。
「まぁ…その欠点を含めてこのゲーム好きなんだけどな」
と懐かしさに浸っていたところ、執務室のドアをノックする音が聞こえた。おそらく執事だ。入るように促し、何があったか聞いたところ勇者一行が領地についたとの報告だった。すぐに屋敷に迎え入れるように指示を出した。
(生の勇者一行見れるとか…楽しみすぎるだろ…!)
心踊る気持ちを抑えながら、応接室へと向かった。
「お待たせしました…ここの領地の主、グレイ・ピールと申しま…!?」
勇者一行に挨拶しようと応接室を開けた途端、彼らの姿に驚愕した。
何故なら、彼らの装備が初期装備のままだったことだった。既に耐久性もないに等しい近い状態並みにボロボロだ。
それだけでなく勇者の顔色が悪い、おそらくだが毒状態なのだろう。
「使用人集合!!」
急いで呼び鈴を鳴らし、使用人を招集させた。
「彼らを即、浴室の間に連れて行き洗ってあげてください!あと勇者がおそらく毒に侵されてる可能性があるから私の主治医を読んで治療も!」
使用人達は大急ぎで彼らを連れて行った。連れの中に見習い神官の女性がいたが、状況的に解毒魔法は覚えているだろうけど、恐らくMPが切れたせいで治せなかったのだろう。
「いや…いくら金の集まり悪いからって…あれは相当な縛りプレイだろ…ってゲームだけどここ現実だから、あんなの続けたら死ぬだろ…。」
一行の酷さに頭を抱えた。
「よし…!本人たちは嫌がるかはわからないけど、あの手を使うか」
紙とペンを取り出し、メモを書き上げた。それを執事に渡して、明日の午後までに揃えるように伝えた。
治療と沐浴を終えた勇者一行には、話の場は明日の午後に設けるので今日はしっかり食事をし、しっかり休むように伝えた。
夜頃、使用人の報告によると食事の時に一行は久々においしい食事に食べれたことに涙を流し、睡眠もぐっすり眠れたとのこと。
次の日の午後再度応接室に彼らを呼び、ストーリー通りに魔物の討伐を依頼した。
「依頼受けます。…ただ装備のメンテナンスをするのに時間をいただけないでしょうか?」
「あぁ…その必要はございません。セバスチャン!」
「ご主人様、例のリストにあった物は全て揃えております。」
執事は使用人達を応接室に入れた。彼らは武器、装備、アイテムを持っていた。
「こちらをお使いください。もちろん返却は不要です。」
使用人達が持ってきたのはストーリーの最後の街で手に入る店の中では最高クラスの装備一式とアイテムだった。
流石に隠しイベントで手に入る最強装備や確率でしか落ちない最強装備は時間がない為集めることはできなかったが、ストーリークリア目的のみでなら強いとされる物であれば伯爵の財力でもどうにかなる範囲内だ。
幸いなことはこのゲームには武器に対してレベルの制限がないということ、つまり途中までは楽に行けるということだ。
ちなみにこれは一式のお金は全て伯爵のポケットマネーから出た物で税などには影響はない。
ある意味正しい金の使い方だと心の中で悪い笑みを浮かべていた。
「こ、こんな…高そうな物を…い、いいのですか?」
狩人の少年が目を輝かせていた。
「はい、昨日のあなた方の装備や状況を見て全てを察しました。私の勝手ながら貴方方の魔王討伐の物資や装備など支援致します。」
「で、ですが…楽をするのはよくないと…魔王討伐は神からの最大の試練です…厳しく行かないといけないと司祭様から…」
(そうだった…彼女はゲームでもそうだったが真面目すぎる子だった。)
神官見習いの彼女は原作でもそうだが根性論な司祭の元で育った為、前世でいうブラック体質なところがあった。
「貴女様のお気持ちはわかりますが、魔王は…そんな皆さんを待ってくれないと思いますよ?」
神の試練だから、貧しい装備でやら清貧でいるのが美徳やら正直、魔王討伐にそれらの精神は不要でないかと話した。
魔王討伐は明らかに緊急性も高く、様々な人の命に関わること。魔王の侵略も勇者一行を待つことなく進めており、それにより苦しんでいる人々もいる。
「最小限の犠牲で済ませる為にも…これらを受け取って頂きたいのです。」
「…わかりました。我々への支援宜しくお願いします。」
勇者には伯爵の説得が通じたのか、装備一式を受け取ってくれた。
また旅の途中で必要になったものがあった場合の連絡用の道具も渡した。
その後魔物討伐を終え、勇者一行は旅を続けた。
そして1ヶ月もしないうちに魔王を倒し、世界に平和がもたらされた。
「めでたしだろうけどね…ストーリー的には…」
伯爵はある書類を眺めていた。
それは司祭によって、パワハラにあった神官、元神官達の被害リストと受けた内容に関する報告書だった。
「ED後はそれぞれの故郷や帰るべき場所に帰る。彼女はあの司祭の元に帰ったら、全てバレたら大変なことになるしな…。というかコイツ…見事に典型的なクソ上司だ。」
伯爵家だから権力は弱いが、前世の経験にある、情報の拡散させる力や方法は少なくともこの中世に近いファンタジーの世界よりも強い。
「それじゃあ…綺麗な水の中に毒薬1滴垂らしますか…」
彼は匿名という事で様々な人脈を行使し、司祭のパワハラの酷さを新聞や掲示物で公表した。
結果教会への不信感が一気に上がり、寄付や祈りにくる者達は減った。
その情報は教皇の耳にも直ぐに入り、教会への信頼を下げたと大激怒、直ぐに司祭は追放された。
教皇は彼女と被害者達に謝罪をし、自分もそのような被害を見抜けなかったことに責任を感じ辞任したとのこと。
新しい教皇と司祭は教会のやり方を皆で見直そうと話し合い、新しい体制になった。
後日、勇者一行からお礼の内容と近況の手紙が来た。
内容は勇者と魔法使いが結婚したこと、見習い神官が司祭になれたこと、狩人は自分の弟子が出来たことだった。
「それじゃ…皆に祝い金送らないとな!」
彼は急いで祝い金の準備を始めた。
あとがき
勇者一行
勇者(男)、魔法使い(女)、見習い神官(女)、狩人(男で元盗賊)
最近、金策周りが厳しいと言うゲームがあると聞いて書きました。
あとRPGとかも考えたら初期お金少ないのキツくないかなと…